学校時間に於いておうち時間を発動した俺。 隣席に座る学園のマドンナが、そんな俺を好きだと先生に聞こえないよう呟いた。

雲川はるさめ

第1話

学校時間に於いておうち時間を発動した俺。

隣席に座る学園のマドンナが、そんな俺を好きだと先生に聞こえないよう呟いた。



「分かってる?いま、数学の時間だよ?」


超絶美少女。

頭脳明晰、運動神経抜群。そしてスタイルもいい学園のマドンナ、林ユーコの隣席で劣等生の俺がスウィッチを取り出し、机の下でカチャカチャやり出したもんだから、驚きの目でそう言った。


俺は顔を上げ、ちらりと彼女を見た。 

今は学校にいて、真面目に過ごすべき学校時間だが、俺は数学の授業に飽きて

大好きなゲームに興じる、つまり、

おうち時間を発動したのだ。

俺の中でのおうち時間は、

不真面目に、遊びに興じる時間だと

便宜上定義しておこう。


ぼそり、先生に聞こえないように呟いた。


「分かってるよ」


昨日の席替え後。俺は学年一のモテ女、

マドンナの隣になった。


一番後ろの壁際の席。


おうち時間を発動するのに申し分のない場所だった。


「それにしてもさ、ゲームってそんなに楽しいの?」


ヒソヒソと尚も続けられる会話。


「そりゃあね。最高のエンターテイメントだと思うね、俺は」


「私さ、やったことないんだよね。

そーゆーの」


「ふーん」


「ろくに遊ばずにここまできちゃったから、

自由に生きてる君がなんか、気になるな」


「やってみる?」


「いいの??」


彼女は目をかがやかせた。


「このゲームはさ、戦闘系のゲームなんだけどさ...」 


俺がゲームの説明を始めたところで、

先生にバレた。



「おい!!」


鬼の形相で先生が足早にやって来て、

俺のゲーム機をひょいっと取り上げたんだ。


「ああー!先生!返してください。

それがないと俺...」


スウィッチは俺の命。言ってみれば、

ライフポイントのようなもの。



全力で返してほしいんだけど...!!


「没収だ!!授業中にこんなもんいじってるとはけしからん!」


「お前は、廊下に立ってろ...!」


それから、

俺の首根っこを掴み、先生は俺を連れ出そうとした。


その時だった。


林ユーコが立ち上がった。


「先生!私が彼にゲーム機を貸してと頼んだんです。私がいけないんです!!」


「え?林?おまえが?」


先生は驚きを隠せないでいた。

何故って、学年一の優等生が、真面目女子が、

そんなことを俺に言う筈がないと思ったんだろう。


「いや、優等生のおまえが、そんな

馬鹿げたことする訳が...」



「いいえ。私がいけないんです。

だから、私も廊下に立ちます」


「......」


「そうか...」



「はい!授業終わるまで立ちっぱなしでいますね!」


先生は苦虫を噛み潰したような顔して、

俺ら二人を廊下に出した。


その後。


林ユーコは俺に謝った。


「ごめんね、私のせいで」


「別にいいんだ」


「ゲーム機が没収されても、またバイトして

稼いで買えばいいし」


「それにね」


「え?」


俺は制服のズボンの右うしろポケットに

利き手である左手を突っ込んだ。


そして、


「じゃん!」


と小声で言った。


左手には取られたゲーム機とは違う色のスウィッチ。


「スペア持ってるw」


「すご...!!」



「はいこれ」


「ありがとう!」


林ユーコによれば。ずっと我慢して

いい子を演じてきたんだと。


俺がユーコと関わり出して、

てか、これが馴れ初めで、廊下で

好きだと言われた。


自由に、楽しく生きてる、俺が好きだと。


この五年後。


二十歳になった俺が、プロゲーマーとして名を挙げるのはまた別の話。




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学校時間に於いておうち時間を発動した俺。 隣席に座る学園のマドンナが、そんな俺を好きだと先生に聞こえないよう呟いた。 雲川はるさめ @yukibounokeitai

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