偉大な魔法使いの孫の私はお爺さんの遺産で暮らしている

 私のお爺さんは偉大な魔法使いだった。お爺さんは私が中学に上がったと同時に息を引き取り、その遺産である魔導書を私が受け継ぐ事になる。両親は魔法に興味がなく、おじいちゃん子だった私がそれを受け継ぐ形となったのだ。


 時は流れ、この遺産を何とか世の中に役立てようと思った私は、おじいちゃんの書いた魔導書の解説書を書いて生活するようになる。新参作家の私でも、おじいちゃんの名前のついた本を書けばそれなりに注目もされた。

 ただし、それでもマニアックなものには違いなかったので、大ヒットとは全く縁がないのだった。


 年に一冊のペースで本を出していると、やがて同業の作家仲間たちが好意で宣伝してくれるようになってきた。勿論、ギブアンドテイクで私も彼らの本の宣伝をする。そうやって少しずつ知名度を上げていって、本を出す度に少しずつ売上も伸びていった。

 売れるようになると読者が増えると言う事で、段々と私は本の影響力を考えるようになってくる。書いている内容が魔導書の解説書であり、元ネタの魔導書は紛う事なき本物だからだ。つまり、真剣に読み込むと魔法も使えると言う事になる。


「いないと思うけど、悪用されませんように」


 そう言う事態を避けるために、解説本にはにフェイクを入れている。書いている事を素直に実行しても魔法は使えない。これで、魔法の悪用の影響による出版停止には追い込まれないと言う寸法だ。

 ある日、ニュースで貴金属が突然消えると言うニュースが流れる。テレビを見た私は驚いた。それは祖父の魔法のひとつ、物質転送を悪用したものだったからだ。フェイクを入れていたはずなのに何故?


 ネットではこの事件が話題になり、まっさきに私が疑われてしまった。話題になるのは売れた証ではあるけれど、この知名度の上がり方は良くない。ネットで話題になると、遠からず週刊誌やワイドショーが食いつくのだ。そうなると、私の作家生命も終わってしまう可能性がある。それだけはどうしても避けねばならなかった。


 それなのに私の心配とは裏腹にネット炎上は更に激しさを増し、弁解でもしようものなら更に立場は不利になっていく。


「私が悪い訳じゃないのに、どうしてこうなってしまうんだ~っ!」


 私は頭を抱えてふさぎ込む。趣味で書いていた創作小説もピタリと続きが書けなくなった。このままでは折角盛り上げてくれた仲間たちや私の本のファンに申し訳が立たない。せめて誤解だけは解きたいのに、どうすればいいんだ。


 私が部屋に閉じこもってふさぎ込んでいると、仲間たちが立ち上がってくれた。彼らの協力のおかげで、ネットのおもちゃになりかけていた私の誤解は解けていく。騒ぎが沈静化してきた流れで、仲間の1人が具体的な問題解決に動き出した。


「犯人を探そう! そうしないと収まらない」


 こうして、作家仲間たちが集って魔法を悪用している人物を探し出す相談をする事になった。みんな探偵でもないのにノリノリだ。

 私は彼らに言われるままに資料を作成して、それを集まった仲間たち全員に渡す。それぞれが熱心に資料を読み、そこからまずは有力な候補を絞り出す。そこで目星をつけられたのは、魔法に詳しい読者のSさん。


 読者を疑うのは気分の良いものではなかったものの、とりあえず私は仲間たちを引き連れてSさんの家へ。初対面の彼は私が来た事に驚いて、そして喜んでくれた。世間話もそこそこに核心の話をすると、彼は何度も左右に頭を振る。


「個人的に魔法は研究はしてるし、解説書のフェイクにも気付いたけど悪用はしてません!」


 彼の部屋やその他諸々を調べさせてもらったけど、確かに盗まれた貴金属はどこにも見つからなかった。こうして、話は振り出しに戻ってしまう。


「参ったな。Sさん以外でそう言う事が出来そうなのは……」


 その後も色々と調べるものの、犯人に繋がる情報は何も引き出せなかった。この時、資料とにらめっこしていた仲間の1人が別パターンの可能性を閃く。


「もしかしたら、お爺さんの知り合いの関係者なのかも!」


 そう、魔導書に書かれた魔法が悪用されたと言っても、解説書の利用者が悪用したとは限らない。この話が出たのをきっかけに、私はお爺さんの交友関係の資料がないか探し始めた。でも、とっくに遺品整理された後で、めぼしい資料は発見出来ず。また振り出しに戻ってしまう。


 八方が塞がった私は最後の手段を使う。


「こうなったら魔法で調べよう!」

「いいね! こう言う時こそ魔法の出番だよ!」


 私は作家仲間たちに背中を押されて、魔導書から犯人探しに使えそうな魔法を選び、本に書かれていた手順を忠実に再現する。今回使ったのは任意コンパスの魔法。探したい相手を念じる事で、コンパスが場所を指し示してくれる。その魔法コンパスを辿っていく事で、犯人らしき人物に辿り着く事が出来た。


