みーちゃんとまーちゃん

@yumesaki3019

第1話

 「例えばさ。私が他の人に盗られそうになったらどうする」

 カレーを作りながら。私はソファーでぐだついているみーちゃんに意地悪く問う。

 暫くしたのち、めんどくさそうな雰囲気で返事が返ってきた。

「別に、そんなこと起きないでしょ。まーちゃんだもん」

 思わず吹き出しながら私は言った。

「まーちゃんだもんって。自信たっぷりだね」

 みーちゃんは自分が何を言ったのかも気にせず、ソファーに寝そべりながらテレビを見ている。今はクイズ番組を見ているみたいだ。頭を捻らせても分からなかったらしい。

「まーちゃん。この問題分かる?都道府県の問題なんだけど、あと少しの所で分からないの。助けてまーえもん。」

 カレーの火を止め私は画面を凝視する。あぁなんだ。簡単な問題じゃないか。私は自信たっぷりに答える。

「これは佐賀県だよ。長崎のお隣さんだね。」

「ごめんまーちゃん。長崎ってどこだっけ。」

「みーちゃん長崎すらわからないの?びっくりなんだけど。小学校の社会の授業寝てたの」

 ここぞとばかりに意地悪をする。困っているみーちゃんを見るの楽しい。

「寝てたわけじゃないもん!ちょっと窓の外見てただけだもん」

 みーちゃんはソファーから立ち上がり私に詰め寄ってくる。みーちゃんは小さいから可愛くなってしまうんだけどね。

「まぁまぁ、都道府県が分からなくても生きていけない訳じゃないからね。私は良いと思うよ。都道府県の分からないみーちゃん。」

「その呼び方やめてよ、ムカつくんだけど」

 私は面白がってまたも煽る。煽りセリフが口から漏れ出す。

「おぉ、怒った怒った。まだそれだけの知性はあったんだね。都道府県の分からないみーちゃんには」

「殴るよ。良い。殴っちゃってもいいよね。それだけの事をしたからね。まーちゃん覚悟はいい?」

 ぷんすか、という擬音が似合う怒り方だなぁ。可愛いよ、みーちゃん。私は笑いながら続ける。

「うん、いいよ、みーちゃん。私の中においで…。抱きしめてあげるから。」

「その言い方やめてくれる。私本当に怒ってるんだよ」

 そう話して、涙目になって顔を赤くしてるみーちゃん。可愛い。外に出したら汚らわしい男どもにすぐ襲われるだろうな…そんなことさせないけど。お腹の虫は暴れたりないみたいだ。殴られてあげようかな?

 みーちゃんは黙って腕に拳をぶつけてくる。うん、全然痛くない。笑いを堪えながら言う。

「みーちゃん、気は済んだ?」

 釈然としない顔で言ってくる

「済んだよ。まだもやもやするけど」

 おちゃらけて私は言う。

「やっぱさみーちゃん、暴力じゃストレス発散は出来ないよ。愛だよ、愛が決め手なんだよ」

 みーちゃんが返事をする前に、私はみーちゃんを抱きしめた。あぁ、やっぱりみーちゃんはいつ抱きしめても良い匂いがする。

「いきなり何。また気紛れ?」

 なんてみーちゃんは言うけど、抱きしめられてるみーちゃんの声はいつも震えてるんだ。本人はクールを気取ってるみたいなんだけどね。

「うん、気紛れ。抱きしめたいなーって思っただけ。」

 だって、可愛いんだもん。折角二人きりで生活してるんだから何回だって抱きしめあっていいじゃない。みーちゃんはやれやれと冷静を気取って言う。

「もう、仕方ないんだから」

 思わず口から零れる。

「いやいや、それは私の台詞じゃないかな」

 単純に疑問に思ったのだろう。

「なんで?」

 とみーちゃんに聞かれる。

「べっつにー」

 


