じゃあね。
かんた
第1話
私はもうすぐ死んでしまうらしい。
幼いころから身体が弱くて入院して退院してを繰り返していたけれど、つい最近、しっかりと検査した時にどうやら難しい病気にかかっているらしいと判明したのだ。
現代の医療では治療法も特効薬も無く、薬で何とか延命するぐらいしか出来ないそうで、たくさんの薬を処方されて飲むように言われていた。
飲むように言われていた、と言っても、病気が判明してすぐに入院しているので、時間になるといつも飲まされるだけなのだが。
入院しているので何か出来ることも無く、日がな一日、ただぼんやりとするだけだった。
家族は、いつも私のところに来ると泣きそうな顔で、若しくは実際に泣き出しながら私に、丈夫に産んであげられなくてごめんね、と謝ってくる。
私は、いつも何と言っていいか分からず、曖昧に笑うだけだった。
だって、私は何もパパとママに謝って欲しいなんて思ってないから。
丈夫な身体じゃなくてもいつも家族からの愛を感じられたし、それだけでも生まれてきて良かった、と思っているのだから。
長生きできないことには少しは残念だな、と思うけれど、そもそもあんまりまだ私がもうすぐ死ぬって言うことを受け止められていないから、何か悩むこともあまりない。
ただ混乱していて、よくわかっていないだけなのかもしれないけれど。
そして、入院してから数日して、友達がお見舞いに来てくれた。
小学校の頃からずっと仲良くしている、中学に上がって学校が変わっても変わらず仲良くしてくれている友達が来てくれた。
私は、嬉しくなっちゃって彼女と楽しく話していたら、急に身体が痛くなってきて、倒れてしまった。
幸い、何かあったわけでもなく、すぐに目を覚ましたようだけれど、そこにはお医者さんとパパとママが友達に怒っている姿があった。
目が覚めたと言っても、夢の中にいるような感じでフワフワしていて声も出せないままその光景を薄目で眺めながら、私は考えていた。
何で私はこんなに情けないのだろう、と。
ほんの少し楽しく会話しただけで倒れちゃって、友達にもパパたちにも迷惑をかけちゃって、それなのに私は今何もすることが出来ていないのだろう、と。
こんな私なら早くいなくなった方がいいのかな、って思ったりもしたけれど、ただ無為に死んじゃうのは嫌だな、とまた消えそうになる意識の中考えていた。
そのまま私は眠っていたようで、次に目が覚めた時には朝日が昇り始めていた。
意識が落ちた時はまだ明るかったので、かなり長い時間眠っていたようだ。
そのせいか少し身体は重かったけれど、頭はすっきりとしていて、元気な気分だった。
昨日まで考えていた、後ろ向きな考えはどこかへと消え去っていて、どこか前向きな気持ちになっていた。
もう、死んでしまうのは間違いないのだろう、死ぬ間際だから感じられるだけなのかもしれないけれど、私の命が徐々に消えていくのを感じていた。
きっと、あと数日ももたないだろうな、とどこか他人事のように考えながら、ベッドの脇に置いてある机に座った。
今のうちに、パパたちに向けて手紙を書きたいと思ったのだ。
それからしばらく、パパとママと、友達に宛てて手紙、遺書のようなものを悩みながら書き連ねていった。
かなり時間がかかっていたようで、途中ご飯を持って来てくれた看護師さんに見られないようにしながらも書いて行って、ようやく書き上げた頃には日が傾いて、空は赤く染まっていた。
その燃えるような赤い空を見て、私はこっそりと病室から抜け出した。
きっと、見つかったら外に出れないと思ったからだ。
何とか見つからないまま外に出られた時、私はワクワクする気持ちを抑えきれなかった。
これからすることを考えて、ほんの少し怖い気持ち、申し訳ない気持ちが出てきながらも、それでも楽しみな気持ちが抑えられずに私は走り出した。
身体が弱くてあまり運動してこなかったので、決して早いとは言えないような速度で、それにすぐに息も切れてきて足も震え始めたけれど、私は走るのを止められなかった。
走るって、こんなに気持ちいいんだ!
身体に当たる風も、新鮮な街の匂いも、少し離れているはずの海の匂いも、何もかもが気持ちよく感じられた。
特にどこに行きたい、とか目的は無かったので、最初は家族の所に行こうかな、と思っていたけれど、走っているうちに気が変わって私は友達のお家に向かっていた。
少しして、友達の家について、ドアベルを鳴らして少しもしないうちに友達がすぐに顔を出した。
彼女は焦った表情で、どうして、とかどうやって、とか言っていたけれど、私の思いを伝えると、泣きそうな顔をしながらもなんとか笑って、一緒に来てくれることになった。
それから私たちは、海に向かって走った。
彼女は普通の健康な少女で、あまり走るのに慣れていない私よりは早いはずだけれど、私のペースに合わせて走ってくれた。
そうして少しして海についた頃には、もう太陽は沈みかけていた。
浜辺に座り込み、荒い息を吐きながら私と彼女は寄り添っていた。
ただでさえ残り少ない命、最期に無理をして更に縮めるようなことにはなってしまったが、それでも私は、最期まで生きていた、死んだように生きるのではなく、最期に満足のいくような終わり方が出来て、一緒にいてくれる相手もいて幸せだな、と思いながら、目を閉じた。
今、私の横ではまるで眠っているかのような子がいる。
私の一番の友達で、病気だと聞いた時は目の前が真っ暗になるような感覚になった。
けれど、だからこそ、私はせめて最期は楽しく過ごしてもらいたいと思ってたくさん話をっしようと思っていた。
でも、彼女は最期の時に怯えながら少しでも長生きすることは無く、たとえはかないにしても最期まで自分の人生を走り切ることにしたらしい。
それが叶ったのかどうかは、今ではもう分からなくなってしまったが、この穏やかな顔を見て、せめて満足してくれていたら、と願っていた。
それからは、事前に連絡していた彼女の家族が来るまで、目から溢れてくる涙を、嗚咽を我慢できずに彼女を抱きしめ続けるのだった。
じゃあね。 かんた @rinkan
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