第3話 裁き
「判決! 被告人を死刑に処す」
関根理比太裁判官の大きな声が法廷に響き渡った。被告人の罪状は殺人罪。通り魔殺人で二人の犠牲者を出した。
少しだけ法廷内がざわついたものの、前回のような驚きの声は上がらなかった。
「本日は、これで閉廷します」
裁判は無事に終了した。
「今回は納得のいく判決だったな」
「何で前回の裁判では死刑にしなかったんだ? あの事件の犯人も負けず劣らずの凶悪さなのに」
「クレームでも来たんじゃね?」
インターネット上の掲示板やSNSでは、前回との差異について疑問に思う声がいくつか上がったが、前回のような騒ぎにはなっていない。SNS上のクソコラ画像も拡散しなくなった。
「この安い給料は何なんだ!? いつもより少し多いだけじゃないか! 徹夜や休日出勤までして、コードを修正したり、デバッグしたりしたのに! 成果物と関係ない雑用までやらされたのに! 残業代が殆ど出ていないじゃないか! そう言えば、請負に直接指示するのは違法なんだよな。もう我慢できん! 訴えてやる!」
X社の指示で働いていた請負のSEは待遇に不満を抱いていた。これまでは偽装請負は違法であるとわかりつつも、渋々と従っていたが、今回の案件――関根理比太のリコール――により、大量発生した作業をやらされた上、その割に給料も殆ど上がらなかった為、ついに怒りが爆発した。
SEはX社内で横行する偽装請負について内部告発した。マスコミに取り上げられ、インターネット上でも注目されるようになり、やがて裁判が行われた。
X社と請負会社に有罪判決が下った。
「関根理比太! 貴様! 世に送り出した恩を忘れおって! このポンコツ裁判官めが!」
X社の社長の叫び声が、法廷内に響き渡った。
「静粛に!」
「何が静粛に、だ! それしか言う事ないのか、この糞裁判官!」
「被告人の退廷を命ずる」
X社の社長は法廷から追い出された。
X社と請負会社には労働局から業務改善命令が出た。
X社の社長は会議を開いた。場所は絨毯が敷かれた会議室。開発部門の社員と外部の法学者が出席している。
「関根理比太の偽装請負判定のアルゴリズムを変える事はできないのか」
社長がのたまうも、出席者全員がNOを突きつけた。
「法律そのものを変えないとできません」
裁判官のアップデート 矮凹七五 @yj-75yo
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