第61話 後日談 その2

「大人を惹き付けたいのよね」 


 ここは街の中央広場に程近い新領主邸の一室。エリスの執務室である。5年前からエリス達はここに住んでいる。街の中心に近いため、何かあればすぐに動ける立地なのが気に入っている。


 そんなエリスの呟きにカイは首を捻る。エリスが何か新しいことを思い付いた時はいつもこんな感じだが、さすがにこれだけでは抽象的過ぎる。


「具体的には?」


「カジノと歓楽街を造ろうかなと思って。あと草競馬じゃなくて、お金を掛ける競馬場も」


「それは...確かに大人を惹き付けるだろうけど、その代わり治安が悪くならない?」


「新しく警備隊を組織するわ。逮捕権も持たせる。雇用の拡大にもなるでしょ?」


「その分、悪の温床にも成りかねないよ? シンジケートやマフィア、カルテルとか。子供達の教育にも悪影響を及ぼしそう」 


「そういった輩が蔓延らないように取締局を新設するわ」


「そもそも、なんで大人をターゲットにしようと思ったのさ?」


「だって子供向け、親子向けの企画ばっかりじゃ、その内飽きられるかなと思って」


「確かにそうかも知れないけど、ギャンブルや風俗を誘致するってのは賛成できないよ」


「一番手っ取り早いじゃない?」


「そうだけど、きっと他にも何かあるはずだよ」


「例えば?」


「いや、すぐには思い付かないけど...」


「思い付かないのは、そんなものが無いってことの証明よ」


「うぐ...い、いやきっと他に何か...」


「往生際が悪いわよ?」


「うぅ...あっ! そうだ!」


「うん? 何か思い付いた?」


「いや、そうじゃなくてね、ギャンブル場とか造ろうとしたって国の許可が下りないでしょ?」


「......」


「ほらね? だからギャンブル場は諦めて」


「...いっそ独立しようかしら...」


「どとど独立~!? いやいや無理でしょそんなの...」


「あら? どうして?」


「だってそれこそ国が許可しないでしょ!? 反逆者として処断されちゃうよ!?」


「う~ん ...それは無いんじゃないかな~」  


「どうしてそう言い切れるのさ?」


「だってさ、辺境伯っていうと普通は国境を守る国の盾ってイメージがあるじゃない? だから伯と呼ばれていても、実際には王家に次ぐ地位だったりする訳よ。でもここは周りが山に囲まれてて、どの国とも接してない文字通りただの辺境な訳よね。そんな所が独立したって国に取っちゃ痛くも痒くもないと思わない?」


「そんなものなのかな...」


「そんなもんよ。だからね、独立して『カイ王国』と名乗って」

 

「ちょっと待てぃ! なんで僕の名前!? どう考えても『エリス王国』でしょうがぁ!」


「却下よ。恥ずいじゃないの」

  

「うがぁ~!」



◇◇◇



 両親が仲良くじゃれ合っている様子を、リクとクウの二人は微笑ましく見守っていた。


「クウ、知ってるか? ああいうのをバカップルって言うんだぜ?」


「それを言うならオシドリ夫婦って言うんじゃないの?」


「そうとも言う」


「どうでもいいけど、私、お腹空いちゃったよ」


「俺もだ。あの二人、育児放棄してやがる」


「いやそこまでじゃ...」


「いいから行くぞ?」


「どこに?」


「こんな家飛び出してやるんだよ。なにせ飯をまともに出してくれないんだからな」


「そんなこと言って、ただ私に乗って空を飛びたいってだけだよね?」


「そうとも言う」


「私、知らないからね」


 この後、また勝手に空を飛んでめっちゃ怒られた二人であった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黒い結婚ですか 真理亜 @maria-mina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