第38話 通道

俺達が館を出て2日経った頃、もう少しで着く時にアキがふと反応を見せた


「ん?何やら少し離れたところで魔獣に襲われている者がいるようじゃ」


「魔獣にか?・・・と言うか、アキ、そんな遠くの魔力まで見えてたか?」


俺の問いにアキはニカーとした笑顔を見せながらガントレットを突き出す


「このガントレットを着けてから見える魔力の位置がある程度遠くでも分かるようになったのじゃ!今までは目で見える範囲しか分からぬかったがの!」


「魔石なしの防具でそんなに変わるのか・・・Sランクの魔石使った武器渡したら国滅ぼせそうだな・・・」


「ん?滅ぼしたいのかの?ボットが言うなら協力するが・・・」


アキの予想外の一言に俺は慌てる


「いや!?誤解だ!?アキ、もし俺が人の道を外れそうになったら全力で止めてくれ。俺もアキが間違った事をしたら注意するからさ」


「う、うむ・・・分かったのじゃが・・・襲われている者は放っておくのかの?」


「そうだな・・・魔獣の強さは分かるか?」


もし、キングレベルの魔獣が居たら厄介・・・いや、アキが居たら問題無いか・・・


俺の問いにアキは魔獣がいるのであろう方向をジッと見つめる


「うむ・・・以前わらわが倒したゴブリンキング程の者はおらぬな。ただ数が多いのか囲まれてる者はもっと魔が小さい。あれはかなり消耗しとるな。人間の魔でもキールの様な魔族の魔でもない様じゃ」


「多分、エルフかドワーフが囲まれてるんだろうな・・・分かった。助けに行こう」


「分かったのじゃ!ボット、こっちじゃ!」


アキの先導で俺たちは現場に走った




現場に着くと馬車が停まっており、予想通り1人の耳がとがっているエルフ族の特有の顔をした男性が魔獣に襲われていた


魔獣の種類は『ワーカーウルフ』


名前の通り『働き狼』と言う意味の狼で『ウルフキング』が頂点におり、ウルフキングに食料を運ぶために働くのが奴らだ


ゴブリンやその他の魔獣はその群れに『キング』が存在していない事も多いが、ワーカーウルフには必ずキングがいる事が分かっている


ウルフキングは住処で生殖を仕事としているので、今エルフが襲われている中にいない訳だ


ワーカーウルフは単体でEランク、群れでBランク


奴らは牙に毒を溜め、自分自身は持っている魔力で無効化すると言う魔獣である


「数は・・・9匹か。アキ、素早い動きと牙に毒があるから気をつけろ。行くぞ『集え精霊よ ビルドアップ』」


「んっっっ!?」


俺がビルドアップを唱えるとアキがビクンッと跳ねる


「アキ、どうした!?」


「わ、わからん・・・急に体が・・・少し気持ちいいようなくすぐったいような・・・だ、大丈夫じゃ!!」


そう言って飛び出すアキ


俺も荷物を置き短剣を取り出して後を追うようにワーカーウルフの群れに飛び込む


飛び出した俺たちにビックリしたのかエルフから視線が俺たちに移る


「グルル・・・・」


俺達を敵と見なしたのだろう


一斉に威嚇の声を出す


「グルル・・・グァァフッ!!」


1匹が焦れたのか俺に跳びかかってきた


「『集え精霊よ アイスウォール』」


俺の魔法によってワーカーウルフとの間に氷の壁ができる


壁の厚さなどを考えるとストーンビルドのが優秀なのだが、原料となる土に手をつけた状態でなければいけない上に土壁越しでは相手が見えなくなる


俺のアイスウォールは多少薄いのが欠点ではあるが、透明な氷の為に敵を見失うことが無く原料を必要としないためにしゃがまなくても発動できる


飛び出したワーカーウルフは急に出てきた氷の壁に止まる事が出来ず顔から突っ込んでくる


『パリンッ!!』


「ギャン!?」


薄い氷の壁とは言え厚さは数センチ


勢い良く突っ込んで来た為にアイスウォールは割れてしまったが、ワーカーウルフは怯んでいる


「じゃぁな」


俺は短剣を敵の目に突き刺す


「キャンキャンキャン!?」


ワーカーウルフは急な痛みと視界喪失に地面でもがいている


「『集え精霊よ アイスニードル』」


唱えて出した尖った氷の塊はワーカーウルフの頭を貫き程なく絶命する


さて残りは8匹・・・ん?


数えてみると目の前には5匹しかいない


アキを見てみると足元に既に3匹のワーカーウルフが頭をなくした状態で絶命していた


5秒位しか経っていないんですが・・・


魔力の大きさを測れないワーカーウルフは俺とアキを見てアキの方が弱いと思ったのか3匹が連携して襲ったようだ


当のアキは手をグーパーさせながら自分の力に驚く


「魔を使わなくてもこの力。人の姿でも他の龍に勝ってしまうかもしれぬな・・・」


アキは俺にしか聞こえない位の大きさの声でそう呟く


「グァァァァ!」


アキが自分の手を見ているのを隙と捉えたか


更に2匹のワーカーウルフがアキを襲いに行った


アキはちらっと2匹を見るとスッと手を突き出す


『ドンッッッ!』


2匹の間あたりから大きな音と共に爆発が起こった


この前、使っていた伝説の魔法だろう


大きな煙が立ち上りアキが見えたと思えば爆発地点の地面は大きく抉れ襲い掛かってきたワーカーウルフは跡形もない


「あれは魔石ごと爆発しただろうな・・・」


そんな心配をしながらも残り3匹のワーカーウルフを見た


3匹は戦意をなくしたのかこちらを威嚇しながらジリジリ後ろに下がっている


もう安全圏まで下がったと思ったのだろう


残ったワーカーウルフたちは急に後ろを向いて一目散に逃げだした


「俺、ほとんど何もせずに終わったな・・・」


俺の言葉を否定するアキ


「何を言っておる。ボットが居なくてはこの力はないのじゃ。これはわらわだけの力じゃない。ボット、お主と2人の力。気にするでない」


「あぁ・・・っと、そういえば」


俺は襲われていたエルフを見る


「大丈夫か?」


俺の言葉にビクッとするエルフ


「何か痛む所とかは無いか?」


「い・・・いま・・・」


エルフはわなわなしながらアキを指さす


「どうした?」


「今、え、詠唱せずに魔法を使った・・・?」


「ん?わらわか?」


アキがきょとんとした顔でエルフを見つめる


いや、魔法を使わなくても数秒で3体絶命させたり驚く所は他にもあるはずだが・・・


「す、すごい・・・き、きっと森龍様の使者様だ・・・」

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