「コンパスが正しく発動しているなら、あの人物が犯人のはず……」


 私が見つけたその人物は身長は2メートル近い大男。ヒョロってしていてガタイは良くないものの、彼がお爺さんの魔導書の関係者ならば、どんな魔法を使ってくるか分からない。なので、人物特定後はしっかりと身辺調査をする事にする。


 その後、男の身元などの大体の情報が入ってきた。名前はゼア。彼の父親が私のお爺さんと魔導研究で親交があったらしい。私と同じように野良魔法研究者で、ただし、どうやって糧を得ているのかは不明。黒い付き合いも噂されている。

 この事実を知った私は少しうつむき加減になり、顎に指を当てる。


「やはり魔法を悪用している?」

「可能性はあると思う。でも一応単独行動をしているみたいだから、勝機はあるよ」


 作家仲間が犯人を捕まえる可能性を口にする。このまま野放しにしていたら被害は増える一方だろう。お爺さんの魔法が悪事に使われているのは見過ごせない。私は周りの雰囲気に押されて、計画を更に一歩推し進める。


「警察は魔法の対策なんて出来ないから、自分達でやるしかない」

「僕達も協力します! させてください!」


 私の周りには同業の仲間たち以外にも、私の本の読者も集まってきていた。みんな魔法が悪用されている事が許せない人ばかりだ。私はこの心強い仲間達に強い信頼を寄せる。集まった全員の力を合わせ、様々な可能性を考えて準備を整えていった。

 全ての準備が整ったところで、いよいよ計画は最終段階に進む。私は仲間たちと共にゼアのもとへ向かった。


 まずは魔炎で眠らせて、そこから家宅捜索。そう言う計画だった。玄関のチャイムを鳴らして訪問者の顔を見たゼアは驚き、すぐにドアを閉めてきた。やはりいつか私が来る事を想定していたのだろう。咄嗟に足を挟んで閉め切るのを防ぐと、すぐに家の中に踏み込む。

 距離は少し離れたものの、私は幻覚魔炎を彼の背中に向かて投げ込んだ。


 魔炎はゼアに接触する前に見えない壁に当たって消滅する。魔法が消えたタイミングで彼は振り返り、反撃とばかりに攻撃魔法を仕掛けてきた。炎の魔弾だ。当たれば火達磨になるその攻撃を、私はアンチ魔法シールドを展開させて弾く。魔法攻撃を想定して事前に習得していたのだ。

 自分の攻撃が効かなかった事に、ゼアはショックを受ける。


「な、何ィ!」

「今から貴方の魔法を全て封印して警察に突き出します! いいですね!」

「小娘が! 舐めるな!」


 どうやらゼアにも仲間がいたらしい。家の中から次々に現れる男達。彼らも魔法を習得していそうだ。集まってきたのは全部で5人。対して、彼の家に特攻していたのは魔法を使える私のみ。不意打ちで終わる計画だったので、最低限の準備しかしていなかった。

 青ざめる私を見て、ゼアの顔が不気味に歪む。


「形勢逆転だ。馬鹿め!」


 一応計画が失敗した時のために、連絡が行くようにはしている。ただし、助けが来るとしても熟練の魔法使いは仲間の中で私だけだ。どうか、ここに集まっている6人の敵の中にすごい魔法使いがいませんように。

 私はそう祈りながら、頭の中で術式を構築し始めていた。


「野郎共! やっちまえーっ!」


 ついにゼア側の攻撃が始まった。襲いかかる前衛2人に呪文を唱える後衛2人。ゼアともう1人は最後尾で高みの見物のようだ。実質4対1。それでも十分キツい。大体、私は喧嘩はからっきしダメなのだ。だから不意打ちで計画を立てたのに……。

 ナイフを持った盗賊達が速攻で腕を突き出してくる。1人は何とかかわせたものの、避けた先で突き出してきたもう1人のナイフはもう避けようがない。


「うわああああ!」

「任せてくださああい!」


 私のピンチに駆けつけてくれたのは、魔法に詳しいSさんだ。彼が杖を使って前衛2人を秒でふっとばしてくれたおかげで、私は窮地を脱する事が出来た。


「有難う、助かった」

「2人で力を合わせましょう!」


 頼もしい助っ人の登場に、私の士気は自動的に上がる。逆に、仲間を失ったゼアの機嫌は最高に悪くなった。


「クソがっ!」


 Sさんは、襲いかかってきたゼア含む残りの盗賊を蜘蛛の糸魔法でがんじがらめに固めてしまう。身の危険がなくなったところで、私は魔法を使えなくする封印魔法を展開。こうして魔法盗賊団をただの人間にする事が出来た。


「お前ら、こんな事をしてただで済むと思うなっ!」

「はいはい。じゃあ、この家に残っている証拠を探しますね~」


 少し調べると、ゼアの家には盗まれた貴金属が呆気なく見つかった。その情報を作家仲間たちに伝え、情報は警察へ。こうして、魔法盗賊団はお縄につく事となったのだった。


「一件落着!」

「良かった良かった」

「これもみんなのおかげだよ!」


 打ち上げでは、仲間達と読者のみなさんが私を囲んで盛り上がる。この体験もいつか本にしようかな、なんて思ったりして。

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