全てがソロになる
僕はずっと1人だった。1人が好きだったのもあるけど、何をやっても自然に1人になってしまうんだ。だから1人の環境が当たり前で、1人でいないと落ち着かないくらいにすらなっていた。
別に、学校とかでグループにいるのも嫌いと言う訳ではないのだけれど。
1人が好きと言うか、1人でも平気って言うのが近いのかな。だから、歌いたくなったら1人でカラオケをするし、食べたくなったら1人でファミレスとかにも行くし、1人で映画も観に行くし。
これらの事をするのに誰かを誘うと言う事もしない。誘う意味も分からない。
暇が出来たら1人で喫茶店にも行くし、楽しみたかったら1人でライブにも参戦するし、楽しみたかったら一人旅もするし、買い物はいつだって1人。好きに楽しんだり好きに行動出来るって言うのはいい、開放されている気がするよね。
1人で遊園地に行くと自分の行きたい所に行ける。自分の遊びたい遊びが出来るし、休みたい時に休める。休日は何の足かせもあっちゃいけない。休みの日まで誰かのために行動なんてしたくない。ああ、1人ってなんて素晴らしいんだ。
この間の休日は1人で猫カフェに行ったんだ。猫はいいなあ。みんな自由でそれでいて愛されている。許されている。何故か僕は猫に嫌われていて、それは猫カフェでも一緒なんだけど、それでいいんだ。同じ空間にいられるだけでいい、触れなくていいんだ。
集団登校は小学校までさ。中学からはずっと1人での登下校。友達と並んで行き来とか通行の邪魔でしかない。それに通学路の自然も好きに愛でられない。1人だから好きな景色を好きなだけ記憶に刻み込めるんだ。この一瞬を覚えていられるんだ。
1人が好きだからなのかな。その気持ちが伝わるのかな。クラスでも僕は1人だ。少なくとも仲間を自分から求めたりはしない。休み時間も1人だし、お弁当も1人で食べている。当然、連れションの経験もない。謎だよね、あの風習。
だからって、別に孤立はしていないよ。いじめじゃないんだ。普通にしているだけ。休み時間や放課後とか、クラスの誰も絡んでこないけどいじめとは無縁だから。
そりゃまぁ無視されている可能性は否定出来ないけど、そう言うの平気だからね。誰も好き好んでノーダメージな事はしないんじゃないかな。自然にこうなっただけって信じたい。
今日の放課後は寄り道をしよう。気まぐれに好きな道を通って帰ろう。ああ、風が気持ちいい。季節の景色を見るのが楽しい。今日の僕はそう言う気分だったので、地元の展望台に向かう。そこからの景色が素晴らしいんだ。
平日の昼下がり、その展望台のある広場には誰もいない。田舎あるあるの風景。だけど、それがいい。だからこそ、いい。
当然展望台も誰もいなくて、全ての場所が僕の貸し切りの特等席。そこから見る景色は最高なんだ。吹き抜けていく風に心が洗われていく。誰もいないのに、つい気持ちを口に出してしまうんだ。
「海はきれいだなぁ。心が浄化されていくよ」
1人でいる事のいいところは、何を言っても反応が返って来ないところ。クサい事を言っても、ダサい事を言っても、厨二的な事を言ってもネガティブな反応は返ってこない。逆に受けを狙っても笑いは起こらないけど、そう言うセンスもないし言うつもりもないし。
そんな感じで1人を満喫していると、展望台に女の子がやってきた。彼女は階段を上ってすぐに僕の姿を確認する。
「あー、先客がいたぁ」
背後で聞こえてきたその声は聞き覚えのあるものだった。振り向くと、目に飛び込んできたのはクラスメイトの女子。確か名前は佐倉さん。明るくて割と自由人なイメージがある。今まで話した事はないから、それが本当の姿かどうかは分からないけど……。
僕は変に絡まれないように気配を消す。これも長年のソロライフで身につけた技だ。成功すれば全く気付かれなくなる。今までこの能力で何度も危機を脱してきた。今回もこれで上手く行くはずだった。
「あっ、祐二君じゃん。よくここ来るの?」
「あ、うん」
「いいよねここ」
「あ、うん」
相手が彼女だからなのか、それとも僕の調子が悪いからなのか、気配は全く消せていなかった。女子と2人きりで会話とか、もしかしたら人生で初めてかも知れない。どう反応していいか分からない。必然的に会話も一方的なものになる。
「祐二君ってネコ好き?」
「あ、うん」
「たまご好き?」
「あ、うん」
佐倉さんの話は流れが読めない。だから返事も必要最低限の反応しか出来ない。こう言う時、陽キャのみなさんさんはどうやって盛り上げていくんだろう? 僕には無理だよ。今すぐに逃げ出したいよ。
そんな僕の気持ちなんて全くお構いなしに、彼女からの一方的な質問は続く。
「アニメ好き?」
「あ、うん」
「全部同じ返事。受ける」
「あ、あはは」
気が付くと、佐倉さんは僕の隣にまで来ていた。石鹸の香りなのかな? 女子っぽい匂いにクラクラしてしまう。正常な判断が出来なくなってしまう。どうして彼女はこんなに僕に近付けるんだ。逆だったら絶対無理だ。
佐倉さんは展望台からの海の景色を眺めている。僕はその横顔を見る事すら出来ない。
「いつもここに来るの?」
「いつもって訳じゃないけど」
「そかー」
「……」
「私これから毎日来ようかな」
その日は会話はそれで終わり、存分に景色を堪能した僕らは展望台を後にした。夕暮れ時の帰り際、僕に向かって手を振った佐倉さんの姿が目に焼き付いてしまう。一体彼女は僕の事をどう思っているんだろう。
次の日の放課後にも僕は展望台に来た。淡い期待がなかったと言えば嘘になる。そうして、佐倉さんは来なかった。その次の日もその次の日も。展望台には毎日通ったけれど、あの日以降この場所に彼女が来る事はなかった。学校には来ているのに……。
「やっぱり、こうなるんだなぁ……」
展望台からの景色を見つめながら僕はため息をつく。何故かは分からないけど、僕がいると必ず1人になる。まるでそう言う呪いがかかっているみたいに。うつむいていると、不意に潮風が僕を慰めるように頬をなでていく。まぁ、こう言う事も慣れてはいるけどね。
放課後、今日も僕は展望内に向かう。そこから眺める海の景色が好きだから。いや、そりゃまだちょっとは期待もしているけど……。
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