第39話 弱化
「いやぁ!本当に助かりました!一時はどうなる事かと・・・!」
助けたエルフ族の男は馬車の手綱を握りながら荷馬車に乗せた俺達に話しかける
アキは初めての馬車に視線をキョロキョロさせている
「いや、構わないが良かったのか?これ商品じゃないのか?」
エルフの男が馬車に乗る時に御礼として渡したのは瓶に入った青い液体
俺はこれを知っている
「これ、ハイポーションだろ?最近、人間の国でかなり値上がりしている高級品のはずだ。これも嬉しいんだが、俺達は『ピルトチア』と言う花を探してる。持ってないか?」
以前薬草集めをしたが元はポーションもハイポーションも同じ薬草である
違うのはその薬草の産地であり、エルフの国の薬草はエルフの森の祝福が働いているのか特別なポーション『ハイポーション』になる
自己治癒能力を上げるだけのポーションと違い、魔力や身体能力もほんの僅かであるが一時的に上がると言う物
勇者ジャックボット時代はアヤカがヒーラー・能力付与魔法の使い手として活動していたために使う機会は無かったが、それでもアヤカに何かあった時の為に常に用意はしていた
「残念ながら現在ピルトチアは取り扱っておりません・・・ハイポーションについてですが命の値段に比べたら安い物です。それに、本当でしたらお渡しするのは商人として使者様にはもっと良い商品をお渡しするべきなのですが・・・」
「さっきから言っている『使者』とはなんだ?」
俺の問に商人は答える
「エルフの森の祝福は、『森龍』と言う龍様がもたらして下さっております。我々はそのお方の庇護を受け日々生活しているのですが、まれに森龍様の力の1部を受け継がれる方がいらっしゃるのです!その方々を使者様と呼ぶのです」
俺とアキは目を合わせる
その龍、間違いなくアキと同じ龍族の1体であろう
エルフが何よりも大切にする祝福・加護とは龍の力による物と言う事らしい
アキの人化と同じように潜在魔法の力なのだろうか
「ここだけの話にしていただきたいのですが・・・最近、森龍様による祝福が急激に弱まっておりエルフの国特産の品物が減っているのです。
先ほどハイポーションの値段について仰られていましたが、それも祝福の弱化により品質が下がり、ハイポーションと呼べる品質の数が減った事からの高騰化になります・・・」
「そうだったのか・・・どうして急激に弱くなったんだ?」
「残念ながら、理由は分かっておりません。森龍様は1900年生きていらっしゃる方ですので老われたと言う方もいらっしゃいます」
そう言って首を横に振るエルフ
「・・・でだ。それが何でアキを使者と思う理由となった?」
「無詠唱が出来るのはエルフ国では森龍様しかいらっしゃいませんので!人族には無詠唱で魔法を唱えられる方が多くいらっしゃるのですか?」
「いや、アキは特別だ。潜在魔法で詠唱がいらなくてな」
勿論、これは嘘だ
だが冒険者にする前から決めていた
わざと詠唱をさせると言うのも考えたが無詠唱と言うのはあらゆる点にて有利である
仮に喉を潰されても発動できるし、詠唱の始めに唱える始動呪文は『ある程度の長さでないといけない』とされている
『あ』とか『い』だけでは駄目でただの単語だけでも使えないらしい
それに変な癖をつけるのも避けたい
なので無詠唱でも誤魔化せる方法として潜在魔法に目を付けた
潜在魔法が人化のアキは他者にそれを見せる機会は少ない
なので無詠唱を潜在魔法にする事にしたのだ
リカにもアキの潜在魔法は無詠唱と伝えてある
「そうでしたか!それは素晴らしい物をお持ちで!森龍様は欲無き慈悲深い方。その使者様でしたら同じ欲無き方と思っておりましたが、違うのでしたら今後商売として私がお役に立てるかもしれません!
私の名前はハクイスと申します。何とぞ御贔屓の程を」
「そうか・・・俺の名前はボットだ。こいつはさっきから呼んでいるから知っているだろうがアキだ。教えてくれてありがとう」
「いえ、これ位の事でしたらいつでも!」
ハクイスは馬車の操縦に意識を戻した
「のぅ、ボットよ・・・」
アキがエルフに聞こえない様に俺に話しかけてくる
「どうした?」
「以前も言ったが龍の寿命は5000年じゃ。1900年で老いと言うのはあり得ぬ・・・病か、あるいは何か原因があるやもしれぬな」
「あぁ、だがエルフ族にとって神と同じ扱いになっている龍だからな・・・他種族の俺が介入する事は難しい・・・」
「そうか・・・そうじゃな・・・」
アキは苦々しい顔をしている
アキを除けば3体しかいない龍族
仲間が何か苦しんでいるのならば同じ一族として助けてやりたい気持ちは良くわかる
だが、エルフ族にとって神格化されてる龍だ
いきなりひょっこり現れた俺達が「会わせろ」と言っても会えるはずがない
俺はそんな複雑な顔をしているアキの頭をなでる
アキはそんな俺の顔を見て何とか笑顔を作っていた
勇者パーティを追放と思いきやちょっと違うようです @jackbot
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勇者パーティを追放と思いきやちょっと違うようですの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます