異世界転生チーレムなら日の目を見るはず

kanegon

異世界転生チーレムなら日の目を見るはず

【前回までのあらすじ】


 高校に入学した藤花は歴史小説を書きたかった。だがこの高校には文芸部が無いので、仕方なく代替として、部員減少で部から同好会に格下げになったばかりの歴史研究同好会に入った。


 実際に歴史小説を書いてみた藤花だったが、先輩に作品をボロカスにこきおろされ散々ダメ出しされて心が折れてしまった。


 腕時計型お手伝いAIロボットのバーグさんの勧めに従い、カクヨムでは歴史ものが冷遇されている状況を鑑み、異世界転生チーレムを書こうと決意するのだった。


【起】


 異世界転生チーレム小説を書こうと思ったものの、今までの私は歴史小説を書きたいと思って資料を入手してノートに要点を書き出して地道に活動してきた。急に方向転換できるというのでもない。


 こういう時は、便利な相棒、お手伝いAIロボットのバーグさんにアドバイスを求めるのがいい。


 バーグさんの声は、いかにも昔のSFアニメに登場しそうな感じの電子音で聞き取りにくいが、まずは何でもいいから書くことから始めるべきだと助言をくれた。


「そうは言われても、いきなり書こうにもアイディアが思い浮かぶでもないし、どうしたらいいんだろう。何か、お題がある企画にでも便乗すれば浮かんでくるかも」


「ダッタラ、かくよむノKAC企画ガ、イイヨ」


 バーグさんの推薦を聞いて、調べてみた。カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ、のことらしい。期間中の月・水・金曜日に、合計10回のお題が出るらしい。それに沿って文字数1200字~4000字の短編作品を書くのだという。


 ほうほう。確かにこれは楽しそう。異世界転生チーレム小説を練るきっかけになりそう。私は第一回のお題が発表されるのを心待ちにしていた。


【承】


 月曜日のお昼12時。


 学校の授業が終わってお昼休みになった。お弁当を食べる前に手洗いに行こうかと思ったけど、その前にスマホでお題を確認してからの方がいいだろうと、私はスマホを取り出した。


 第一回お題『おうち時間』


 私はお手洗いに向かって廊下を歩きながら、心の中だけでカクヨム運営に対して悪態をついていた。


 どうしてこんなお題にしたんですか。おうち時間と異世界転生チーレムって、ムチャクチャ相性が悪いじゃないですか。


 異世界転生チーレムということは、主人公は屋外に出て冒険の旅をして、途中でモンスターと遭遇しても鎧袖一触で倒して、ヒロインならぬチョロインに惚れられてハァァ~レム、という展開のはず。主人公が屋内に引き籠もっておうち時間を過ごしているだけじゃ、異世界である意味も無いしチート能力も発揮しにくいしハーレム形成も難しい。


 とはいっても、お題が難しいからといって負けを認めるのは悔しい。おうち時間で何か異世界転生チーレム小説を書けないものか、私は頭脳を回転させた。お手洗いに行ってお弁当を食べている間もネタを出そうと考える。


 帰宅してからも考えた。でもネタが出てこない。そうこうしているうちに月曜日が終わって火曜日になってしまった。第一回の締め切りは水曜日のお昼十二時。つまり実質的には今日の夜の内に投稿できないと詰みである。


 どうしよう。と、悩んでいる時間すらも浪費時間である。何でもいいから題材を決めて書いて投稿しないと間に合わない。


 結局私は、おうち時間というお題から異世界転生チーレムのネタを思いつくことができなかった。仕方なく苦肉の策として、ホワイトデーも近いということでチョコレートを題材にしたラブコメ作品を書いて投稿した。私としては負けを認めたようなものだ。でも、最終的に負けが確定したわけでもない。次でリベンジしよう。


 でも、今は投稿を済ませた安心感で全身の力が抜けた。もう、ゴールしてもいいよね、状態だ。


【転】


 そう思ったのも、寝て起きて水曜日になってお昼の十二時まででした。


 新たなお題が発表されて、再び走り始める時が来た。


 第二回のお題は『走る』だった。


 シンプル・イズ・ザ・ベスト。シンプルすぎて、かえって考えるのが難しい。


 私はテレビで見たCMソングを思い出した。


「いーつーまでもどこーまでも走れ走れエルフのトラック~♪」


 そうだ。異世界転生チーレム小説。主人公はエルフのトラックにひかれて異世界に転生する設定にしよう。


 でもそれって、異世界に転生する所って、どうでもいいんだよね。異世界に転生してからどう活躍するか、が問題なのであって。


 じゃあ、走るだけでレベルアップする勇者、っていうのはどうだろう。


 ダメか。恐らく、そういう設定は既にあるだろう。そもそもの話、大正時代を舞台にした人気アニメでは、鬼退治の主人公少年は「○○の呼吸」とか言って呼吸しただけで強くなる。そのアニメを上回るためには、全集中ではなく一部集中だけでも、もっと言えば集中しなくても強くなれる主人公の能力が必要だ。


 あれこれと考えているうちに、もう寝る時間になってしまった。やばいやばい。実質的な投稿期限は明日の夜までなので、明日一日で形のある作品を作らなくちゃならない。とにかく忙しいなあこの企画。


【結】


 書けた。


 異世界転生チーレム小説。といってもカクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ企画なので上限は4000字。長編の冒頭というか、1クールアニメの第一話みたいな感じになってしまったけど、まあいいか。昔のオリンピックじゃないけど参加することに意義がある。


 結局、日和見で、走るだけでレベルアップする主人公にしちゃった。その代わり、全集中しなくても一部集中だけで強くなれるスキルがある。


 昨夜のうちに投稿を済ませたので、ほっと一息。


 それも束の間。お昼の十二時になると、次のお題が発表される。休んで安心している暇は無い。


 コレは野球でいうところのシャトルランだ。短距離ダッシュして、一瞬休んで、また短距離ダッシュして、一瞬休む、というのを幾度も繰り返すやつ。端的に言ってキツイ。


 まあ、次のお題は十二時になったら出るとして、昨夜投稿した作品は、どういう評価を受けているだろうか。そして、第一回のお題の時に投稿した作品はどうなっているのだろうか。


 私はスマホを操作した。


 おうち時間お題作品:★0。PV4


 走るお題作品:★0。PV0


「KAC企画デハ、ヒトツノオ題ニツキ、500カラ600作品クライ投稿サレルカラネ。ねーむばりゅーノ無イ人ノ作品ハ、ホトンド閲覧サレスラシナイヨ」


 バーグさんの電子音には温かみが無かった。


「な、なんなのよ! 多く読まれるために歴史小説を諦めてウケそうなジャンルを書いたオチがこれ?」


 そんな私の憤慨を余所に、もう既に第三回のお題が発表され、みたびシャトルランダッシュは始まっていた。


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