お部屋探し
野沢雪都
第1話不動産屋
吉原雅斗は、今の部屋が好きではなかった。
掃除をサボっているつもりはなかったが、
床には埃が落ちているし壁紙にはカビが
生えていて黒染みが出来ている。
最近は、その黒いカビがひとがたのように
見えてしまって気味が悪かった。
築年数も5年以内だし部屋の方位も南向き
前に太陽の陽射しを遮る建物もない
日当たりも風通しも良好なのだ
色々調べてみたが、特に事故物件の類でもない
だが、その部屋は明らかに他の部屋とは
違った。同じマンションに近所付き合いで
親しくしている老婦人がいるのだが、
自分の部屋に感じるすべての感覚と
においもふんいきも違っていた
もちろん、自分の部屋と老婦人の部屋を
比べてはいけないのかもしれない
しかし、入室してお茶を飲む度に
同じマンションで、こうも違うのかと
不思議に思う事は多々あった。
この部屋を借りる時に下見もしたし
その時は部屋の印象も悪くはなかった。
だからこその不満といえるのかもしれない
毎日壁紙を見る度に人の表情がハッキリしてきて
雅斗は恐ろしかった。
普段から在宅ワークで家にいる時間が長いせいで
黒いシミが徐々に増殖していく過程は
見るからに気味が悪いものだった
貯金はそれなりにあったしとりあえず
即入居できるマンションに引っ越そうと
ついぞ思いたったのだ。
焦って入居して曰く付きの部屋に
引越すのはごめんだったので
事故物件サイトを確認しつつ
探す事にしたのである。
そもそもこのマンションを紹介してくれた
不動産屋が既にどことなくおかしかった。
一般的な町の不動産屋なのだが、
仲介手数料も入居時の鍵代も前家賃も無かった
発生したのは害虫駆除の抗菌費のみだった
老婦人は、総額で80万かかった初期費用が
敷金も礼金も仲介手数料も安心サポートも
何もない自分は僅か20000円で引越せたのだから
どことなく何かがある部屋なのだと感じざる得ない
その時はラッキーくらいにしか思わなかったが
実はとんでもない部屋に引越してしまったのだと
気づくまでに時間がかかってしまったのは
自分がそういうことに無頓着な人間だったからなのかもしれない。
かくして雅斗の部屋探しが始まったわけだが、
さすがに例の不動産屋は避けた。
初期費用が浮くからと変な物件を紹介されたのでは
今回と全く一緒の結果になってしまうからだ
今度は管理体制がしっかりしてそうな
支店もある不動産屋を訪ねた。
しかし、僕にとってこれは恐怖の始まりに
すぎなかった。今の部屋が可愛いくらい
だったのかもしれない。
僕は、後悔する。新しい部屋と共に。
お部屋探し 野沢雪都 @IMPACTors7
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