終頁

 そこに最後の障害が残っていた。議事堂前に何台かパトカーが止まっていた。テロ特別措置法に基づき警察も議事堂の警護にあたっていた。だが、武博は迷わなかった。

「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」

 武博は更に加速し、正門のパトカーを跳び越し、門をぶち抜いた。

「撃て!!!!」

 警官から発砲。無数の弾丸が武博の背中に食いついた。

 だが武博は倒れなかった。そのまま議事堂の正面玄関に突っ込み、中央ホールで派手に転倒した。バイクがぐちゃぐちゃに粉砕し、大理石の壁がところどころ粉々に砕けて煙をあげていた。ホールに立てられた三大政治家の銅像が、何かを期待するかのような目で焦点を合わすことなく何処かを見ていた。

 騒ぎを聞きつけた議員や各国務大臣、更に時の総理まで中央ホールに集まりだした。武博は生きていた。そしてあの電子機器を取り出した。

 ”秋山の命”。

 武博は赤いスイッチに指を触れさせた。

「腐った政治屋ドモに、紅蓮の炎の祝福を!!」

 武博は叫び、スイッチを押した。


 ・・・・・・・・・・。


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 ・・・・・・・・・・。


 何も起きない。三十秒は経った。あれ?おかしいな?武博は何度もスイッチを押した。

 その時、周りの政治屋達から爆笑の声が轟いた。嘲るような、哀れむような、典型的な支配者の嘲笑である。

 時の総理が話しかけた。

「議事堂からは昨日既に爆弾は全て撤去されたよ」

 更に爆笑と嘲笑。気が狂いそうな、人ではない存在の笑い声の数々。武博は絶望感に浸っていた。

「本当に残念だったよ、秋山輝彦君」

「違う!!俺の名はゴフ!」

 玄関から複数の銃声。警官隊が突入したのだ。武博は血の泡を吹き、両手を大降りにしながら倒れた。手から”秋山の命”が離れた。

「か、・・・がわ、武博・・・、だ」

 小さく名乗り終えた後、武博は事切れた。

「ったく、君たちは何をしてるのかね!!?」

 時の総理は下にいる警官隊に叱咤した。

 申し訳ございません!と威厳良く警官隊達は答えたが、総理は聞いてもいなかった。

「総理!警備員からの報告ですが、・・・・・・」

 一人、秘書らしき男が人ごみを割って出て、総理に耳打ちをし出した。

 その時、総理の顔が一気に蒼白になった。

「だ、ダミーだったと・・・?」

 総理は復唱した。

「後報告によれば、まだ議事堂内に50個近くの爆薬が仕掛けられているそうです。規模は議事堂敷地全体に及ぶとのことです」

 秘書も蒼白だった。

 その時、周囲が閃光に包まれた。と同時に、爆炎が舞い起こった。







 議事堂での死者723名。中には時の総理及び全閣僚が含まれており、全国の国会議員が全員死亡した

 秋山は国会議事堂の管理警備を担当する仕事に就いていた過去があり、議事堂のセキュリティを完璧に知り尽くしていた。そこで思いついたのが、二重セット。

 ダミーをわざと見つかりにくい箇所に設置し、後はわざと目のつきそうなところに計百箇所近くもセットしていたのだ。

 秋山はテロリストとして、武博は被害者として全国に報道された。だが、武博の最後に行った行為は秋山が転落した後誰も知らない。その後の行動は”謎の行動””被害を受けて発狂した”など色々取り沙汰されたが、結果としては真偽は不明だ。

 ただ一人を除いて・・・





















 その後


 あれから10年後の世界。


 荒廃した世界。


 暴力が暴力を下し、支配する戦国の近未来。


 元々OLだった高科愛子は、武装集団の幹部になっていた。

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