片隅の敗北救世主

よすが 爽晴

これが世界の結果だ

 天井まで貫いた、感情を殺した。

 我ながら完璧だったと思う。犠牲はかなり払った上にそれはけっして安いものではない、けれども必要経費であったのは事実だし自分自身がそれは一番わかっている。わかっているのに、このぽっかり空いたなにかはわからない。

「いや、わかっているけど」

 ワンルームのような世界の片隅で肩を落として、自分の前に広がるそれに目をやった。そう、完璧だったと今でも思っている。その考えに変わりはないし、それ以上の策だって存在しない。自分のベストから導き出された結果が、そこにある。

 今日という日のために寝る時間も食費も削った、それしか方法がなかったから。

 誰かを助ける、それだけのためだった。本当に、それだけの話だ。

 思えば始まりは、ちょうど一か月前だった思う。声が聞こえたのだ。ただ機械的にそれを伝える声につられて、俺はなにも考えず銀行へ走った。自分の貯金から引き出したそれを勢いに任せながら、カードへ変えていく。詐欺に合っているわけではない。ただ、誰かを救いたいだけなのだ。

 そのまま家に帰った俺は、そのカードで鍛冶屋へ駆け込んだ。それはもう、一番強い武器がほしかったから。けれどもどうやら鍛冶屋も不調だったようで、なかなか納得のいく武器を作ってはくれなかった。けど、それでもいい。

 だって俺は、鍛冶屋が限界になっても問題ないよう軍資金を持ってきたのだから。唯一の支払い方法であるそのカードを差し出すと、鍛冶屋はまた次と武器を生み出してくれた。それが何回か繰り返され、俺のカードもそろそろなくなる頃。

 そんな時に、鍛冶屋が納得するような武器が完成した。

 俺は鍛冶屋へお礼を言いその武器と共に人助けを始めた、最初は雑草取りや困っている人への声かけ。お礼にともらった鉱石を資金にモンスターへ立ち向かい、討伐する毎日。正直、かなり自信はあったのだ。だってこんなにも頑張ったし、それが俺の出せる全力だった。誰かに後ろ指をさされようと、そんなのは気にしない。だって、俺が自分で選んだ道だったから。その分の代償を払い、その分の努力をした。

 だから、俺が一番貢献したと思っていた。なのに、それなのに。


「なんで、どうして今回のイベントこんなにもみんな本気なんだよ……!」


 スマホの小さな液晶に映し出されたアプリゲームの画面を横に、俺はテーブルへ突っ伏す事しかできなかった。

 確かに、今回のイベントは少し仕様が違っていた。いつもならただ特攻付きのキャラカードを使い素材集めの周回をするだけだったのに、今回はガチャの武器のみが特攻付きで、それがないとどう考えてもランキングに入れなかった。これだけを聞けば俗に言うクソゲーなのに、どうして俺がこんなのも全力を注いだのか。

 ――純粋に、報酬が推しだったからだ。 

 ただ、それだけ。それだけだが俺には重要な事で、がむしゃらに走り続けた。ガチャだって、天井を貫いた。あのイベント開始日を告げる無機質なアナウンスから、俺の勝負は始まっていた。だから、こそ。

「……ランキング、ギリギリ一枚しかもらえなかった」

 俺の順位はギリギリ三桁、このラインに配布されるのは、一枚だけだった。それが、言葉では言い表せないほどに悔しい。

 本当は四枚ちゃんと取って、限界突破をさせたかった。ただそれだけだったのに、結果はこのザマだ。

「もう俺、ゲーム引退しようかな」

 誰に言うでもなく言葉を落としながら、ゲームのお知らせ画面へ目をやる。確か、次のイベントが発表される頃だった気が――

「……ん?」

 待て、今なにか見慣れた髪が揺れていた。

 明らかに特徴的な表情と、瞳の色。間違いない、これってまさか!

「次のイベント実装はガチャ、引けば出るじゃん!」

 それならそれで、実質タダ! 

 そうとわかれば話は早い、また銀行に行かなきゃ。

 俺はさっきまでの重かった気分を部屋に置き、財布片手に銀行へ飛び出していった。


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片隅の敗北救世主 よすが 爽晴 @souha

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