第36話 指名依頼
「おはよーございます!ボットさん!アキさん!」
ギルドに入った俺達をマイが元気良く出迎えてくれる
「マイ、おはよーなのじゃ!」
アキも元気に挨拶を返す
「アキさん今日も元気ですね!ボットさんに変な事はされてませんか?」
「おい!?俺は何もしてないぞ!?」
「うむ、ボットは優しくしてくれておるぞ!」
マイはうんうんと頷く
「ボットさんはアキさんの事を本当に大切に思っているんですね!私、ここ数日、ボットさんの事を勘違いしそうになってました!」
「マイ、お前って奴は・・・」
「大丈夫じゃ!この前『朝食を買って来る』と言って『リカを買って来た』事くらいじゃ!」
「あっ!?おい!?」
アキ、今のはここでマイに言うとどうなるか絶対分かっていてチクっただろ!?
俺はすぐさまアキの口を塞ぎ、いつものごとく恐る恐るマイを見る
女の子ってそんな死んだ目で軽蔑の表情が出来るんだな・・・
「貴族様を売春・・・ですか?」
「してねぇよ!」
アキは口を塞いだ俺の手を外す
「もごもご・・・ぷふぁっ!!ちなみにリカもわらわ達と共に暮らす事になったのじゃ!!」
「アキ、頼むからそれ以上喋るな!!」
「あはは・・・では、『狼ボットと被害者の会』パーティと言う名前で登録しておきますね」
「だから勝手に名前決めるのやめろ!ってか前より酷くなってるから!?」
そんなくだらないやり取りをしていると後ろからヒソヒソ声が聞こえて来た
「おぃ、あいつボットって呼ばれていたぞ・・・」
「あぁ、聞こえた。勇者ジャックボットのお荷物だろ?」
「いや、それがソロでゴブリンキングとゴブリンの群れを討伐した上に怪我人を背負って来たらしい・・・掲示板に貼ってあった」
「まじかよ・・・ならあいつですら最低Bランクはあるって事か・・・」
「あぁ・・・Aランクですら数人しかいないからな。あいつ、最近ではパーティが強すぎるせいで裏方をさせられてるって噂だぞ・・・さらにハイド家の次期当主の女の子を当主の前で口説いて自分の家に住まわせて、更に別の美少女ともハーレム生活しているとか」
「はぁ!?勇者よりある意味勇者じゃねぇか・・・」
後ろで別の冒険者が噂をしているらしい
何か色々尾ひれが付いてるな・・・
ゴブリンキングを倒したのはアキだし、自分から進んで勇者ジャックボットの雑用をしていたのにさせられていた事になっている上に、リカは俺から口説いた事になっている・・・
ハーレムは・・・否定したいが他人から見たらそう見えてもおかしくないか・・・
ギルドの掲示板は達成するのが難しい依頼・突然のアクシデントを達成した時、その冒険者に箔をつける為に貼り出す
彼らはそこに俺の名前が出ているのを見た様だ
「・・・ボットさん、気になさらないで良いと思いますよ。逆に私嬉しいんです」
俺を軽蔑する目から一転、少し微笑んでそう小さい声で俺に伝えてくるマイ
「何が嬉しいんだ?」
「ボットさん、貴方が誰かに認められる事がです。私もギルドの受付として皆さんのサポートをする裏方です。他のパーティも沢山見てきました。ですが・・・」
マイが1枚の紙を出す
そこには勇者ジャックボットがこなしてきた数多くの依頼が書いてある
「勇者ジャックボット程、情報収集に力を入れ統率の取れたパーティを私は知りません。Sランクの依頼ばかりの勇者ジャックボットは情報収集でさえ命がけなのに。
私は勇者ジャックボットの『エースはジャックさん』ですが、『リーダーはボットさん』だと思っているのです。勿論1人でゴブリンキングとゴブリンの群れを討伐するほどの実力の持ち主とは知りませんでしたが、結果的にその実力を隠す事になっている位、ボットさんは徹底してパーティの為に動いていらっしゃいます」
更にもう1枚紙を出すマイ
「なのでアキさんや貴族のリカさんに認められ、この様に同じ冒険者にも少しずつボットさんが良い目線で見られる様になっているのが嬉しいのです!そして、この紙を見て下さい!ボットさんとアキさんに指名依頼です!」
「指名依頼?まだ全く活動していない俺達にか?」
勇者ジャックボット時代は国から依頼される『強制依頼』と言う物があったが、それ以外にも一般の人でも冒険者を指定する『指名依頼』と言う物がある
普通の依頼は全ての冒険者が受注できるが報酬はギルドが決めた額になる
逆に『この冒険者・パーティにだけ』と指名する指名依頼は依頼者が報酬を決めることが出来る
これは、ある冒険者を応援するためにわざと平均より多めの報酬を設定する事もできるし、逆に普段から後ろ盾になっている事で安めに受けさせる事もあるらしい
そしてこの指名依頼は国からの強制依頼と違い『断る事が可能』・『頼める依頼難易度は普通の依頼と同じくランクの1つ上まで』と言う点が大きく異なる
勇者ジャックボット時代も多数の指名依頼が来ていたが、強制依頼が被っていたり情報収集してみたら俺達を長期遠征で国から出させようとしたり、単純に罠に嵌めて殺そうとしていたりと良い事ばかりの制度ではなかった
でも、まだ活動もしていない俺達にわざわざ指名依頼・・・?
「はい!最初はボットさんのみを指名しようとされていたみたいですが、ボットさんの公開情報にアキさんとのパーティを見つけるとすぐ2人にと!お名前は・・・『キール』さんですね!ご職業は不動産関係との事です!」
俺とアキは顔を見合わせる
「依頼内容はエルフの国に生えている花の採取です!この花はエルフの森のみに生えている花でエルフ国内ではそこまで珍しくないのですが、あまり人族には流通しない代物の様ですね!なんとキールさんはギルドが通常設定するであろう5倍の成功報酬を出しております!ご存じだとは思いますが、指名依頼は失敗しても冒険者の責任ではなく依頼者の責任になるので失敗による罰金はありません!ただ、ランク査定はギルドで設定した分になります!今回はただのお使いと判定されるのでパーティ最低難易度Eランクになります!いかがなさいますか?いつもの様に情報を集めてからにしますか?」
マイに問われて俺は考える
万が一の事を考えてみる
まずキールが俺達を罠に仕掛ける可能性だが、キールはアキに対し『この以上の大きな魔力は見た事がない』と言っていた
マイが言うには最初は俺だけを指名しようとしていたと言う事
もし、俺を罠に嵌めたいなら圧倒的な強さを持っている事を知っているアキも一緒に指名するよう変える必要性はない
仮に誰かが待ち伏せしていたとしてもアキより強大な者をキールは知らないはずだし、その言葉が嘘でも明らかに俺より強いと分かっているアキも呼ぶのは不自然だ
それに・・・あれだけの事件があった
屋敷までかなりの破格の安い金額で売ってくれた
そんな彼が俺らを嵌めるとは思えない・・・いや思いたくないだけかもしれないが・・・
それに行く場所は同盟国のエルフの国
エルフの国は森の中にある人口で言えば人間の10分の1にも満たない国
魔族の国に行けとなれば話は別だが、何か罠をかけるにはキールの味方になる人物が少なく向かない場所ではある
「あぁ、どちらにしろ1度キールさんの所に指名依頼の礼を言いに行きたいからな。1度、話を聞いてからまた来るよ」
「分かりました!お待ちしておりますね!」
とりあえず話を聞いてみよう
俺とアキはギルドを出てキールの不動産屋に向かった
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