KAC20219 お題『ソロ〇〇』
魔法少女あいす 9話 それぞれの修行
厄災の魔王を倒すと言う
と言う訳で、トリの持っていたマジックアイテムで連絡を取る事に。
「あ、お母さん? 今ね、葵の家族とちょっと旅行に行ってるの。多分一週間くらい? うん、船旅。楽しんでくるね」
適当に話を作ってアリバイを作る。通話を切った後、アイテムをトリに返した。
「でもこれでごまかせたの? すっごくガバガバなんだけど」
「アイテム経由だと言霊の威力が増すから、大抵の嘘はすごく本当に聞こえるんだホ」
「うわ、詐欺やり放題じゃん」
「だから悪用厳禁ホ」
トリはそう言うと鼻息荒くドヤ顔に。そんな相棒を見たあいすは呆れてため息を吐き出した。
「いやすごいのはアイテムであって、トリじゃないからね」
「そ、そんなの分かってるホー!」
と、そんな感じで、親からの心配を帳消しにした彼女が何をやっているのかと言うと、当然のように魔法の修行。幹部を失った魔王軍が弱体化している内に一気に叩くため、主要魔法少女はそれぞれが時間の進みの遅い部屋、通称マジカルドームに入り、自らの能力の底上げを図っていた。
ここまで来たらトリも本気であいすを指導する。羽に竹刀を持って鬼コーチ気取りだ。
「そんなんじゃダメホ! もっと集中するホ!」
「うっせえ!」
その調子に乗った言い方にムカついたあいすは丸っこい体掴むと、思いっきり投擲。この空間には2人しかいない事もあって、彼女も容赦がない。
お互いが本気だからこそ、ドームでの修行は順調に進んでいく。何だかんだ言いながらもあいすも力が身につく感覚をしっかり実感し始めていた。
「もうどれくらい経ったのかな? 周りに何もないから感覚が分からない」
「この部屋は時間の流れが違うから大丈夫ホ」
「精神と時の部屋みたいなもん?」
「その例えはよく分からないホ」
同じ頃、葵やキララも別のマジカルドームでそれぞれの修行をしていた。近くにいるのに、他の2人がどう言う事をしているのか分からない。それがあいすには不満だった。
「みんな一緒の部屋で修行すればいいのに」
「それぞれ伸ばす能力が違うホ。一緒には出来ないホ」
「それでソロ修行かぁ。せめて葵と一緒にやりたかったな」
「あいすはまず1人でちゃんとした魔法を使えるようにならなきゃホ」
別のドームでは、葵がヨガのような座り方をしてまぶたを閉じて精神を集中させていた。その横ではナーロンが彼女を監督している。
「そうそう、集中するニョロ」
「……」
今まで1人で頑張ってきた葵は、先天的に魔法を使えた事もあって成長が実践向けに特化しすぎていた。そのバランスを取るため、今までに出来なかった精神的な力を高める修行に集中する。マジカルドームは外からの余計な刺激が入らない分、この手の修業にも最適だった。
ルーティーンの瞑想を終えた後、彼女はナーロンの顔を見る。
「私、まだ強くなれるかな?」
「珍しく弱気ニョロね」
「最近は全然力が上がった気がしなくて」
葵は自分の手を見つめながら今の悩みを相棒に吐露する。成長の早かった彼女は、すぐにその力が臨界点にまで達してしまっていたのだ。側にいてその悩みを肌で感じていた丸っこい蛇は、出口を探して迷っている葵をまっすぐに見つめる。
「体力には限界があっても精神にはそれがないニョロ。そう言う事ニョロ」
「そうだね、分かった」
「このまま、宇宙の真理にまで辿り着くニョロよ~!」
一方、2人をこの世界に呼び込んだキララもまた別のドームで修行に励んでいた。彼女がその修業で伸ばすべき課題は身体能力。そのため、修行も独自のものとなっていた。
キララはペプラの監督のもと、そこで1人演舞を続ける。中国拳法のようなオリジナルの型を、体力が続く限り繰り返していた。
「ハッ!」
「そうそう、いい調子ニャ」
「私も先輩に負けないくらいに強くなるっス!」
一通りのメニューをこなした後は一休み。汗を拭きながら水分を補給してしっかり体を休ませる。彼女は体をほぐし、ドームの天井を見つけた。
「これで強くなってるのかな……」
「焦る事はないニャ。体の動きを極めれば、無意識に正しい答えに辿り着けるようになるのニャ」
「で、宇宙とひとつになるんスよね!」
「世界は見えない流れにみんな従っているのニャ! その真理もこの修業で掴めるはずニャ」
相棒の哲学的な話をキララは何度もうなずいて聞き入れる。休憩の終わった彼女は立ち上がり、演舞を再開。そうやって繰り返す事で、魔法力の感覚を体に覚え込ませるのだった。
「ハイイーッ!」
3人がそれぞれのソロ修行を始めて外の時間で半日が経った頃、ドーム内では半年分の時間が流れていた。
「あいすレインボウ!」
「やったホ! もう教える事は何もないホ」
あいすは、ついに1人でも今までの雑魚モンスターを倒せるレベルの魔法を使えるようになる。トリから免許皆伝をもらった彼女は、ステッキをギュッと握り直した。
「正直、自分にここまでの力があるとは思わなかったよ」
