KAC202110 お題『ゴール』
魔法少女あいす 10話 魔王封印!
魔王城の位置と魔王の玉座の場所は既に魔法探知で把握済みなため、魔法少女達は一気に転移魔法陣で乗り込む事になる。
出発直前、あいす達は円陣を組んでそれぞれが気合を入れた。
「魔王を倒すぞー!」
「この世界に平和をー!」
「みんなで生きて帰るぞー!」
「「「しゃあっ!」」」
こうして3人と3匹は魔法陣に乗る。最後の戦いの火蓋は切って落とされた。転移は一瞬で終わり、みんなは玉座の間へ。魔法少女側は奇襲をかけたつもりだったものの、どうやらその作戦は読まれていたらしい。
何故なら玉座にいたのは魔王ではなく、残された四天王だったからだ。
「ふふ、王の読みどおりでしたな」
「こんな小娘なぞ、我らが捻り潰してくれるわ」
「ガキ共、死ぬ前の祈りは済んだのか? そのくらいの時間なら待ってやるぞ?」
ずらりと並んだ3幹部達。一番右は背が高く痩せていて目を狂気に血走らせた悪魔。真ん中に立つのはムキムキで仁王立ちをしている力に自信のありそうな屈強な悪魔。そして、一番左には何を考えているのか全く読めない不思議系のイケメン悪魔。
3幹部を目にした葵は、すぐに他の2人の顔を見る。
「みんな、全員で1人ずつ倒そう!」
「そうは行くかァ!」
作戦を聞いたヒョロ幹部が手をかざして魔法を発動。3幹部それぞれ1人ずつに分断されてしまう。
「俺達3人が丁重におもてなししてやるぜェ!」
このヒョロ悪魔と対峙する羽目になったのは葵。やつはいきなり魔導兵器を使い、装填された魔弾をガトリング砲のように連射し始める。
葵もすぐに防御壁を展開させるものの、攻撃の勢いが強すぎて全く近付けなかった。
「ヒャッハァー! 力比べだなァ!」
「くぅぅ……っ」
キララが飛ばされたのは光が一切届かない闇空間。目が役に立たないと察した彼女はすぐにまぶたを閉じた。武闘家にありがちな心眼で対処する作戦だ。
「愚かだな……」
キララはまぶたを閉じたまま、声のした方角に注意を向ける。しかし襲ってきた攻撃は背後からだった。
「キャアアッ!」
強烈な痛みを感じた彼女はすぐに方向転換する。しかし今度はまた別の方向からの攻撃がキララを襲った。その後も読みはことごとく外れ、彼女は混乱する。
「な、何で気配が読めないの?」
「何故なら全てが幻術だからだ。お前の感覚はもう我の思い通りよ!」
敵の攻撃は闇で視覚を奪い、その他の感覚をも狂わすものだった。まんまと策略にハマったキララは成す術がない。このピンチを前にペプラが叫ぶ。
「キララ、修行を思い出すニャ!」
「無駄無駄無駄無駄ァー!」
「キャアアッ!」
他の2人と同様に別空間に飛ばされたあいすは、目の前に現れた敵に速攻で攻撃を仕掛ける。
「あいすバーン!」
「魔竜呼応砲!」
2つの強力な魔法は互いの軌道を外れ、敵の攻撃があいすに迫った。
「うわああっ!」
「危ないホー!」
攻撃が直撃する前にトリが身を呈してかばう。あいすは無事だったものの、相棒はこんがりと丸焦げ。その姿を見た彼女は怒りでリミッターが解除された。
「よくもおお! あいすインパクト!」
「な、何だとぉぉぉ!」
あいすはムキムキ幹部を一発で倒し、厄災の魔王のもとに単独で向かう。目印の魔法陣が出現したので一瞬でその場に到達した。
「ほう? デキナ・キウスを倒したか。喜べ、お前が一番乗りだ」
「あんたを倒せばいいんでしょ。覚悟しな!」
怒りに燃えるあいすは持てる力を全て使って魔王に攻撃を挑む。しかし、その魔法攻撃はどれひとつとして魔王には通じなかった。
一方、力比べ状態となっていた葵戦。攻撃のリズムを学習した彼女は敵の魔弾装填の隙を突く。
「マジカルレインボウスーパー!」
「そ、そんな馬鹿なァァァ!」
この一撃で葵も四天王の1人を倒す。そうしてすぐに魔王のもとに走った。駆けつけた時に彼女の目に最初に映ったのは、力尽きて倒れたあいすの姿。
「よくも私の友達をぉぉー!」
暗闇の部屋では、キララがまだこの攻撃を破る手立てを見つけられずにいた。一方的に攻撃を受け続ける相棒の姿を見たペプラも覚悟を決める。
「仕方ないニャ……」
彼女はキララの背中にしがみつくと同時に意識を同調させる。成功した瞬間、2人は融合した。これによって使い魔の持つ超感覚を得たキララは幻術を打ち破る。
「火炎牙狂い裂き!」
「グワァァァ!」
特訓で得た奥義を駆使して、キララも四天王を撃破する。障害がなくなった彼女もすぐに最終決戦の場に急いだ。魔法陣を出た途端、魔王の攻撃によって葵が倒れる寸前の光景が彼女の目に飛び込んでくる。
「せんぱーい!」
「ぬ! 四天王は全員破れたか。不甲斐ないのう」
「このおおー! 火炎牙突!」
ペプラと融合したままの彼女はすぐに能力バーストのかかった状態で奥義を披露する。火炎をまとった超高速での打撃は魔王の右手が受け止めた。
