幕間4※アレクシア視点
五歳の頃、家族に誘われて向かったのは隣国メテオーア王国だった。
目的はただの家族旅行だと聞いていたけど今思ったら行かなくてはいけない事情があったのかもしれない。
そうじゃなかったら私が王城に行く事はなかったのだから。
「大きいお城だね〜」
「そうね」
母の手を繋ぎながらメテオーア王国の王城を歩いて行く私は初めて来たお城に大はしゃぎ。
どこを見てもキラキラ輝いていて、見た事もない光景に胸を躍らせて、とにかく落ち着きがなかった。
ただ似たような光景が、長い廊下が続けば子供は飽きてしまうものだ。
「シア、そろそろ休憩する?」
「うん!」
母の言葉に頷くと連れて行かれたのは王城の中にある緑豊かな中庭。真っ白なガゼボに到着すると侍女らしき人がケーキと紅茶を持ってきてくれた。
「ケーキだ!」
「美味しそうね、食べましょう」
用意されたケーキは美味しいけど食べ終わると暇になる。五歳の子供に紅茶を楽しむ事は出来ない。
母が優雅に紅茶を飲む間、私は退屈そうに辺りを見回していた。そして見つけたのが美しい灰色の髪を靡かせる格好良い男の子だった。同い年の子供と話す機会が少なかった私は良い機会だと見つけた男の子と話そうと追いかけるように駆け出した。
「シア、一人で行ったら駄目よ!」
「大丈夫!すぐに戻ってくるから!」
後ろから母の焦ったような声が聞こえてくるが構わず 男の子を追いかけ続けた。そして彼を最後に見失った場所は薔薇が咲き誇る庭園。迷路のように入り組んだそこは子供には抜け出す事は困難で幼いながらに迷子になってしまった事だけは理解出来た。しかし理解出来たところで抜け出せない。
「お父さま、お母さま…」
薔薇園の片隅、体育座りをして父と母を待つが誰も来てくれない。
探していた男の子も見つからない。
一人きりになってしまった心細さと寂しさで涙が溢れ出てくる。しかし泣いたところで誰も来てくれない。
「どうしよう……」
こんな事なら母の言う通りに一人で来なければ良かった。母を連れて来たらこんな事はならなかったのに。
いや、そもそも男の子を追いかけようとしなければ良かったのだ。
「お母さまぁ…」
涙声で母の名前を呼んだ瞬間だった。ガサガサと薔薇と葉っぱが揺れ動く。
何事かと音のした方を見ると陰から姿を現したのは私が探していた灰色の髪を持つ男の子だった。
「君は…」
人が来てくれた安堵感で私は声を上げて泣き始める。
男の子は慌てたように駆け寄ってきて「大丈夫?どうしたの?」と尋ねてくるが口から出てくるのは泣き声と嗚咽だけ。質問に答えられない。
「大丈夫だから落ち着いて」
男の子は泣き噦る私を抱き締めて背中を撫でてくれる。何度も何度も大丈夫だと声をかけられた私はちょっとずつ落ち着きを取り戻して行く。
しがみ付いていた身体を離すと男の子の服は私の涙でぐちゃぐちゃになっていた。良くない事をしてしまったのは分かった。
「ご、ごめんなさい…」
「良いよ。ほら、これで涙を拭いて」
差し出されたのは淡い黄色のハンカチ。稲妻の刺繍が入ったそれは子供が見ても高級品だった。
本当に使って良いのか分からなくて男の子を見るとハンカチを使って涙を拭いてくれる。
「うん、綺麗になった。可愛いよ」
にこりと微笑む男の子は眩いくらいに輝いて見える。
気がつかないうちに胸の奥が高鳴った。
「ありがとう」
照れ臭くなって変な笑顔になったと思う。
私の顔を見た彼は驚いた表情を浮かべたかと思ったら真っ赤になって目を逸らしてしまう。
視線が交わらないまま「えっと、君の名前は?」と尋ねられる。
名前を言ったら友達になれるかもしれない。
その気持ちを込めて手を差し出した。
「私はアレクシア!」
「僕はレオンハルト」
私が初恋の人レオンハルトと出会った瞬間だった。
悪役令嬢に転生しましたが、やる気ゼロです 高萩 @Takahagi_076
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