 「あちゃー…カレーこがしちゃったわ。みーちゃん大丈夫。食べれる?」

 私は申し訳なく感じみーちゃんに聞いた。みーちゃんはカレー好きだからね。

「食べれるよ。作ってくれてありがとう」

 ちゃんと感謝できる。それがみーちゃんの良いところだ。食事しながら思い出話をしていた。

「そういえばみーちゃん、大学に何か忘れ物したとか言ってなかった?私取ってこようか。」

 今の幸せ生活もまだ日が浅い。それなりに後悔も多かった。私は全部捨てて構わないけど、みーちゃんの笑顔が曇るなんて許せない。

「まぁまーちゃんが取ってきてくれるなら嬉しいけど」

「よし!じゃあ明日久々に外出して取りに行きますか!みーちゃんはお留守番お願いね。何かあったら連絡してね。」

 お留守番…まぁみーちゃんも大学生だしテレビもあるし、きっと大丈夫だろう。家に居ればドアを開けない限り奴らとは会わないしね。

「あ、あの…。まーちゃん。無理はしないでね。あの人達に出会うかもしれないし」

「みーちゃん…もしかして心配してくれてる?嬉しいな」

 みーちゃんは珍しく語尾を強めて言った。

「心配するよ。だって私達は」

 言葉を聞き入る前に私が補足する。

「大学を休んで、勝手にアパート借りて、人間関係リセットしちゃったもんね。」

 私達は、全てに疲れてしまった。大学に行くことも仕事に行くことも何もかも全部。だから全部捨てた。二人の世界で生きていくと決めたんだ。

「きっと心配してる人達や、私達に付け入ろうとする人だっているよ。皆寄ってくるよまーちゃんが心配だよ。私の忘れ物なんていいからまた明日も二人でいよう?」

 私だって外には出たくない。けれど、私には不満があった。私はみーちゃんにぶつける。

「でも。みーちゃん偶にぼーっとしてるよね。その忘れ物が関わってるんじゃないの。」

 図星だったようで、少し黙ったあと、みーちゃんは語りだした。

「美術室にね、私のスケッチブックがある筈なの。それがどうしても必要で。あのスケッチブックには私の夢や宝物が詰まってるの。だから…」

「取りに行きたかったんだね。分かったよ。私頑張ってくるね」

「うん…」

 そこから私達の会話はなかった。カレーを食べるのに集中していたのもあるかもだけど。このアパートで同棲して以来初めて私達が別れる。その現実をみーちゃんは直視したくなかったのかもしれない。私だって不安で一杯なんだけど。話してる最中に何処か遠くを見てしまう彼女を見るのももう御免だった。それに、私も大学に忘れ物がある。いずれまた出席すべきだとは知っている。知っているけど。見たくなかっただけ。


 その日の夜。私達はダブルベッドで寝てるんだけど。私は寝れず、ぼんやりと窓から入る月を見ていた。

「いやぁ、月が綺麗だねぇ。」

 みーちゃんの頭を撫でながら私は呟く。そういえばみーちゃんとのあの日も月で照らされていたなぁ。もしあの日がなければ私はどんな人生を送っていたのだろう。分かりたくもない。

 深夜だからか、私は不安に駆られていた。『明日はどうなってしまうのだろう。この生活もいつまで続けられるんだろう。この家を見つけられたりはしないかな』と。昼間の事を思い出し、ふと思ってしまう。

「私の考えている【これから】とみーちゃんの考えている【これから】は同じ…なのかな」


 断言できない自分が嫌いだ。けれど、打ち明けられた時、私は思ってしまったんだ。みーちゃんは美術にまだ未練があるんじゃないかと。私との生活に飽きが来てるんじゃないかと。それとなく薄い壁を感じてしまったんだ。私も私で忘れ物があるから追及は出来ないけどね。

 私達は二人きりで生きていきたかった。そうありたかった。だからバイトも勉強も未来からも逃げ出したんだ。ずっと幸せでいたかったから。けれど、もし彼女がそれに『飽きた』ら?大切なものが私以外に出来てしまったら?私は、切り落とされてしまうのかな。そんなの嫌だ。もしかしたら、明日『美術室になかったよ』と嘘をつき、大切なものを壊すべきなのかもしれない。

