第2話 少年と俺


万引き犯に奢ってやったら、お礼がしたいとやって来た。100万円という大金を持って。


俺は少年に背を向け足早に歩き出した。

「ちょ、ちょっと、待ってよ!!!」

少年は付いて来た。

困る。汚いお金かもしれない。想像でしかないが。しかし、汚いお金だった場合困る。犯罪に巻き込まれたくない。

「健全なお金だから!!本当にお礼がしたいだけだから!!」

少年はしつこく付いてくる。

「じゃあ、何の金だよ?怪しすぎるだろ!」

万引き歴のある、高校生くらいの少年が急に100万円という大金をどうやって手に入れたのか?

「賞を採ったんです!!その賞金だから!怪しくないから!」

少年が俺の後を追いながら言った。

「なんだ。賞金か、それならそうと先に言えよ。」

犯罪ではないと安堵し、俺は足を止めた。

賞金ならとても健全だ、何かを頑張って採ったのだろう。彼にも頑張れる事があって良かった。

「どこかご飯食べに行きませんか?」

少年が俺の顔を覗き込んで言った。

「お礼なんか要らないよ。」

数十円のお菓子のお礼なんか受け取れない。

しかも、ネグレクトを受けているかもしれない少年からなんて尚更だ。

「じゃあ一緒に食べるだけでも!」

少年はニコッと笑った。

「じゃあ、、飯を食うだけだからな」


安易に了承してしまったかもしれない。

俺も人恋しかったのかもな。。。

新卒で入社した会社を退社して以来、友人や知人との連絡を止めた。

そいつらの話なんか聞いてると劣等感で押し潰されてしまうだろう。

アルバイトの人とはさほど親しくもない。

誰かとご飯を食べるのは久しぶりだった。


少年と近くのファミレスに行った。

店はガランと空いていたが、端の方の席へ座った。

「名前、聞いてもいいですか?」

少年から訊ねられた。

「吉野 光。お前は?」

俺は名乗って聞き返した。

「滝沢 裕貴です」

滝沢くんが答えた。

「滝沢くんは幾つ?高校生?」

「18です。高校は中退しました。」

「そう。。」

高校生ではなかった。

メニューを見ながら滝沢くんはニコニコしていた。



料理の注文を終え、メニューをテーブル脇に立てかけた。

「吉野さんは一人暮らしですか?」

「ああ、一人暮らしだよ」

「今日泊まってもいいですか?」

「はぁ?」

反射的に大きな声が出てしまった。

彼とはほぼ初対面で、さっき名前を知ったくらいなのにもう家に入り込もうとしてくる。

「ダメですか、、、?」

滝沢くんがしょぼんとした顔をしてくる。

「んー、、、家に帰れないの?」

「家には帰りません」

暴力を振るう親から離れたいのかもしれない。

「お金持ってるんだろ?ホテル探したら?」

100万もあればしばらく泊まれる。恐らくアパートも借りれるだろう。

「今日だけお願いします!」

滝沢くんが言った。

助けてあげたい気持ちが無くはない。しかし得体の知れない彼を泊めたくない。

「ホテル探してやろうか?」

俺に出来るのはこれくらいだ。

「お金払うのでお願いします!」

大金を持った若者は強気だ。

「いや、お金の問題じゃなくて」

「1泊、5万出します!」



俺はコンビニのアルバイトで月に約15万円程を稼いでいる。彼を3日泊めるのと同等の金額だ。


「ここも俺が払いますからね!」

滝沢くんがニコニコしながら言った。

大金を持った若者は怖い。









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