KAC20216 お題『私と読者と仲間たち』

魔法少女あいす 6話 葵の秘密

 あいすは改めて魔法少女姿の葵を見る。上から下までじっくりと見る。まるで品定めをするように更にねっとりと見る。


「ちょ、見過ぎ」


 見られすぎる事に抵抗があったのか、彼女は変身を解いた。そうして、首をかしげる友達の顔を見つめる。


「黙ってたのは悪かったけど、言いたい事があるなら黙ってないで何か言って」

「葵、いつからなの?」

「うん、実は去年からなんだ」

「嘘? むっちゃ先輩じゃん。全然知らなかった。どう言う事なの?」


 あいすの質問に、葵は自分が魔法少女になった経緯を話し始めた。


「それには私の趣味の話から始めないとだね……」

「えぇ? それ長くなる?」

「大丈夫、手短に話すから」


 彼女、葵は小説を書く趣味があり、去年の夏に投稿サイトに投稿をし始めたらしい。何作か作品を投稿している内に読者も増えてきて、他の投稿者の作品を読んでいる内に同好の仲間も増えていったのだとか。


「あの頃は本当に趣味が充実してたよ」

「何でそれが魔法少女に繋がるの?」

「そこなんだけど、ある日サイトをチェックしていたら不思議な作品が目についたんだよね」


 葵の話によると、その作品が投稿された直後からおかしな事が起こり始めたらしい。どんどんサイトからユーザーが消えていったのだ。それには書き手も読み専も関係なく――。


「思えば、あの頃既にサイトは汚染されてたんだと思う」

「それって敵って事?」

「敵? うん、敵だね」


 サイトからユーザーが消えたと言ってもネット上の話だから、人が消えたのか単に退会しただけなのかは分からない。ただ、噂では例の不思議な作品を読んだ人に異変が起こると言われ始め、その作品は更に人気になり、その人気が拡大していく度にユーザーもどんどん減っていってしまっていた。


「だから、私もその作品を読んでみたの」

「ちょ、大丈夫なの?」

「そうね。ぶっちゃけ言うと私も襲われたよ。黒い影に」


 作品を読んだ瞬間に画面から影が襲ってきて、葵はびっくりしてスマホを投げたのだとか。それでも影は襲ってきて、何の対抗策も思い浮かばなかった彼女は死を覚悟する。


「でも葵は今もここにいるじゃん。何があったのさ」

「そこでボクの登場ニョロ」


 話の腰を折るように、ここで蛇がドヤ顔で割り込んできた。この新顔をあいすはじろーっと覗き込む。


「そうだ、あんた誰? トリの親戚?」

「ボクの名前はナーロン。トリの友達だよ」


 ナーロンと名乗った丸っこい蛇は、自己紹介しながらその場でくるっと一回転する。手足がないのに器用なヘビちゃんだ。あいすはその話の信憑性を確かめようと、側にいたトリの顔を見る。


「そうなの?」

「そうだホ。でもあいつが人間界に来ていたとは知らなかったホ」


 トリがうなずいたので、あいすもその話を信じる事にする。この時点で、彼女の興味は葵の事からこのマスコットキャラの方に移っていた。注目が自分から離れた事に少し気を悪くした葵は、ぷくっと頬を膨らませる。


「話を続けていい?」

「あ、どうぞどうぞ」


 黒い影に襲われた彼女を救ったのはそこにいるナーロン。彼は葵の力を見抜き、彼女にステッキを授ける。


「彼が言うには、創作の力はイマジネーションの力なんだって」

「どう言う事?」

「私には魔法少女の才能があるって事みたい」

「えっ? じゃあ最初から魔法が使えたの?」


 あいすの質問に葵はコクリとうなずく。ステッキを手にしてすぐに変身した彼女は、その場で魔法を使って影を浄化。その魔法の力を使って、闇に取り込まれた読者や仲間たちを取り戻しているのだとか。


「……とまぁ、そんな感じかな」

「ナーロン、お前そんな事やってたのかホ」

「ひと足お先にお役目についたんだニョロ!」

「ぐぬぬホ……」


 話の最中、マスコット同士がマウントの取り合いを始める。その可愛らしい口喧嘩をまるっとスルーして、あいすは友達の話に好奇心を踊らせた。


「で、そのミッションは終了したの?」

「まだ途中なんだ。でも全員助けるつもり」

「じゃあ私にも手伝わせてよ!」


 あいすの目がキラキラと輝く。今まで魔法少女になってもトリを奪い返そうとするモンスターとしか戦っていなくて、モチベーションがかなり下がっていたからだ。やはり戦う魔法少女には明確な敵が必要だと、彼女は確信していた。

