いのりのうた(鎮魂のうた)
いつも大丈夫だっていいたい
第1話
祈海は静かで、美しく平和だった。
ある日、大地が大きく揺らいだ。
大きな、大きな揺れだった。
大地の揺れの後に、海が牙を剥いた。
早く! 早く! 早く!
逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!
少しでも高いところへ!
人々は手を取り合って、高台を目指した。
人々が高台から見たものは、、、
襲い来る海の姿だった。
津波は人々を。
車を。
建物を。
街を。
呑み込んだ。
足腰の弱った老人の手をひき、逃げ足の遅い幼子を背負い助けた人々がいた。
最後まで、住民の避難を呼びかけた人々がいた。
海はそんな人々をも、呑み込んだ。
津波は、家族を、家を、街を、思い出も、人々の暮らしさえ奪い去った。
津波が去ったあと、
人々は、バラバになった家族を、愛する人を、、、
探して、探して、探して、
やっと会えた。
避難所で、親戚や友人の家で、病院で、土台しか残らなかった家の跡地で、、、
やっと会えた。
人々は、生きていた喜びと、再会の涙を流した。
また、ある人は、
子どもを、妻を、夫を、父を、母を、兄を、姉を、孫を、祖父を、祖母を、親戚を、恋人を、友人を、、、
探して、探して、探して。
やっと見つけた。
瓦礫の中に、流された車の中に、遺体安置所の中に、、、
やっと、やっと会えた。
もう二度と、その瞳は開かないけれど。
もう二度と、その声を聞くことはできないけれど。
もう二度と、その笑顔を向けてくれることはないけれど、、、、
やっと会えた。
人々は再会と、別れの涙を流した。
また、ある人は
探して、探して、探して、
まだ、、、
会えない人々もいた。
探して、探して、探して、
今もまだ、探して続けている。
津波が去った後、第二の波が人々を襲った。
原子力発電所を襲った、津波が引き起こした、見に見えない津波。
見えない波は、静かに大地を呑み込んだ。
見えない波は、大地を汚し、人々の不安を煽った。
人々は、何も知らされないまま、住み慣れた家から、愛しい故郷から追われた。
街には、誰も居なくなった
誰も、、、
追われた人々は、居場所を探し、彷徨いい、長い間、街に戻れることはなかった。
心ない言葉、偏見に満ちたまなざし
見えない波による、いわれない中傷や差別やいじめを受けた。
第三の波が人々を襲った。
静かに、水面の波紋のように、悲しみの波が広がっていった。
深い、深い、深い、悲しみの波が、何度も、何度も、人々を呑み込んだ。
愛する人、家族だったペット、愛用の物を失った。
帰るべき家を失った。
大切な思い出を失った。
美しい故郷を失った。
輝かしい未来を失った。
いわれない中傷を、差別をいじめを受けた。
悲しみの波が、また、新しい悲しみを生んだ。
たくさんの深い、深い悲しみから、たくさんの人々の命が奪われた。
たくさんの命。
たくさんの思い出。
たくさんの財産が奪われた。
たくさんの涙。
たくさんの嘆き。
たくさんのため息。
たくさんの悲しみが生まれた。
絶望が人々を呑み込んだ。
たくさんの困難の中、人々は大地に足を踏ん張り耐えた。
たくさんの人に、助けられた。
また、助けた。
たくさんの人に、支えられた。
そして、支えた。
絶望の中で、人々は祈った。
小さな祈りは、大きな祈りになった。
祈りは願いとなり、希望か生まれた。
祈りは大きな力になった。
小さな願いは、大きな希望になった。
当たり前の生活が、とても幸せだった事を、
いかに恵まれていたかを知った。
強く、強く、強く、より優しくなった。
以前とは違った、街なみができた。
少しずつではあるけれど、落ちついた暮らしが戻って来た。
そうして、人々は生きる力を取り戻していった。
そして、人々は思い出す。
失ってしまった人を、、、
いつも隣にいてくれた人を、、、
一緒笑いあった。ケンカもした。一緒に泣いてくれた人を、、、
思い出す。
かわいかった。
おちゃめだった。
おこりん坊だった。
厳しかった。
泣き虫だった。
責任感が強かった。
正義感と使命感にあふれていた。
さびしがりやだった。
くいしん坊だった。
賢かった。
優しかった、、、
愛しくて、愛しくて、愛おしくくて。
大好きで、大嫌いで、そばにいたくて、時に、離れていたくて
たくさん、たくさんの時間、隣にいてくれたあの人を。
泣いて、怒って、笑って、そんな時が、ずっと続くと思っていたあの頃を、あの時を。
ずっとそばにいてくれると思っていたあの人を。
思い出す、、、、、
『そばにいるよ。』
『帰ってきたよ。』
『ずっとそばにいたんだよ。』
思い出が帰って来るよ。
ずっと思い出の中で生き続けるよ。
ずっと残された人々の中に生き続けるよ。
あなたが生き続けるている限り、、、
ずっと、ずぅと、ずっと、、、
海は静かで、美しく平和だった。
いのりのうた(鎮魂のうた) いつも大丈夫だっていいたい @babaaa
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