第37話 似花
「ようこそいらっしゃいました。ボットさん、アキさん。今回は、依頼の件でしょうか?どうぞこちらにお座りください」
店に入った俺達を店主であるキールが迎えた
キールは以前と同じく冷静ではあったが、数日前に会った時より自然な笑みで迎えていた
「はい。まさか指名依頼をしていただけるとは・・・本当にありがとうございます。依頼内容の確認をしに伺いました。
もし俺達がお役に立てるのを確認出来たら、すぐギルドに申し込みをしてエルフの国に行こうと思います」
俺達はキールに促されて席に着く
キールは紅茶を3人分出し、それぞれに渡して席に着き説明を始めた
「なるほど、承知しました。今回の依頼はギルドにお伝えした通り、エルフの国に生えている花『ピルトチア』を採取して来て欲しいのです」
「『ピルトチア』・・・確か『エルフの森の祝福』によって咲く花だとか・・・」
「はい、よくご存じで。エルフ族の方は『祝福』、人族では『加護』と呼ばれる力のようです。ボットさんはアヤカさんが身近にいらっしゃるので『祝福』の方がなじみ深いかもしれません。
妻が私の為に育ててくれた花があると言うお話したのを覚えていらっしゃいますか?」
「たしか・・・『バラ』が似合うと庭で育てられていたと」
俺の返答に嬉しそうに頷くキール
「えぇ、その通りです。私に合うからと言うだけではなく妻自身もバラを心から気に入っていた様です。なので墓前にバラを供えたいと思いましたが、棘のある花を供えるのはあまりよろしくないと言う事らしいのです。
聞けばバラに良く似た棘の無い花がエルフの国に存在すると。ですので取りに行こうと思ったのですが・・・」
キールは紅茶を飲みながら話を続ける
「ご存じのように私は定期的な監視を条件にこの国に滞在しております。私1人でエルフの国に行くには様々な申請をしなくてはいけない手間がかかる現状です。
最初は買って済ませようと思いましたが、流通量が少ないらしく貴族の方が真っ先に求められてなかなか市場に出回らない様でして。
そこで冒険者にお願いする事にしました。王には人間国に災いをなさないのであれば、定期監視以外は人族と同じ権利を与えると言っていただいてますので依頼の申請も出来た訳です。
ですので私が魔族な為に定期的な巡回監視がつけられている事を知っており、私の事件を知っており、何故ピルトチアを欲しているか説明しやすいボットさんにお願いしようとギルドに伺いました。
勿論、ボットさんを今後も応援出来たらと思い報酬は多めにしておりますが、私としましては正当な依頼の報酬として受け取って頂けたら幸いです」
キールの話を聞いた俺は頷く
全ての話に矛盾が無い
勇者ジャックボット時代、エルフ族のアヤカがバラを見た時「あっ、ピルトチアだ!」と勘違いしていた事があった
その時聞いた話ではエルフ族では花屋でも流通している一般的な花である事、『エルフの森の祝福』とエルフの国土自体が持つ特有の力で咲く花でその種を他の国で育てようとしても育たないらしい
求めているのはエルフの国で簡単に手に入る物
危険性は無いと考えて良いだろう
「わかりました。俺達でも達成可能な依頼と判断できますのでお受けします。距離の関係上、数日かかるかと思いますがよろしいですか?」
俺の提案に凄く嬉しそうな顔を見せるキール
「はい、本当にありがとうございます」
「おぉ!わらわ達の初依頼がエルフの国への旅行かの!!」
「旅行じゃないぞ、アキ。仕事だからな」
勿論エルフの国に行ったことの無いアキは目を輝かせるが俺が注意する
気楽な気分で行って失敗しましたじゃ普通より報酬を弾んでくれたキールに申し訳が立たない
「ふふっ、ボットさん。まぁそう仰らずに。依頼内容は本来なら女性でもクリア可能な物。現在の私の状況だから誰かに頼むだけの事ですので」
「すみません・・・。初依頼で舞い上がっておりまして・・・」
キールは俺の謝罪に優しく首を振ってくれる
「いえ、私もボットさんのパーティメンバーにアキさんを見つけた時、嬉しかったのですよ。いくら仕事を頼むとは言え貴方をあれだけ慕っているアキさんから数日離させるのは心苦しかったので」
俺からアキに目線を移すキール
「アキさん。今回はそこまで大変な物にはならないと思いますので楽しんできてください。是非、帰って来られましたらお土産話をお願いいたします」
「うむ!しっかりと依頼をこなしてくるのでな!」
キールの柔和な顔に見送られながら俺たちは不動産を出る
ギルドに戻り受託の申請をして、屋敷に戻って門番のカイトにリカへの依頼で1週間程空けるとの伝言をし屋敷を出た時は昼過ぎだった
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