「いや、それは嫌だ。そんなことしたらみーちゃんに嫌われちゃう」

 みーちゃんのほっぺをぷにぷにしながら呟いた。大丈夫みーちゃんは私を捨てたりなんかしない。そう信じなきゃ。これから一生一緒に居るんだから。それくらい当然でしょ。

「大丈夫、私ならどうだろうとやり遂げられる。」みーちゃんの耳をふにふにしながら呟いた。よし、もう寝よう。

「おやすみ、みーちゃん…」

 みーちゃんの手を強く握って私は眠りについた。


 次の日。

「大丈夫まーちゃん?水筒は持った?ハンカチは?メモ帳筆記用具は?防犯ブザーは?スマホは充電器は?」

 玄関口でみーちゃんは一つ一つ確認をしてくれる。今の私は私服だ。パーカーにジーパン。子供っぽいかもしれないが外着はあんまり持っていないんだ。私は言う。

「そんな心配しなくても大丈夫だよみーちゃん。それじゃ行ってきます」

 何か物欲しげにみーちゃんは話す

「ね、ねぇ…その…行ってきますの…」

「あぁ、そうだね」

 私はみーちゃんを強く抱きしめた。照れながらもみーちゃんは続ける。

「ち、ちが、もう…」

 ちょっと違ったようだ。私は抱きしめることで幸せになるんだけどみーちゃんは違うのかな。

「…うん、それじゃお留守番よろしくね。行ってきます」

「いってらっしゃい!!」

 私はみーちゃんに見送られながら大学を目指した。



 

 久々の大学はジャングルの様な。恐怖に満ちていた。友達もおらず、間取りも覚えていない。道行く人に聞いて回るしかなかった。そこはまぁ、精神が削れたとはいえ何とかなったんだけど。問題はその後だった。

 「お、まゆじゃんひさしぶりー!元気してた?」

「あらあら、まゆさんじゃないですか。先生嬉しくて仕方ないですよ。」

 美術室に入る以上、サークルの皆との再会は必然だった。私はしどろもどろに話す。

「う、うん。久しぶりですね…」

 前はすんなり話せては居たんだけど、飲み会が終わって以来どうしても皆【獣】に見えて直視することが出来なくなっていた。

「ちょっとスケッチブックの忘れ物を取りに来て…直ぐ帰りますので」

「いやいやぁ、そんなこと言わずに今日ずっといようよ!!ね!!」

 と一番の獣である男の先輩が肩を組みに来る。貴方が居る時点でもう戻るつもりはないんですよ。

 私は不快感を隠しながら先生に尋ねる。

「先生、この教室で人形の絵が沢山書かれたスケッチブックは見ませんでしたか?」

 先生は困り顔を見せる。

「いやごめんねぇ、特に思いつかないわ」

 なんだ。仕方ない。落胆しながら私は応対した。

「なら仕方ないですね。誰か持っている人は居ませんか」

 ピンと来たのかとある男子が名乗りをあげる。

「俺知ってるかも。まゆちゃんちょっと来て。」

「はい!分かりました。」

 私は廊下まで案内され二人きりとなった。

 男の顔は何処か意地悪く感じる。

「ねぇまゆちゃん。そのスケッチブック俺が持ってるんだけどさ。取引しない?渡す代わりに住所教えてよ」

 あぁ、これだから男は、嫌いだ。

「住所教えてくれるだけでいいからさ。一緒に遊ぼう??」

 私は胸元に隠していたボイスレコーダーと防犯ブザーに手をかけ鳴らそうとしたその時

「あ、あの…私の友達に何してるんですか…」

 いる筈のない、【私の彼女】の声が聞こえた。



「いやー、まさかみーちゃんがついてくるなんて思わなかったよ」

 無事に男を巻いた私とみーちゃんはとりあえずどこかで一服しようと近くのカフェに来ていた。お金を余分に持ってきていて良かった。このカフェに来たのもいつぶりだろう。2人きりでカフェに来るのは二回目かな。その時も誰かに追われてたっけ。みーちゃんは真面目な顔で言う。

「ごめん。少し不安で。」

「あー、一人じゃ寂しいよね。ごめん、もっと早く帰ろうとするべきだったね。」

「それもあるけど、まーちゃんも何か探してるんじゃないかなって」

 指を弄りながら私は言う

「あら、バレた?なんで分かったの」

 みーちゃんはドヤ顔で言う。

「乙女の勘かな」

 なにそれ、分かんないんだけど。お腹も空いたし、そろそろ聞いてみよう。

「まぁ、いいや。今はとりあえず、何か奢るよ。何食べる?パンケーキ?」

 さっきまでの顔は何処へやら、子供っぽい素顔を見せる。

「うん!パンケーキ食べる!」

「……追加でパフェも頼もうか?」

「うん!!!!」

 あぁ、可愛いなぁ。


 私達は本屋さんに来ていた。TwitterやTVで話題になってた小説を買う為だ。まぁ、これは私の我儘だったんだけど。私の趣味は読書とゲームなんだけど、みーちゃんはどちらにもあまり興味がない。だから世界から逃げ出して以来、買う機会もなかったんだけど。今日また買えるようになるなんてね。

