そして――
最終話 一番やりたかった事
そして――僕は今日も自室でアバターを調整している。『チョメ子』と『モカ』を改良して一般公開出来る状態にまで仕上げ、バリエーションを増やすのが僕の今の仕事だ。
そんな時扉が開いて桃香が入って来た。トレイに紅茶と二人分のカップが乗っている。
彼女は部屋の隅にある古いキャンバスと画材道具を見ると首を竦めて嬉しそうに笑う。
「ふふ……ミユちゃん。調子はどお?」
「まあまあかな? もう少ししたらアマノさんにデータを送るから、オーケーが出たら桃香にメイクをお願いする事になると思う。それまではアバター調整の練習してていいよ」
「うん、分かった。今、頑張って作ってるから後で見てね?」
あれから桃香は自分で最初からアバターを作ろうと頑張っている。彼女がスマートグラスを掛けて作業を再開するのを見ると僕はふと自分のアバター・スロットを眺めた。
グラスの中にはもう一つの世界が広がっている。目の前には三つのスロットが並んで真ん中に立つ少女アバター。未確定の『エックス』に女の子を表す『子』で『チョメ子』。
それは会えなかった女の子をモデルとして僕が作った少女アバターだ。
僕はアバターを作るのが好きだ。作った物を見て使った誰かが喜んでくれる。その為に僕はアバターを作る。デザイナーの評価はその『誰か』に違和感無く受け入れられる事だ。
もう罵倒されても構わない。それは僕の作った物への評価では無いからだ。そしてたった一人でも僕を支えて励ましてくれる人がいる――それだけで僕は何度でも歩き出せる。
より良い物を、喜んでくれる『誰か』の為に。自分の評価の為ではなく『誰か』の為に。
それ以外のノイズを排除して、父さんとは違う意味で僕は自分の世界を広げ続ける。
「――ねえ、桃香? 僕は桃香の事がずっと好きだったんだよ」
初めてはっきり口にすると彼女は振り返り、恥ずかしそうに笑った後で小さく頷いた。
チョメ子さんxアバターる!(了)
チョメ子さん×アバターる! いすゞこみち @komichi_isuzu
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