第3話 大金と少年

万引き少年の滝沢くんが突然、1泊5万円で俺の家に泊まりたいと言ってきた。



「本当に1泊に5万も出せんの?」

俺は聞いた。

「もちろんです!ちゃんと払います。」

金銭感覚おかしいだろ。

「俺ん家に泊まって、その後はどうすんの?」

家の事情は知らないが、家出は良くない。

家に帰るのか、ホテルを探すのか、実家を出て自立するとしても家は必要だ。

「んー、、、ホテルを探そうかなと思ってます」

「ホテルにずっと住むわけじゃないだろ。100万じゃせいぜい半年くらいだろ。」

俺はホテル暮しはしたことがないが、まぁそれくらいだろう。

「その半年で仕事も探します。」

滝沢くんが言った。

無計画な感じもするが、彼の人生だ。

俺は1泊だけ泊めてやって5万円を頂き、おさらばしよう。


我ながらクズだな。

しかし低所得者の俺に5万もの臨時収入はありがたい。



ファミレスでご飯を食べた後、2人で俺の家に向かった。


アパートの下に着いた。

「ここが俺ん家」

滝沢くんはアパートを見上げて言った。

「ボロいですね。家賃いくらです?」

他人の家の家賃を聞いてきた。

滝沢くんは色々な意味で常識に囚われていないな、と思った。

「家賃は5万とちょっと。」

「じゃあ、1泊でほぼ1ヶ月分ってことっすね!」

と滝沢くんが笑った。

俺が貧乏フリーターだと分かって笑っているのだ。

「本当に100万持ってんだろうな?」

「ありますよ!見ます?」

滝沢くんは背負っていたリュクサックを手に持ち、チャックを開けようとした。

「おいおい!誰かに見られたらどうすんだ!部屋に行ってからにしろよ」

「吉野さんが疑うから」


階段を上がり部屋に着いた。部屋は3階の角部屋だ。

「エレベーターはないんですか?」

滝沢くんが聞いた。

「そんなもんねぇよ」

俺は部屋の鍵を開けた。

1Kで8畳の狭い部屋だ。ベットとテーブルとテレビを置いたらもう窮屈に感じる。

小さいキッチンとユニットバスとトイレも付いているが最低限のものだ。

慣れれば住み心地も悪くはないし、お金の事を考えるとこのレベルが限界だ。

毎日階段を登るのは面倒だが、角部屋なのはありがたい。

「狭いけど入れよ」

滝沢くんを招き入れた。

「お邪魔しまーす」

滝沢くんをテーブルの座椅子へ誘導した。

「そこ座りなよ」

俺は荷物を置いて滝沢くんの向かいに座った。

「お金前払いしときますね。」

そう言って、滝沢くんはお金をリュクサックから取り出した。

100万円だ。

「意外と薄いんだな」

俺ポツリと漏らした。

「紙が100枚なんてこんなもんすよ。」

滝沢くんが5万円渡してきた。

「あ、ありがとう」

5万円も受け取ってしまった。

年下にお金を貰い複雑な気持だ。人助けだと思う事にする。



「ところで何の賞金なんだ?」

聞くのを忘れていたが、何の賞金だ?

賞金なんて嘘で、汚い金だったらどうしよう。もう滝沢くんを招き入れてしまった。

「俺、絵を描いて応募したんです。それで最優勝とかになって、出版社にスカウトされて専属の画家になったんです。」

「へぇー。すご。えっマジですごくないか?

画家になった???もう仕事あるじゃん。」

急に少年が凄い人に見えてきた。

万引きするような不良少年かと思ったが、才能溢れる将来有望な天才少年ではないか。

俺とは正反対だ。

「そんな凄くないですよ。たまたま、、、」

たまたま、、、?。天才だろ。

「たまたまじゃなれねぇよ。普通。」

もう劣等感で苦しい。関わらなければ良かった。


俺が落ち込んで暗くなったのを察したのか、滝沢くんは黙ってしまった。


人の事をひがんで羨んで、俺はどこまでもダメな奴だ。年下に気を使わせて、情けない。

自分は存在する価値がない人間だ。


「シャワー先に使いなよ」

沈黙を破り俺が言った。

「ありがとうございます。」

滝沢くんが言った。


順にシャワーを浴びた後、大した会話も無く2人とも11時頃には眠りについた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

万引き犯の華 まぎ @magi836

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る