 「みーちゃん、大丈夫?暇じゃない?」

「別に、平気だよ?」

 なんてみーちゃんは明るく話すけどきっとつまらない筈なんだ。早くあの本を探さないと。

 私のお目当ての本はとあるシリーズ本だ。神社と縁のある私はその本に惹かれて当然だった。今や9巻まで続いている大人気シリーズだ。いつか買おうと思っていたんだ。けれど。

 店員から申し訳なさそうに伝えられる。

「えー…ないですね」

 私は言う。

「え、全部ですか?」

「はい…つい最近全巻セットで買った方が居まして…」

 みーちゃんに肩に手を置かれ、言われる。

「…ドンマイ、まーちゃん」

 店員は続ける。

「ご予約しますか?店頭でお受け取り出来ますよ」

 私はまぁ、手に入らなくても良いけど。いや手に入らなくて悔しいけど、みーちゃんに気遣われるのもね。

 私が言うよりも早くみーちゃんは言った。

「あ!予約します!」

「えっちょっと!?」

 それじゃあまた外出する事にならないかな。なんて思ったりしたんだけど。口出す隙もなく、

「はい、二人できます!」

「また次の来店をお待ちしています!」

 店員に伝えられた私達は勢いのまま本屋さんから出た。

 疑問をみーちゃんにぶつける。

「いや、なんで?また来る事になっちゃったじゃん。外出嫌じゃないの?」

「…まぁ、偶には、良いかなって…」

 私は、そうでもないけど、みーちゃんが出たいなら…また本買いに行くべきなのかな…。私は熟考した後、疑問も含めながら告げた。

「みーちゃんが怖くないなら、私も付いて行くよ。

 それに、気になる事もあるしね。」

 またも子供の様に顔が明るくなる。

「良いの!?まーちゃんありがとう!」

「それよりみーちゃんさ、もうスケッチブックは良いの?未練ない?また突撃しに行く?」

 そう。パンケーキや本で誤魔化してたけど、それだけが気がかりだった。結局最低ナンパ男のせいで手に入らなかった。

 悔しそうに、少し泣き出しそうにみーちゃんは言った。

「私だってまだまだ欲しいよ。悔しいよ。でも、無理ならもう仕方ないじゃん。だから、今手に入りそうな物を貰おうかなって。」

「なるほどね。ごめんどういう事?」

「まーちゃんやっぱり分かってないじゃん!」

 私は分かった様で分かってなかった。なんで『今手に入りそうな物』が『本を予約する』事に繋がるんだ。でも、それなら。


「まぁまぁ、どうせ次来るならさ、服も買いに行かない?」


 という訳で。私達は服屋さんに来ていた。とは言ったものの。私達にファッションセンスはあんまりないし、私達は『お互い』以外の人間からどう思われてもどうでも良い。可愛いらしい服を暇潰しに見に来たって感じだ。

 今はみーちゃんが試着してる。その間に私はふらふらとパーカー類を探していた。私は、パーカーやTシャツと言った爽やかな服が好きだ。スカートよりもジーパンとか動き易い服で居たい。

 みーちゃんとは珍しく意見が分かれる。みーちゃんはなんでも着こなせるけど、私は違うから、貧乳だし背も低いし、子供っぽいし。髪が短めなのも可愛いを諦めているからだ。短髪の方が色々と楽だしね。でも、そんな私を「カッコいい」とも「可愛い」とも何度も言ってくれたのがみーちゃんだった。真意は分からないけど、それが嬉しかった。だから、私は、一緒に居ると決めたんだ。