 この申し出に困ったのは葵の方だ。その理由はとても簡単だった。彼女はあいすと視線を合わせないようにして、言いにくそうに言葉を絞り出す。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど……。あいすはまだ……えぇと……」

「もっと修行頑張るから! 今すぐは無理でも魔法を使えるようになるから!」

「分かった。じゃあ、私もあいすを助けるね」


 あいすの熱意に葵の方が折れる形となり、こうして魔法少女同盟は結成される。2人が熱い握手を交わしたところで、またしてもモンスターが現れた。

 そのモンスターの姿を見たあいすは、初めて見るその姿に目を丸くする。


「何あれ?!」


 今まであいすの前に現れていたモンスターは程度の違いこそあれ、どれもひと目で分かるような異形の存在の造形をしていた。けれど、今2人の目の前に現れたのは、大きさもその姿も人間によく似た――きぐるみ姿の人間――のような姿だったのだ。


「どうやら、私の方の敵みたいね」


 葵はすぐにステッキを掴んで魔法少女に変身。そのままステッキをきぐるみモンスターにかざした。


「マジカルレインボウレイ!」


 彼女のステッキの先から七色に輝く高出力ビームが発射される。勝利のテンプレパターンだ。その極太ビームはモンスターに直撃――しなかった。直前で謎のバリアを形成させてビームを弾いたのだ。


「えええっ!」


 いつも一撃で勝負を終わらせていたからか、自慢の攻撃を弾かれた葵はショックで体が硬直する。その隙を突いたモンスターはすぐに行動を開始した。超高速でぬるりと動くと、素早くあいすの背後に回り込む。


「うわっ」

「しまった!」


 モンスターはあいすの腕を決め、人質に取った。知能で言えば、今まであいすを襲っていた敵よりも頭が回るらしい。


「さあどうする? 人質を開放して欲しければ……」

「葵! 私なら大丈夫!」

「うっせえ! 喋るな!」

「キャアア!」


 葵を心配させまいと叫んだあいすは、きぐるみモンスターに痛めつけられてしまう。人質の使いを知っているのか、痛めつけすぎず、効果的に悲鳴を上げさせる方法を熟知しているようだ。

 自慢の魔法も効かず、人質も取られた事で葵は動けない。


「あいすを離して!」

「いいぜ? だがその前にステッキを捨てな」

「くっ……」


 葵は素直にその言葉に従う。ステッキを放り投げた彼女は変身も解けた。無防備な状態になったのを確認して、モンスターはクククと邪悪な笑みを浮かべる。


「お前もモンスターにしてやる!」


 モンスターは片手を葵の方向に向かってかざした。それは油断を生み出す行為でもある。そのチャンスにあいすの目が輝いた。


「私を舐めるなー!」

「な、何ィ!」


 力が緩んだところで魔法少女に変身したあいすは、そのまま魔力を体にまとわせて爆発させる。この効果でフラッシュのようなまぶしい光が発生し、あいすは脱出。モンスターが動けいないその一瞬に、彼女は相棒の羽を握る。


「トリ! 手を貸して!」

「任せろホ!」


 トリの力を借りる事でステッキに魔力が充填されていく。十分力が溜まったところで、あいすはステッキをモンスターに向けた。


「あいすスーパーイリュージョーン!」


 その叫び声と同時にステッキから無数の光の矢が放たれ、モンスターの体を無慈悲に貫いていく。この想定外の攻撃に対処する術を持っていなかったモンスターは、矢の効果によって体の内側から強い光を発光させた。


「そんなバカなー!」


 お約束の叫び声と共にモンスターの体は一気に弾ける。そうして、その中から1人の男性が現れ、どさりと地面に倒れた。さっきの攻撃で呪いが解けたのだ。

 葵はすぐに男性のもとに駆け寄る。彼女はすぐに胸に耳を当て、心臓の音を確認した。心配になったあいすも、すぐに駆け寄った。


「生きてる?」

「大丈夫、生きてる!」


 やがて、男性はむくりと起き上がる。そこで葵が事情を説明すると、彼はそれで色々と察しが付いたらしい。話が終わった後、男性は何度も頭を下げて帰っていった。


「葵、何か楽しそうに話してたみたいだけど、なんて言ってたの?」

「知り合いかも知れないからHNを聞いてみたら、あの人、私のファン一号の人だったの。それで話がちょっと盛り上がっちゃって」

「そうなんだ。良かったね」


 あいすはニッコリと無垢な笑顔を向ける。その顔を目にした葵は友達の両手をがっしりと力強く握った。


「あいす、有難う。これからもよろしくね」

「えへへ」


 こうして、2人は友情を深め、投稿サイトに巣食った闇を完全開放する事を誓いあったのだった。



 7話

 https://kakuyomu.jp/works/16816452219019936314/episodes/16816452219267776450

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