KAC20217 お題『21回目』

魔法少女あいす 7話 あいす、秘められた才能が爆発する

 あいすが葵の戦いに協力を申し出てすぐに、彼女による魔法の特訓が始まった。一緒に戦うにはあいすの魔法行使能力を高めなければならないと考えたのだろう。日頃から強くなりたいと願っていたあいすにとって、それは渡りに船でもあった。


 しかし――。 


「ああもう違う! 見ててね。こうだから、こう!」

「え?」

「あいすの場合、魔法発動中に意識がどぶうんと下がってる。それだとオーラが輝かないの! ゆっくりでもいいからぽわわわんって高揚感で体を満たさないと」

「何て?」


 魔法を最初からマスターしていた葵の指導はどうにも感覚的でその指導はとても分かり辛い。あいすも最初こそ頑張って聞いていたものの、いつまで経ってもその言葉が頭に入って来なかった。


「分からーん! 葵の言葉は分かんないよ!」

「ちょ、これでも精一杯優しく……」

「いいよ。今まで通りトリに教えてもらうから」

「えぇ……」


 キレたあいすは葵の部屋から出ると、早足で寄り道せずに帰宅する。そうして、自室でくつろぐトリの前で仁王立ちになった。


「さあ修行再開! 付き合って!」

「やっとボクの良さが分かったホね」

「どうでもいいから! 葵に負けないくらい強くして! 早く!」

「任せろホ! ボクもナーロンには負けたくないホ!」


 こうして、教える気満々のトリと強くなる気満々のあいすの歯車がかっちり噛み合って、今まで以上に修行に熱が入る。その熱気はいい方向に作用して、段々と1人で使える魔法の威力も強くなっていった。


 その修業を続けながらも、モンスターは容赦なくやってくる。その気配を感じたら、あいすも葵もすぐに魔法少女に変身して倒して回っていた。

 現れるモンスターだけど、葵側の着ぐるみモンスターも来れば、トリ奪還のマジモンスターも来る。どっち側のモンスターも、あいすが何かする前に葵の魔法一撃で瞬殺されていた。


 戦闘終了後、今回も見せ場のなかったあいすが思いっきり背伸びをする。


「葵、それだけ強いんだからボスも倒せるんじゃないの? ほら、変な小説を書いたって言う……」

「何度もやってる。でも勝てないんだ」

「え? そんな強いの?」


 このカミングアウトに、あいすは目を丸くする。葵の攻撃魔法の威力は、まともに直撃すれば耐えられるモンスターはいない。その攻撃力を持ってしても勝てないだなんて、一体どんなバケモノだと言うのだろう。あいすは頭の中でゴジラレベルのモンスターを想像して、勝手に怖がっていた。

 すると、葵はくるっとリズミカルに振り返る。


「あ、でも今はあいすもいるし、倒せるかも!」

「えっ?」


 友達からの意外な言葉を聞いたあいすは、一瞬戸惑って動きが固まる。ただ、それだけ信頼されているんだと察した彼女は、ギュッと拳を固く握った。


「そうだよ! やっつけちゃおう!」

「じゃあレッツゴー!」


 葵はそう言うといきなりあいすの手を握り、ステッキを頭上に掲げる。すると2人の足元に魔法陣が現れ、そのままどこかに転移してしまった。

 転移終了後、2人の目の前に見上げるような影の大男が現れる。彼は呆れたような表情を浮かべ、突然現れた2人の魔法少女をじっくりと見つめる。


「ほう、またお前か。懲りんヤツだの」

「今日は仲間を連れてきてる! 今までとは違う!」

「え? どう言う事? ここはどこ?」


 大男と葵は既に仕上がっている。1人ポツンと置いてけぼりになったあいすは自分の場違いさに体を震わせていた。腕にしがみつかれた事で彼女の不安を理解した葵は、ここでやわらかい笑顔を向ける。