「まーちゃん着替え終わったよー!!見てみてー!!」

 頭を回してる私を他所に純粋な言葉が飛んでくる。きっと何も考えずに【好きだから】と選んだ服なんだろうな。みーちゃんはカーテンを開き、姿を見せた。

「みーちゃん…うん、すっごく可愛いよ」

 本心だった。白のワンピースが眩しい笑顔に似合っていた。みーちゃんは心から嬉しい声で言う。

「えへへ…そうでしょそうでしょ。次も見せるから待ってて!」

 またもカーテンを閉じる。そうだ。次からスマホで撮ろうかな。この可愛いさを収めたい。眺めたい。

 そういう感じで、みーちゃんのファッションショーは終わった。

「楽しかった!次はまーちゃんも着替えようよ!」

「えっ?いや私はいいよ」

 私が着替えても仕方ないだろう。貧乳だし、短髪だし。

「そう言うけどパーカーとかスカートも籠に入れてるじゃん!本当は着たいんでしょ!そうだ、色違いのワンピースも着ようよ!お揃いにしよ!!」

 腕を掴まれそのまま試着室に入れられる。突然個室で身体が密着して…。

「ちょっちょっと!?」

 いつもと雰囲気の違う、白のワンピースを来たまーちゃんが居る。

「ね?私も一緒に個室に居るからさ」

 それだけで顔が真っ赤になってしまいそうだ。さっきまでの子供らしさは何処に行ったの。可愛いすぎるじゃんか。

「それじゃあ…早速私と色違いのワンピース着ようか。ほら上着抜いて。手伝ってあげるから」

 普段の仕返しのつもりなのか。意地悪く私の服に手を入れてくる。ただでさえ、予想外なのに。

「みーちゃん、ずるいって。ずるいよ」

「さーて、どうしてあげようかしら。私が仕込んであげるからゆっくりしなさいね」

 なんてTVで覚えたのかお姉さん口調で服を脱がせてくる。ただ着替えるだけなのに、心が焼き焦げてしまいそうだ。

「うんうん、やっぱり良いじゃんか。似合ってるよ。」

「うぅ…みーちゃん本当にずるいよ…」

 私は、みーちゃんに手取り足取り着替えさせられた。私は青のワンピースだ。確かに好きな色だけど、こんな、可愛いの着てしまって良いのだろうか。

「ほらほら、まだまだ服は沢山あるわよ?私が来た分も一緒に着ちゃおうよ。お願いだから、ね?」

 ダメだ、目が燃えている。完全に獲物を見る目になっている。こんな目をするみーちゃんを見たのはいつぶりだっけ。

「い、いや…怖い…」

「さぁ!始めるわよ!」

 気取ったお姉さん声のみーちゃんによって私もファッションショーする事になった。後から聞いた話なんだけど、こっそり写真を撮っていたらしい。偶にこの写真の事で弄られる事になる。楽しいけど、最悪だ。



