それでも僕は走り続ける...

司波和人

第1話

ある意味運命だったかもしれない。


そう思える瞬間があった。


 小学生の頃、先生に、とある飛行記念大会に参加しないかと言われた。

その当時、飛行機なんて興味のかけらもない自分にとっては、断るのも億劫になるほどであった。しかも、渡されたパンフレットの概要欄の漢字を見ると、飛行「器」と書かれているところがあったため、思わず、


「先生、これ、間違っていませんか?」


と、参加か不参加を言うよりも先に質問してしまった。誘ってくださった先生が丁寧に色々教えていただいた。

 この大会は、「日本航空機の父」と呼ばれた人のことを記念しての大会とのことであることや「飛行器」とは、その人物が、自らの命名し、カラス型飛行器や玉虫型飛行器を制作したこと、彼の死後、イギリスの国王立航空協会は自国の展示場へ「玉虫型飛行器」の模型を展示し、「ライト兄弟(世界で初めて飛行機を飛ばしたことで有名)よりも先に、飛行機の原理を発見した人物」と紹介されたことを教えていただいた。

 正直、先生の話が思った以上にスケールが大きくて、面食らったが、ならばこそ、なぜ私を誘ったのか気になって質問したところ、偶々とのことで、ずっこけた。いや、正直に言えば、勧誘するなら、ほかの人にして欲しいと思った。しかし、先生の熱に押されてしまい、参加する運びとなった。


 種目は、いくつかあったが、バルサグライダー機の種目に参加することになった。この種目は、飛行機の滞空時間を競うものだった。

 そして、機体の製作をすることになった。手先が不器用であったから、どうしようかと思っていたところ、簡単なキットで製作できることを知り、先生と一緒に作った。少し不格好になったものの、まずまずの出来であったが、予行練習で飛ばしたところ、あまり飛ぶことはなかった。普段は、泣けず嫌いな私ではあったが、このときは、自発的にやったわけでなかったため、あまり悔しさを感じなかった。むしろ、「まだ、少しの間飛べるのだから別にいいじゃないか」と開き直ってしまっていた。


 そうこうしている内に、大会前日の日となった。最後にもう一度、飛ばそうとし、校庭に出て、思いっきり飛ばした。表現的には、飛行機を真上に投げた、と言った方がいいのかもしれない。


 その時、今までにない軌道で飛び、滞空時間もかなりのものであった。驚いたが、それ以上に、納得した。空に憧れる人の気持ちが少し。あんな飛び方ができることができるのを目の当たりにすれば、空を飛びたいと考える人がいてもおかしくはないと思った。もしあの空を翔ける飛行機に自分がそこに乗っていたら、どういう気持ちなのかと。面を走る自分を見下ろす飛行機は、どういう気持ちなのかと。


 このとき思った。


 「あぁ、あの飛行機のように、空を飛んでみたい」


大会の結果は、いつもの練習通りの滞空時間で、少しの間しか飛ばなかったが、正直そんなことはどうでもよくなっていた。飛んでみたい。その一言であった。


 今も空を飛ぶ夢を諦めていない。日本航空機の父は、ライト兄弟が先に飛行機を飛ばしたことを知り、飛行器づくりをやめてしまったらしい。しかし、それを知ってもなお諦められない思いがある。


 それでも僕は、走り続ける。あの日に飛ばした「飛行器」の幻影を目に思い浮かべながら。

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それでも僕は走り続ける... 司波和人 @shiba1110

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