彼女のトリセツ~おうち時間の過ごし方

あいる

第1話~不思議ちゃん


 今までの彼女との付き合い方は、とにかくLINEにいち早く返信することと、インスタやTwitterにいち早く、必ずイイネを押すこと。


 とにかくそれさえ心掛けていたら何とかなった。


 新型コロナが日本をマスク生活に追いやった去年の春から付き合い出した実花はSNSはおろかLINEすらやっていなくて、僕は少し戸惑った。


 歴代の彼女はほとんど、食事に出かけても、食べる前に映える写真を撮る、やたら風景写真を撮りすぐにインスタにアップする。

 一緒にいてもスマホの通知を気にしてる。

 それが当たり前だと思っていたから特に気にもしていなかったけど、彼女はとにかく新しかった。


 自粛生活でなかなか外食も出来ないけれど、たまに行くランチでは、彼女はグルメサイトなんてまったく使わない。

 友達に誘われて行った評価の高いレストランで美味しかったことがなかったからとカラカラと笑う

 そして実花の作る料理は見た目こそ普通だけどかなり美味しい。

 これには僕も胃袋を掴まれている。

 おばあちゃん子だったからね、地味な料理ばかりでごめんね。という実花が可愛い。

 ふらりと入った店で、美味しいものに出会うことや、知らない街の片隅に可愛い雑貨屋さんを見つけることが楽しいのだと言う、おかげで散々歩かされることもあるけれど、僕にとってもかなり新鮮だった。



 見た目も可愛いし、イマドキの女の子だけど、いわゆる不思議ちゃんなのかもしれない。



 付き合い始めてすぐに自粛生活が始まり、SNSをやらない実花との連絡はもっぱら音声通話になり、僕たちは毎日のように電話で話す。



 LINEなら無料通話も出来るからと勧めた僕に実花は従いようやくアプリをダウンロード。

 ようやく、二人の連絡ツールの一つになった。

 僕のメッセージに短い言葉で返信してくれるようになったけど、絵文字やスタンプなどほとんどナシ。



 おはようとメッセージを送っても、返信は夕方だったり次の日だったりするし、それくらいのゆるいやり取りが、もどかしさもあるけど、実花らしいって思う。



 デートの場所が街中ではなくて、それぞれの部屋になり二人で過ごす時間が増え、知らなかった実花のことが少しずつわかってきた。


 本を読み出すと止まらなくて朝まで読んでること、本当は作家を目指して小説投稿サイトで物語を書いていることも、おうち時間で僕が知ったことだった。


 SNSをやらない代わりに、実花は小説を書き、自分の気持ちを言葉に記す。


「楽しいの?」


 そう聞く僕に、嬉しそうに返事をする。


「うん、自分らしく飾らずにいられるから」


 やっぱり実花は不思議ちゃんなんだろうなと思うけど、そんな彼女もいいのかもって思うんだ。


 彼女のトリセツ、誰にも渡す気はないし、僕にしか分からなくてもいいけど、もっと早くLINEの返信をして欲しい、それだけが今の不満だけど、不思議ちゃんだから仕方ないんだろうな?


「康太君ごめん!スマホを家に忘れてた~」


 ほらね、困った不思議ちゃんだろう?


 【おしまい】



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彼女のトリセツ~おうち時間の過ごし方 あいる @chiaki_1116

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