「みーちゃん…もう、疲れたよ…」


 普段から着慣れない服を沢山着替えた私は疲れ果てていた。そんな私をにやけながら見つめてくるみーちゃん。

「いつもとは違うまーちゃんが見れて楽しかったよ。ありがとう、そしてごめんね?」

 あぁ、本当にみーちゃんのそういう所が、相手に謝れる謙虚さや純粋さが本当に、可愛いと思う。

「いや、良いよ。みーちゃんのファッションショーも見れたし」

 楽しかったし。

「さぁ!まーちゃん次は何処行く?ね?」

 あんなに着替えたのに、全く疲れていない。むしろ元気いっぱいみたいだ。

「そうだね…次は」


 私達はゲームセンターに来ていた。

「色々あるけどどうする?」

 明るく楽しげに笑う。

「私ね!クレーンゲームしたい、メダルゲームもしたい!ね、遊ぼう!!」

 うんうん、楽しげなみーちゃんが見れて何よりだよ。

「私ね、人形欲しいの、早く行こう??」

 私は答える。

「あぁ、そうだね。早速遊びに行こうか。逸れない様にね」

 私は手を握ったまま遊び歩いた。


「ねぇまーちゃん。私ね、実家に人形があるんだ。」

 メダルゲームをする中、みーちゃんはぽつぽつ話した。

「小学校の時にゲームセンターに幼馴染みと遊びに行った時にクレーンゲームで貰っちゃったんだ。

 ずっと大切にしてたんだけど、実家を出た時に持ってき忘れちゃってさ。何となく今日欲しくなっちゃって。だからさ、また手に入って嬉しいよ」

 ペンギンのぬいぐるみを撫でながら笑う。

「そう…それは良かったね…」

 あぁ、ダメだ。疲れが出てしまう。今日だけで色々駆け回ったからね…良くやったよ私。

「まーちゃん大丈夫?」

「ごめん、大丈夫じゃないかな…」

 全体的に身体が重い。しんどい。

「……もう帰る?連れ回してごめんね?」

「あはは、みーちゃん大丈夫だよ。私は元気だから」

 心配げに語りかけてくる。

「もう!みーちゃんは無理しがちなんだから。ごめんね、もう帰ろう」

「ごめん。気遣いありがとう」

 腕を連れられ、肩を支えられる。私達はふらふらとゲームセンターを出た。


「「ただいまー!!!!!!!」」


 玄関を開け部屋に戻り、ソファに倒れ込む私。もう限界だ。無理、一歩も歩けない。

「まーちゃん大丈夫!?!?ちょっと待ってご飯作るからね!!何が食べたい!?

「うん…お願い…私疲れた……肉じゃがでお願いします」

 みーちゃんもそれなりに料理が出来る。特に肉じゃが絶品で隣人に自慢したい程だ。大学にいた友達にもレビューしたい。しかし、カレーの残りと肉じゃが…私は大好きなのだけど、みーちゃんは大丈夫なのかな?。なんて重い頭で考える。…私には、疲れた時にすら頭にみーちゃんが居るんだな。嬉しい。


「出来たよー!はい、肉じゃが!」

「ありがとうみーちゃん。」


「「頂きます!!!」」


 疲れからか私達に会話はあんまりなかった。ご飯を食べて活力を出さないと。まだ一日は終わってないから。

「そういえばまーちゃん。ショーケースに買った服入りそう?」

 あー、確かに。今日は何着も買ったからなぁ。入らないかもしれない。私は言う。

「そうだね、色違いのワンピースはみーちゃんのと一緒に入れて良いかな?」

 みーちゃんも言う。

「うん、良いよー。話変わるけど、人形は何処に置いて欲しい?枕元の方が良い?」

 いや、枕元は私とみーちゃんの時間を邪魔されるみたいで嫌だなぁ。なんて言える筈もなく。私は言った。

「人形は窓際に置いた方が良いんじゃない?人形も外みたいでしょ?」

「えーっひとりぼっちで可哀想じゃん?」

 なにそれ、私と人形どっちが大事なの。と言いそうになる。疲れからか、考えが悪い方向に向かってしまう。

「ならさ、玄関口におけば?そこなら毎日顔を会わせる事も出来るし。寂しいなんて事はないでしょ」

「そうかなぁ…そういう物なのかな。」

 間髪入れずに返す。

「そういう物だよ」

「……何か怒ってる?」

 まさか、人形に怒るわけないじゃん。私は大人ですから。

「別に。それよりどうする?どっちが先にお風呂入る?」

 みーちゃんが返事をする。

「あ、なら私が入る!もし良いなら」

「なら決まりだね。お願いね。私は家事終わらせてTV見とくから。」

「うん、分かったよ。…まーちゃん今日お疲れ様。」

「うん、お疲れ様。」



「カレーは、汚れが落ちにくいんだよね…特に何も考えてなかったなぁ」

 カレーを洗剤につけ、皿洗いを終わらせた私は、床に落ちている私物や服も片付けていた。

「あ……」

 みーちゃんが外出中ずっと抱えていた人形を見つける。これも何処かに片付けないと。

 ……。

 私は何となく、人形を手に取り、みーちゃんがしていたみたいに顔を埋める。

「…みーちゃんの匂いがする。」

 やっぱり匂いがついていた。勿論、それは仕方ない事なんだけど。人形か…。

「私は、なんか、嫌なのかな」

 そういえば、幼馴染と一緒に取ったと聞いたな。それとは別の人形、なんだけど。見る度に思い出すのかな。折角私達の世界なのに。

 人形に埋まりながら考える。いや、それを言えば私も同じか。同じ様にシリーズ本を買おうとしたんだ。私もそれを見る度に大学の頃を思い出してしまう。みーちゃんもそれが嫌だったりするのかな。気遣いが足りなかったかな…。疲れてたからって、私は。

