第4話 琴葉の初恋 (最終話)

 勉強が苦手な私は一生懸命勉強して、念願の五毛塚高校に入った。


 ――居るかな、九条君。

 私は行き交う生徒を目で追って探す。


 約束はしたけれど、もう何年も前のことだし口約束だから、九条君が五毛塚高校に居るかは分からない。

 けど、居ると信じて探す。


 会いたい。ずっと会いたかった。

 この日のために化粧も頑張って覚えた。

 可愛いって言って貰えるかな。可愛くなったねって言って貰えるかな。


 勉強も頑張った。

 そんなに賢くない私にとって、五毛塚高校はなかなか難しいところだった。

 九条君は小学生の頃からこの高校を意識してたので、勉強は出来るんだろう。

 

 やっと、やっと会える。

 私の好きな人。初恋の人。

 


 居た! 九条君だ!


 見た目で私はすぐに判った。

 伸びた背丈に凛々しい顔つき。華のある容姿ではないけれど、全体的に整っている。

 かっこいい。

 九条君は格好良くなっていた。髪の毛を整えたらもっと格好良くなるだろう。

 

 居た。

 良かった、九条君は約束を守ってくれたんだ。


 九条君はどうやら人を探しているみたいだった。

 え! もしかして私のことを探してる!?


 私は意を決して話しかけようとしたが、先に九条君に声を掛けられた。


「あの、新入生? 良かったら遊戯部に入らない?」


 私は困惑した。

 そして理解した。私は覚えられてなかった。忘れられていた。


 そりゃそうだ。もう何年も前のことだもん。

 私にとっては九条君と一緒にサッカーしたことはとても大事な思い出だけど、九条君からしたら妹と居るような感覚だったのかもしれない。


 その日話したことはほとんど記憶にない。

 流れで遊戯部に入ったのは覚えているけど、九条君に覚えられてなかったというショックで夜に泣いた。大泣きした。

 これが失恋か、と思った。


 ただ一つ疑問に思ったのは、なぜ九条君が遊戯部にいるのかということだった。

 てっきりサッカー部に入っていると思ったからだ。


 サッカーを辞めた? それとも学校では無くて、違うクラブチームでサッカーをしている?


 次の日から遊戯部の部室で九条君と過ごすことになった。

 九条君、と呼びたいけれど恥ずかしいし、覚えられてないのに言うのはおかしい。

 でも、昔のように九条君と呼んだら、私のことを思い出してくれるかもしれない。

 んー! 呼びたいけど……。

 その勇気は出なかった。そもそも私の名前を聞いたはずなのに九条君は思い出してくれなかったし……。

 ……葉月としか言わなかったけど、葉月琴葉ってフルネームで言った方が良いかな!?

 あなたに琴葉ちゃんって呼ばれてたんだよって。


 遊戯部の部室はもう今は使われていない山の中の別館にあった。

 部員は他に居るけれど来ていないようだった。

 なので部室には私と九条君の二人きりだ。そう、二人きり!


 久しぶりに話すのはとても楽しかった。

 九条君が優しいのについつい調子に乗って、九条君に忘れられた怒りをきつい言葉でぶつけちゃったのは反省。

 でも忘れた方が悪いんだもん。九条君のばか!


 九条君は二人で話す分にはあまり変わってないように見えるけど、どうやら普段の生活では一人で過ごしているようだ。

 他の先輩に聞いたが、もうサッカーは辞めていて、あんまり人と関わらないようにしているらしい。

 どうしたんだろうと思うけど、気軽には聞けなかった。


 二ヶ月が経って、私は九条君に小学生のときのことを言うことに決めた。

 いつまでもうじうじしてったってしょうがない。

 本当に忘れられていたなら、思い出させてやる。


 しかし、九条君は意外と変態だった。

 おっぱいボールなんて喜ぶわけないでしょう! もう! 浮気はダメ!

 それに彼女を奪った金髪の先輩と空手の先輩も、なんかいろいろおかしかった。変な人が多い!


 深呼吸。よし、落ち着いた。

 まずはサッカーのことを聞こう。


 サッカーの言葉を聞いた九条君は、一瞬苦そうな顔をした。

 とても、つらそうだった。


 でも、その事よりも、私のことを覚えていたことが分かって嬉しかった。

 本当に、本当にすごく嬉しかった!


 私のことをちゃんと覚えてくれたんだ。嬉しい! 好き! 大好き!

 思わず涙が出てきちゃって、抱きついて誤魔化した。


 これが、好きな人の香り。

 もう離さない! と私は思った。頭が真っ白になるくらい、何も考えられなくなった。


 我慢出来なくてキスをした。

 ヤバい! これってセクハラ? 大丈夫?

 

 恥ずかしくて九条君から逃げる。

 私から追いかけてこの高校まで来たんだから、今度は九条君から追いかける番だ。


 顔が熱くて、手で仰ぐ。



 サッカーの事とか、まだ気になることはあるけど、とりあえず。


 

 ――もう離さないんだからね、九条先輩!

 


 私はやっと初恋の人と再会した。

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えっちな後輩とぼっちな先輩がイチャイチャする話〜小学生の時の初恋の人同士が高校で再会する〜 神宮瞬 @shunvvvvvv

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