くもばはあ
鮭さん
第1話
今日は久しぶりに仕事が休みだ。最近残業続きで苦しい毎日だったよ。丸一日予定が空いている。なんて数ヶ月ぶりだ。家でゆっくりくつろぐのもいいかもしれないな。そう思って部屋を見渡してみると、床にはズボンやらなんやらが散らばっているし、机の上ではいつのものだかわからないようなカップヌードルの容器に異臭のする液体が入っている。そう言えば、最後に掃除したのはいつだったかな......。思い出せない.....。ふぅ、流石にこのままじゃいけんのじゃないか。私は重い腰を上げ部屋を綺麗に掃除することにした。
そうは言っても初めてみると掃除というのは楽しいもので動くだけどんどん部屋が綺麗になっていく。元々が汚い分、すぐに綺麗になるのだ。めちゃくちゃ汚い部屋のように見えても、床の上の衣類を棚に整理するだけで大分見た目が良くなるのだ。ああ、気持ちいいなあ。久しぶりに部屋の掃除ができて、気持ちいいなあ。窓からは太陽の燦々とした光がはいってくる。青空、快晴。掃除のついでに換気もしてしまおう。私は窓をガラガラっと開けた。さーっと気持ちいい風が窓からはいって来る。4月のさわやかな空気。花粉症の人には辛いものかもしれないけど、僕は花粉症じゃないんだよね。はははは。でも机の上のカップラーメンはちょっとだるいな。まあ流してしまえばそれで終わりなんだけどね。ふー。カップラーメンの容器を手に取り、流し場で流す。心なしかねっとりとしている。数本の食べ残しが流し場に残る。こういうのがだるいんだよな。適当に水で流す。
ジャーーーーー
なす術なく流されていく麺たち。さあ、床掃除に戻ろう。目を向ける。コンセントにスマホの充電器が刺さっている。赤色のケーブルだ。あれは俺のじゃないなあ。誰のだ。この部屋にいれたのは、えーと、先週智浩が来たな。ゲームしに。忘れてったのか。ラインで聞いてみよう。
「おい智浩。お前スマホの充電器忘れてったか?」
「いや、持ってってねーぞ。」
即レスだが、智浩のものではないようだ。おかしい。誰も部屋には入れてないぞ。気味が悪いな。近くで見ようと手を伸ばす。と、頭上に気配を感じた。咄嗟にそちらを向く。大きな蜘蛛が天井に張り付いている。そして顔は人間の老婆。クモババアだ。
「それはわしのじゃ〜!!」
クモババアの口から糸が飛び出る。スマホの充電器に命中。見事に捕らえられた充電器はしゅるしゅるしゅるとくもばばあの口元へ。一瞬の出来事だった。
「ひっひぃ〜〜〜!!」
恐怖のあまり腰が抜ける。助けてくれ。助けてくれ〜。
「スマホが、スマホがない〜!!」
クモババアはそんなことを言いながら天井をそそくさと動き回っている。
「ひっひぃ〜〜〜!!」
恐ろしくて身動きが取れない。
「スマホがない〜!!」
「ひっひぃ〜〜〜!!」
「スマホがない〜!!」
「ひっひぃ〜〜〜!!」
クモババアはパニックに陥っているようだった。
「そこの君ぃ〜!!」
クモババアが話しかけてきた。
「ひっひぃ〜〜〜!!」
「スマホがないのじゃ〜。電話かけてくれぬか。電話番号はXXX-XXXX-XXXXじゃ。」
「ひっひぃ〜〜〜!!」
「かけてくれなければ貴様を食べてまうぞ。」
「ひっひぃ〜〜〜!!」
「XXX-XXXX-XXXXじゃ。」
私は震える手でスマホを手に取りとり、電話番号を入力した。死ぬ思いだった。必死だった。
トゥルルルルー、トゥルルルルー
音がなった。見ると壁に直立にスマホが立っている。
「あったのじゃ〜。」
クモババアはささっとスマホをゲットし窓から出て行ったのであった。
完
くもばはあ 鮭さん @sakesan
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