「ごめんね、みーちゃん」


「…なにしてるの?」

 服を着たままのみーちゃんが見ていた。見られていた。

「嘘っ何で!?これは違うのなんでまだお風呂入ってなかったの」

「ちょっとボディタオルを忘れちゃって。何してるの?」

 その顔はまるで新しい玩具を見た様な顔で…あ、ダメだ。弄られる。

「これは、違うの」

 必死に否定してももう遅い。

「ふふっ顔真っ赤だよ。」

 じりじりと腕を広げ私に向かってくる。正直滅茶苦茶怖い。

「え、何?どうしたの??」

「ねぇねぇまーちゃん、一緒にお風呂入ろう?しっかり弄ってあげるから…ね」

 そう言ったみーちゃんは私に襲いかかってきて…。


 私はあれよあれよと言う前に産まれた時の姿にされ、バスルームに二人きりになった。ぺたんこな私に比べ豊満だ。一緒に風呂に入る時はその…【真剣な時】にしかない。入るのも久々だった。

「もう…今日は心の準備が出来てないから…みーちゃん、お願い、ね?」


「いや、私はもう出来てるよ?あんなに可愛いまーちゃん見ちゃったら愛したくもなるよ」


 すごく嬉しいけどもうダメだ。みーちゃんが直球に【可愛い】や【愛】を言う時は私を攻め立てる時しかない。私は、これから愛され尽くされちゃうんだ。


「や、やめて…」

「そんな言っちゃって、口だけの癖に。人形に嫉妬してたんだね?可愛いね、今日の試着姿もすごく可愛かったよ、愛おしかったよ」


「みーちゃん、そんな、言わない、で…幸せすぎて訳が分からなくなるから…」


「疲れてた時も、料理してる時も、走ってる時も、本がなくて落ち込んだ時も、ゲームセンターに付き合ってくれた時も、美味しそうにパンケーキを食べてた時も、家を出た時の寂しげな顔も、さっき人形に嫉妬してた時も、全部、ぜーんぶ、可愛いかったよ、好きだよ」

 そう言いながら、彼女は私を抱きしめた。

「もう…みーちゃんはさ…もう…」

 ずるい、ずるすぎるよ、なんて思うまもなくみーちゃんは言う。

「なーに?可愛いまーちゃん?」

「私も…みーちゃんの事、可愛いと思うよ」

「そう??ありがとうね。」


 違う違う違う、私が言いたいのはもっと深い意味で私は伝えたいのは、言いたいのは、


「違う、違うの分かってないの私も、みーちゃんを…あぃ…して…るの」

「んー?何??」

 恥ずかしいけど、言わなきゃ

「みーちゃん…愛してるよ…」

「私も、愛してるよ、まーちゃん」

 みーちゃんは、私を抱きしめ、言う

「可愛いよ、まーちゃん」

「うん…」

「可愛いから、人形さん以上に、倍に、可愛いよ愛してるよまーちゃん」

「うん…!!」

「だから、泣かないで、ね?」

 うそ、私泣いてる?何で?みーちゃんは抱きしめながら頭を撫でてきて

「ちょっと落ち着く、ありがとうみーちゃん」

「でしょ?流石私」


 あぁ、気が済んだのか、普段のみーちゃんに戻ってくれた。偶に、私を愛おしく抱きしめてくる。そこも…好きなんだけど。


「よし、まーちゃんここで良い?」

「うん、そこならいいと思う。」

 あの後私達はお風呂を済まし、人形の置き場所を改めて決めていた。あんな恥ずかしい姿を見られちゃったんだ。仕方ないよね。

「…まーちゃん、そろそろ寝る?」

「うん、もう寝よう」

 私達はダブルベッドに向かう。今日は沢山の事がありすぎた。もうヘトヘトだ。一緒にベッドに入る。いつもの枕も使う。私達はお互いに向かい合い手を軽く握って寝る。その方がよく寝られるからだ。目を覚ました時にみーちゃんの顔があると落ち着くし。

 いつもの様にみーちゃんに言われる

「ねぇまーちゃん」

 私は答える

「うん、みーちゃん」

 そして言われる。

「好きだよ」

 何時もの様に、私も告白する。

「うん、私もみーちゃんが好きだよ」


 私達は、眠りについた。

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