おうち時間と僕と君
天猫 鳴
君を待つ部屋のなか
僕は日がな1日家にいる。
気ままに過ごす日々のなんと幸せなことか。あくせく働くこともなく穏やかな時間が過ぎていく。
窓から外の景色を眺めて空や人々の動きを堪能する。
時々、見知ったやつが窓の向こうを過ぎる。
こちらを哀れむ顔をするものやバカにするものもいるが気にしない。そんな事は僕には関係ない。
彼女との生活を僕はこの上ない幸せとともに抱きしめて過ごせている。ただそれだけで僕の生活は極上なんだ。
おうち時間で2番目に好きな事は寝ること。
窓から差し込む陽射しを受けてほかほかなカーペットに横になる。両手両足をぐっと伸ばして仰向けになっているとストレスなんて感じない。
体全体が溶けて柔らかくなって「ああ、幸せだなぁ」とまどろむ。
僕はここにいる。
それだけで「尊い」と彼女は言ってくれるから、僕は逃げ出さないんだ。
彼女の笑顔は僕を幸せにしてくれる。彼女の手が僕の頭を撫でる。丁寧に撫でるその手から愛を感じて、僕は幸せでたまらなくなるよ。
だから全身で「愛してるよ」って彼女を抱きしめる。
ふたりだけの濃密な時間は彼女が仕事から帰って来た瞬間に訪れる。
僕は彼女を見つめ頬を寄せてキスをする。彼女も僕を抱き寄せてキスを返してくれる。
僕は嬉しくてついくすくすと笑ってしまうんだ。
「同じものしか食べさせてもらえないんだろ? 可哀想なやつだ」
そんな事を言ったやつもいるけれど、ちっとも可哀想だなんて思わないよ。
僕はそれほどグルメじゃないしお腹が満ちればそれだけで幸せだと思える。食べられない辛さを知ってるからかな。
彼女も僕の事を考えてちょこちょこ食事を変えてくれるし、おやつもくれる。僕の健康を考えて遊んでもくれる。
大切に思ってくれる人がいる。
それは、僕にとって最大の幸せ。
家のなかは狭い。確かに狭い。
「安全でもそんな小さな世界に閉じ込められて何がいいんだ?」
僕は戦いたくない。
僕は無駄に戦いたくない。
少ないマスを奪い合って心を荒らしながら生きるのに疲れた。・・・・・・そんな事を言えるほど戦ってもいないか。
敗者とか逃避とか色々言うやつはいるけど、進む方向を変えただけだよ。自分が幸せで誰かを幸せにできる道があるなら、そちらを選んでいいんだ。
ガチャ!
(あ、彼女が帰ってきた!)
僕は飛び起きて玄関に走る。
早く彼女に会いたい、彼女の笑顔を早く見たくてわくわくする。
「ただいまぁ」
「お帰り!」
彼女にすり寄って彼女の足に絡み付く。
「きゃあ。るー君、待って待って」
嬉しくて困った顔をしてる君が大好き。
「良い子にしてた?」
「もちろんだよ!」
しゃがみこむ彼女の頬に目を細めて僕は頬を寄せる。
「ああ、るー君大好き! んーーっ」
彼女のキスは僕の幸せ。
僕を撫でる彼女の手が僕の全身を愛情で埋めてくれる。
「んー・・・るー君、今日もほかほかな匂いがしてる。太陽さんにほかほかにしてもらったの?」
甘い声の君が大好きだよ。
「うん、猫吸いが好きな君のためにしっかり太陽の匂いを付けておいたよ」
幸せな彼女の笑顔が嬉しくて、つい体がくねくねしちゃう。
「るー君のヘソ天、可愛い」
彼女はそう言って僕の胸からお腹を撫でる。
「あぁ、柔らかくて気持ちいいね」
頭も首や背も、君の手が触れるそのたびにビリビリと幸せを感じる。
僕の胸に顔を埋め、僕のお腹の匂いを嗅ぐ君。少し変わってるけれど君の事が大好きだよ。
「るー君、お腹空いてる? 今日はどのカリカリがいいかなぁ?」
キャットフードを手にとって嬉しそうに悩む君が好き。
「ちゅっちゅーるがいいな」
「極上シルクにしちゃう?」
僕の気持ちはなかなか君に届かないけれど。それでも幸せ。
「それじゃないんだけどなぁ」
僕が笑うと彼女も笑う。
「ん? 嬉しい? やっぱり極上シルクか」
おとぼけな君が好きだよ。
ずっとずっと一緒にいよう。
きっと僕が先に逝ってしまうだろうけど。その時まで、ずっと。
おうち時間と僕と君 天猫 鳴 @amane_mei
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