「ほう、やるな」
「嘘?」
「お前なら多少は遊び相手になってくれるか」
ここから魔王とキララの打撃戦が始まる。彼女は本気で攻撃を繰り出すものの、魔王はそれを軽くいなし続けていた。
「キララ、ちょっとの間お願いね」
「わ、分かりました!」
魔王の相手をキララに任せた葵は、すぐに倒れているあいすのもとに向かう。心音を確認した彼女はすぐに回復魔法をかけた。
「あ、あれ? 葵?」
「良かった。間に合って」
「魔王は?」
「今キララが相手してる。さあ、最後の作戦を実行するよ!」
葵はマジ顔であいすに握りこぶしを作って見せる。けれど、その意気込んだ顔をあいすは直視出来なかった。
「でも、トリが……」
「僕はもう平気ホ!」
丸焦げになったはずのトリは見事に復活し、あいすの前に現れる。それを目にした彼女はすぐに相棒を力強く抱きしめた。
「トリーっ!」
「く、苦しいホ。それより早く作戦に移るホ! キララも長くは持たないホ」
「分かった。葵、行こう!」
こうして魔王の前に3人の魔法少女とその使い魔が揃う。形勢逆転――とは行かないも知れない。全ての勢力を結集しても魔王には歯が立たないかも知れないからだ。
その力の差が分かっているからこそ、魔王はこの状況においても余裕の態度を崩しはしなかった。
「何人来ようが無駄よ」
「それも計算済みだったら?」
葵は余裕たっぷりマンの魔王に挑発的な表情を向ける。圧倒的な力を前になお絶望に至らない、その真意が分からなかった魔王は首を傾げた。
「何?」
その心の隙を突いて、3人は魔王の周りを取り囲む。一緒についてきた使い魔達もその輪の中に入った。全員が適切な配置についたところで、魔法少女達の最終作戦が開始される。彼女達は声を揃え、呪文を唱えた。
「「「リーズ・デル・タル! 時空封印魔法発動!」」」
「何……だと?」
呪文を唱え終わったと同時に魔王の周りに何重にも魔法陣が出現し、それぞれが複雑な術式を展開し始めて魔王を光の檻に閉じ込める。こうなる想定を全くしていなかった魔法は対処が間に合わなかった。
「そんなバカなああ!」
やがて封印魔法陣は対象を時空間の彼方に閉じ込めていく。断末魔の叫び声を上げながら、魔王は彼女達によって厳重に封印されたのだった。
封印に全エネルギーを使い果たした魔法少女達はその場に全員倒れ込んでしまう。けれど、最終目的は果たせたので彼女達の感じる疲労感は心地良いものだった。
ボスが倒されたのもあって魔王軍は瓦解。もう他の世界を侵略する余裕はなくなった。今後の魔界は、無数に別れた派閥同士が争って混沌の時代が長く続く事になるだろう。
こうして、マジカルワールドに平和が訪れたのだった。
王国に戻った魔法少女達は、マジカルワールドの全ての国民から祝福される。その宴は三日三晩続いた。
元々マジカルワールド住人の葵やキララは、平和になったこの世界で暮らす事になった。葵は更にこれから姫としての生活をする事にもなる。
あいすは日本人だからこの世界にずっといる事は出来ない。親も心配するし。必然的に別れが待っていた。
「ゴールに辿り着いたね」
王宮前の広場であいすは葵に声をかける。その顔は涙でグシャグシャになっていた。
「あいすのおかげだよ。有難う」
「私、そろそろ帰らなきゃだけど、また会えるよね」
「当然だよ。また遊ぼうね」
2人は抱き合い、お互いに出せる涙を出し尽くす。こうして変わらない友情を確かめ合った後、あいすは日本に帰った。
地元に戻ってしばらく過ぎた後、心に大きな穴がいた彼女がぼうっとしていると、窓から見慣れた丸い鳥が入ってくる。
「ただいまホ!」
「トリ?! なんで?」
「アイスが淋しがってると思ってやって来たんだホ。ボクがずっといるから喜べホ」
「ったく、仕方ないなぁ」
あいすは頭をかきながら、この嬉しい再開に頬を緩ませる。すぐにトリが来なかったのは手続きに時間がかかったかららしい。こうして賑やかな日々がまた戻ってきたのだった。
ちなみに、葵とはあのマジックアイテムで今も頻繁に連絡を取り合っている。例えるならリアル友達からネット友達になった訳だ。キララも向こうの世界で元気に暮らしていて、そう言う報告を読むのが今のあいすの一番の楽しみになっていた。
それに、マジカルワールドとは魔法陣で繋がっている。そう、都合が合えばお互いにすぐに行き来が出来るのだ。そんな訳で、彼女達は月に一度はオフ会をしていた。
「今日のオフは私がみんなを部屋に招くから、トリ、早く部屋を片付けて!」
「うひぃぃ。あいすは使い魔使いが荒いホ……」
「あん?」
「な、何でなんでもないホー!」
あいすとトリのへっぽこコンビの賑やかな声が今日も静かな住宅街に響き渡る。こうして、平和な日々は続いていくのだった。
(おしまい)
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