野竜棲息区域 on The WAY

──野竜棲息区域Wild Dragon Habitat


 わたしが乗っている大型装甲バスは、そう書かれている看板を通過した。竜といっても大型から小型のものまで様々な種がいるが、先ほど見えた黒い影の群れから見ても、小型のものが多く生息しているのだろう。


『ただいま、野竜棲息区域に侵入いたしました。当コーポレーションの情報図書館ライブラリへのアクセスポイントコードが座席に記載されております。視覚から情報を参照できますので、興味がございましたら是非ご接続ください』


 アクセスポイントコードに目をやると、視界に円形のポインタが表示された。アクセスポイントへのリンクだ。接続してみると、LISTEN MEお聴きくださいとタグ付けされた音声データが目に入った。すかさず、その音声データを再生する。


アルタイルコーポレーションALCO情報図書館ライブラリへのアクセスありがとうございます。当情報図書館ライブラリは、シティグロウ⇔シティグレイ間の情報を主に公開しております。お客様の旅程が少しでも満足できるものになりますよう──』


 さすが大企業、悪くないサービスだ。多少退屈で危険な道のりでも、ちょっとしたツアー気分を味わってもらおうという計らいなのだろう。


 外を眺めながら情報図書館ライブラリを参照していると、一匹の小さな翼竜が窓に張り付いた。大きい目をクリクリと動かしながら、口先で窓をコツコツとつつく。敵意はないように見える。こちらも指でコツコツと叩き返してみる。小さな翼竜はわたしが叩いた部分を口先でコツコツとつつき、ペロペロと舐めた。


 随分と人懐っこくて可愛らしいヤツだなと思い、窓越しにコツコツと叩きあいながら眺めていると、風の力に耐えきれなくなったのか、窓から離れ、バスの後方へと姿を消していった。


 あの小さな翼竜はどんな種類なのだろうか。視覚情報は記憶領域にまだ残っているはずだ。こめかみに指を当て、アルタイルコーポレーションALCO情報図書館ライブラリにアクセスする。マッチする情報があったのか、円形に縁どられた情報参照インターフェースが視界に表示された。


──小型翼竜。通称:レイジングリトル

──肉食。獲物を誘い入れ、群れで攻撃し捕食する。他の種と行動することがあるが極めて稀。孤立している個体を見ても深追いしないこと。


 これが装甲バスの中でなかったならどうなっていただろうか……掃き溜めである私の故郷シティグロウですら、外からは守られていたのだと思い知らされた。


 

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灰色の都市 マツムシ サトシ @madSupporter

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