「それが才能ホ。自信を持っていいホ」
「でもトリとの合体魔法の方がやっぱすごいよ」
「だから最終決戦にはボクもついていくホ」
強くなったとは言え、自分の力が敵の幹部にどれだけ通用するか分からなくて不安だったあいすは、このトリの言葉に勇気をもらう。嬉しくなった彼女は相棒の小さい羽をギュッと握った。
「ありがと! すっごく心強い!」
「ふふん、頼るにするホ」
「むちゃくちゃこき使ってやるからな!」
「それは勘弁ホ~」
隣の葵のいるドームでも修行は最終段階に達していた。精神の極みに辿り着いた彼女は魔法力の真髄を体感して、全ての魔法の力の底上げに成功したのだ。
「マジカルレインボウインパクト!」
葵の握ったステッキから放たれる魔法は、以前の3倍の威力を発揮する。強度を測るために用意された分厚い魔法壁10枚を全て貫通したその成果を目にしたナーロンは、満足気にうんうんとうなずいた。
「やったニョロね!」
「うん、自信がついたよ」
目標を達した葵に顔にもう迷いはない。きりりと凛とした表情の彼女を見たナーロンは、修行の完了を確信する。
もうひとつのドームでもキララの修行が最終段階に到達。今までの演舞の成果を自分の得意の魔法に生かしていた。武術の型から始まり、グローブ型のステッキが拳に力を集めていく。
そこからの素早い正拳突きによって、炎の弾がいくつも放たれた。
「キララ火山連弾!」
炎の弾は魔法壁を次々に破壊していく。その威力を確認したペプラは拍手で彼女の努力を称えた。
「ついに奥義にまで到達したのニャ。免許皆伝ニャ!」
「マジっスか? やったぁ!」
全員の修行の終了を確認して、それぞれのドームに女王からの連絡が入る。
「皆さん、修行ご苦労さまでした。では次の段階です。準備が出来たら中央広場の魔法柱の前に集まってください」
お城の前にある中央広場には、大地と空を繋いで魔力の元のマナを循環させる大きな3本の柱がそびえ立っている。待ち合わせをするにしてもこれほど分かりやすい目印はない。
と言う訳で、3人はほぼ同時に言われた通りに集まっていた。
「葵! 久しぶり! 強くなった?」
「当然でしょ? 私はあいすが心配だよ」
「私だって強くなっ……」
「せんぱーい! 私も強くなったっスー!」
あいすが返事をしている途中でキララが葵に思いっきり抱きつく。この光景を目にしたあいすは、若干その光景に引いていた。
それで場が変な雰囲気になり、葵はまた力技で抱きつく彼女を引き離す。
「キララ、ふざけないで」
「私は本気っスよ?」
「そう言う事言うから、ほら、あいすが引いてる!」
葵は微妙な距離をとっているあいすの方に顔を向ける。この時、同時にキララからの視線も向けられたあいすは、表情を固くしまま手を前に差し出した。
「ご、ご自由にどうぞ?」
「誤解しないでー!」
そんな感じで3人でワチャワチャやっていると、葵の母親の女王がやってきた。
「フフ、みんな仲良くしていますね」
「じょ、女王様!」
「キララ、そんな畏まらないで」
「お母様、私達を集めた理由は何ですか?」
3人を代表して葵が母親に問いかける。女王は優しい微笑みを湛えたまま、修業を終えた少女達に向かって次の予定を口にした。
「最後に沐浴して魔法精霊の加護を授かりましょう」
「葵、沐浴って?」
「ここから少し離れた所に精霊の泉があって、そこで身を清めるんだよ」
「超簡単に言えばお風呂っス!」
3人は精霊の泉に向かい、沐浴用の服に着替える。魔法印の編み込まれた服は、それだけでそれぞれの基礎魔法力を高めてくれた。そうして、コンコンと湧き続ける泉の水をかけ湯のように体に浴びせていく。
水は冷水ではあるものの、専用の服に着替えた事によって人肌の暖かさに感じられた。その優しい刺激によって、体に魔法精霊の力が染み渡っていく。
「何これ、不思議な感じ……」
「これが魔法精霊の加護ってやつっス」
「この加護で基礎魔法力が更に底上げされるんだ」
「2人共詳しいね。流石はこの世界の人……」
2人の説明を聞いたあいすは、更に力がみなぎってくるような感覚を覚えていた。葵やキララも同じなのか、身に纏うオーラが強く濃くなっているように見える。
沐浴を終えた事で全ての準備は終了し、3人は決戦用の特殊なステッキを女王から手渡される。それによって変身した姿は、今までよりも更に神々しい輝きを放っていた。
「私が出来る事はこれで全てです。では、健闘を祈ります。みんな、使命を果たして無事に帰ってきてくださいね」
「「「はいっ!」」」
3人の魔法少女は強い決意を胸に秘め、最後の戦いに向かうのだった。
10話
https://kakuyomu.jp/works/16816452219019936314/episodes/16816452219387761723
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