KAC2021 #1おうち時間を君と

くまで企画

KAC2021 #1 おうち時間を君と

 ・・・彼氏SIDE・・・


「あれー? クッション新しくした?」


 ぼすっぼすっ。小気味のいい音を立てながら君はクッションを右手で叩く。

「新品だよ。あんま激しく叩くなよ」

「ごめん。モノ買わない人間なのに珍しいなって思って」

「そりゃあこれだけ長いことステイホームって言われりゃあな」

「そっか、居心地アップだね」


 ぎゅむー。人をダメにする触り心地の犬の形をしたクッションを君は抱きしめる。


「気に入った?」

「うん、好き~」

「そっか。気に入ったら連れて帰ってもいいよ」

「うーん」

 君が顔をこちらに向ける。軽く塗った化粧がクッションに付かないようにしてる。


「いいや」

「……そっか」

 そう言って君は、テレビに視線を送る。クッションを抱きしめ続けながら。


 それがすごく愛おしいなんて、言えないな。君はどんな顔、してるのかな。


 ――数日前


「なにそれ」

「パグのクッション~可愛くない?」


 君がスマホの画面を見せてきた。うげっ、高くね?


「なんだよ、ぶっさいくー。俺の部屋には合わねぇな」

「なんで君の部屋に置くのよ。君、部屋に基本モノ置きたくない人じゃん」

「そりゃそっか。しかし、ぶっさいくだなー」

「このぶっちゃいのが分からないとはねー」


 ぶっさいくだけど、いいんじゃん。買っておいてやってもいいか。ほら、プレゼントみたいな。もう何年付き合ってるか忘れたけどさ。たまには何もない日に。


 それで君が喜んでくれるならうれしいな。


 ・・・彼女SIDE・・・


 外で会いづらくなって、最近はめっきりおうちデートばっかり。

 おうちデートって言ったって基本テレビ見たり、君のプレイしてるゲームを見て、お腹すいたらなんか食べて、暗くなったら解散~ってしてるだけだけど。

 なんか特別感なくなってきたよね。付き合って2年と10か月。

 まあ、そんなもんかなぁ。


 日焼け止め塗って、軽く下地とファンデをつける。アイラインだけ薄く引いたらおしまい。本当はもっと可愛くしたいけど、長時間一緒にいると崩れちゃうし、なにより君が薄化粧好き。もっと言えば『すっぴん美人好き』。世の中の『すっぴん美人』が全員すっぴんだと思うなよ。

「んー。なんかシミっぽい?」

 指でそっと頬を撫でる。コンシーラーは、だけど止めておくか。君は部屋が汚れるの嫌がるから。髪をシュシュで無造作にまとめて。

「行ってきまーす」

 誰もいない1Kの城に挨拶してから、鍵を掛ける。


 今日も前とは大きく変わった、いつもと変わらない一日。


 ――と思ったけれど


「あれー? クッション新しくした?」


 あれ? あれれ? 黒とグレーを基調にしたベッドの上に置かれているのは、こないだネットで見つけたパグのクッションじゃない?


 っていうか、あんだけ「ぶっさいくー」発言してたくせに買ってるじゃん。


 ぼすっぼすっ。

 右手で軽くパンチしてると、君が冷蔵庫から冷えた麦茶と熱い麦茶を持ってきてくれる。暑がりの君と寒がりの私。ほんと、気が利くね。


「新品だよ。あんま激しく叩くなよ」

「ごめん。モノ買わない人間なのに珍しいなって思って」

「そりゃあこれだけ長いことステイホームって言われりゃあな」

「そっか、居心地アップだね」


 ほんと、珍しい。パグを撫でる。ああ、思ってた以上の触り心地。なんだろコレ。


 ぎゅむー。

 思わず両腕で抱きしめてると君が言う。

「気に入った?」

「うん、好き~」

「そっか。気に入ったら連れて帰ってもいいよ」

 え、そうなの? 汚れた気がした? 一応気を付けてたんだけど。振り向いて合った目は、とても優しい。ただただ純粋に私にくれるって言ってるんだな。


「うーん」

 どうしよう。持って帰った方がいいのかな。でも、でもさ……。

「いいや」


 だってコレ、私専用だよね? なんか『他人』から、『このおうちにいてもいい人』になった気がしない? すごく特別感、ない?


「……そっか」


 もしかしなくても、私のために買ってくれたんだよね。やばい、にやける。

 慌ててテレビを見る。見たくもない番組を眺めながらクッションは離さない。


 君はどんな顔、してるのかな。

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