「ここがボスの部屋だよ」

「嘘? いきなりすぎない?」

「大丈夫だよ。私もあいすも強いから」

「えぇ……」


 2人が情報のすり合わせをしているのを顎を触りながら黙って見つめていたボスは、その会話が終わったところでポンと手を打った。


「なるほど、21回目の正直と言う訳か。小賢しいわ!」


 ボスがさっと手を上げると、玉座の奥からもうひとりの大男がすっと音もなく現れる。まるで葵側が2人で来る事を予想していたかのような用意周到さだ。

 ボスは自分を倒しに来た魔法少女2人に向かって、ぐにゃりと顔を歪める。


「さあ、これで2対2だの」

「そんな……」


 当初の予定が狂い、葵は顔を青ざめさせた。あいすはそんな彼女を励まそうとポンと軽くその肩を叩く。


「ここまで来たんだし、やってみようよ! で、21回目の正直にしよう!」

「分かった! 力を合わせよう」


 あいすの言葉で葵の闘争本能にも火が付いた。とは言え、戦いはすぐには始まらない。まずはにらみ合う形で、お互いを牽制しあっていた。

 膠着状態の続く中、葵からの念波で作戦が伝えられる。バラバラで個別撃破するのではなく、2人で力を合わせて一体ずつ倒すと言うものだ。あいすは葵の顔を見てこくりとうなずき、その作戦で行く事になった。


「「うおおお~っ!」」


 2人が息を合わせて同時に動いた事であっさり作戦を見抜いたボスは、手に大きな杖を出現させるとすぐに掴み、無詠唱で魔法を使う。


「そうはさせないんだの!」


 このボスの魔法によって2人は引き裂かれ、強制的に個別に戦う羽目になる。葵はボスの相手、あいすはボスの呼び出した大男の相手になった。

 まだ単独で大魔法を使えないあいすは、すぐに一緒に飛ばされたトリの羽を握る。


「いくよ!」

「任せろホ!」

「「あいすクラッシャー!」」


 彼女とトリの息の合った詠唱によって、ステッキから2本の光が発生。その光は螺旋状に絡まりながら質量を増大化させ続け、この魔法を弾こうと構えていたボスの仲間の体に一撃で大きな穴を開ける。


「そ、そんな……馬鹿な……」


 蒸発していく大男。勝利を確信したあいすは、右手を握って勢いよく振り上げた。


「よっしゃあああ!」

「やったホー!」


 初めての強敵相手に一方的に勝利したあいすとトリは、ハイタッチしてその高揚感を共有し合う。そうして呼吸を整えると、苦戦しているであろうもうひとつのバトルの加勢に向かった。

 あいすは、ボスの作った2人を引き裂いた魔法の壁を気合でぶち破る。そこで目にした光景は、肩で息をしながら勝ち誇るボスと――石になった葵の姿だった。


「葵ー!」

「私にこの魔法を使わせるとは、恐ろしい娘だったの」


 よく見ると、ボスは既に疲れ切っているのか、かなり消耗しているように見える。それだけ葵の攻撃に苦戦したのだろう。石化魔法も無茶苦茶魔力を消費するのかも知れない。葵の隣でナーロンも可愛らしい置物になっている。

 この光景を目にしたあいすは、怒りゲージが限界を突破した。


「ザッケンナコラー!」


 彼女はトリを掴んで自分の胸の前に据えると、両手でその両羽を思いっきり開く。そうして狙いを定めると、ボスに向かって持てる魔力を一気に放出した。


「あいすファイナルインパクトー!」


 その言葉を唱え終わったと同時にトリの目はカッと見開いて強く光り、大きく開いた口からは波動砲のように強くて太い魔法エネルギーが放出される。

 葵との戦いで疲れ切っていたボスは、その攻撃を避ける事が出来なかった。


「ぎゃぴりーん!」


 ボスは断末魔の叫びを上げながら消滅する。魔法をかけた相手がいなくなったので、葵とナーロンの石化も解けた。彼女はすぐに顔を左右に動かして現状を把握、最大の魔法を使って立っているのがやっとのあいすのもとに駆け寄る。


「あいすスゴいね。見直しちゃった」

「い、いや。葵が……ボスの体力を削ってたからだよ」


 魔法少女2人はお互いに謙遜し合いながら、この勝利を分かち合った。ボスが倒れた事によって、呪われていた一般着ぐるみモンスターは元の人間の姿に戻っていく。

 幹部連中は純粋なモンスターだったものの、ボスが倒された事で全員が負けを認めて四方八方に逃げ去っていった。


 葵は転送魔法陣を使って連れ去られていた人間を元の世界に送り届け、あいすもその手伝いをする。全ての作業が終わって最後に2人も元に世界に戻ると、ボスの作った魔法空間は崩壊した。


 こうしてひとつの戦いは魔法少女の勝利で幕を下ろす。けれど、それは新たな戦いの始まりに過ぎなかったのだった。



 8話

 https://kakuyomu.jp/works/16816452219019936314/episodes/16816452219299145120

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