万引き犯の華
まぎ
第1話 出会い
「おいっ、待てよ!!」
俺は咄嗟に少年の腕を掴んだ。
この少年はたった今、万引きをした。
俺はコンビニでアルバイトをしているただのフリーターだ。
2年前に二流大学を卒業後、中小企業に就職。しかし、僅か半年で退職した。
その後、このコンビニでアルバイトをして惰性で生きている。
もう人生の価値だとか、意味だとかが分からない。
掴んだ少年の腕は、想像以上に細く違和感を感じた。服も古く汚れていて、風呂にも入っていなさそうだ。
嫌な想像が頭に浮かんだ。ネグレクトだ。
「盗った物を見せろ」
少年は固まったまま動かない。
「俺が奢ってやるから。レジ通すから一旦出せ」
少年を哀れんで、何となく奢ることにした。
少年がポケットから出してのはチョコレートの小さいお菓子だった。
「誰にも言わないでやるから、もうするな」
少年はコクリと頷いて足早に去っていった。
この選択が良かったかは分からない。
少年は味を占めてまた万引きするかもしれない。少年を犯罪へとより沈めてしまう要因になり得るのだ。
しかし、警察に突き出して親を呼んで弁償させたとして、少年はそのあと親に何をされるだろうか。俺の予想が外れているのなら警察に突き出した方がいいだろうが、もし当たっていたら、、、。
その日は正解のない答えを悶々と考えていたが、次の日には気にすることをやめた。
そして月日が流れた。
ある冬の日、今日もアルバイトに明け暮れていた。いつもと何ら変わらない平凡な日だった。特に問題も起きず、しかしそれなりに忙しく仕事をした。
交代の時間が来た。今日のシフトは20時までだ。外はもう暗くなっている。
帰り支度を始めた。スマホを見るともうすぐ年末だからか、母から電話とメッセージがきていた。
「年末は帰って来なさい」や「新しい就職先は決まった?」など書かれている。
つい、ため息が出てしまう。
「ため息なんかついてどうしたんですか?」
最近入った新人の立花さんが声を掛けてきた。俺より3個年下の女子大生だ。
「年末年始は憂鬱だなって」
俺は苦笑いしながら言った。
「年末年始って忙しいですか!?ヤダなー」
立花さんは仕事の事だと思ったようだが、訂正はしなかった。年末年始もそれなりに忙しいからな。
「立花さんは新人だからそんなに入れられないよ」
まだ名札に付いている研修中の文字を見ながら言った。
「そうなんですね。良かった!って言ったら失礼ですよね。あはは。」
立花さんが笑った。
顔も普通に可愛いし、何より愛想がよく人当たりが良い。彼女はモテるだろうな。
「じゃあ、お疲れ様」
「お疲れ様です!」
立花さんがぺこりと会釈をしてくれた。
もう1人の夜シフトの人にも軽く挨拶をして店を出た。
コンビニの外は寒く、近々雪が降りそうな気がした。
家の方へ歩きだそうとしたところに。
「あのっ!!!!」
と声が聞こえた。
(ん?俺か?)
キョトンと振り返った先には少年が立っていた。
「あの、僕のこと覚えてますか?」
急に声を掛けられ難しいクイズを出された。
思い出そうとしたが分からない。
「ごめん、誰だっけ?」
あっさり諦め答えを聞いた。
「僕です。半年くらい前に、ここで万引きした」
そう言われ一気に記憶が蘇った。
万引きを見つけたが、奢ってやったのだった。
「あぁ、あの時の、、、味を占めてまた繰り返すんじゃないかと心配したんだよ。真っ当に生きてるか?」
あの少年が一体俺に何の用だろうと思いつつも聞いた。
「もう万引きはしてないです。万引き下手だから。」
真っ当に生きてとは言い難いと思ったが、俺がどうこう言った所でどうもならないだろう。
「今日はどうしたんだよ。夜遅く寒いだろ 」
俺が出てくるのを待っていたのだろうか?
「あのっ!!お礼がしたいんです!!今、100万円持ってます!!!」
大きめの声で勢いよく言った。
(は、犯罪の臭いがする!!!関わりたくない!!!!)
一瞬で顔をしかめて、
「お礼なんか要らない!!帰れ!!」
と俺は言った。
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