第35話 三人

リカとアキ、3人の生活が始まって数日たった


新生活に入って1番問題だった寝床問題だが、俺は不動産屋でこの屋敷の元持ち主であるキールの部屋にベッドを新たに設置して1人で、リカとアキは2人で妻のライラの部屋にあったキングサイズのベッドに寝る事に決まった


「ふわぁ・・・もう朝か・・・って、アキまたお前は・・・」


起きて横を見ているとアキは「すぅすぅ」と寝息を立てている


『ガチャ!?』


「アキさん!?またボットさんの所で寝て!?若い未婚の乙女が殿方と寝るなんてはしたないですよ!」


住む事になって油をさし開きが良くなったドアを開けたリカが、若い未婚乙女(推定600歳)のアキを揺すって起こそうとする


屋敷に住む条件として俺とアキの呼び方を変えてもらう様、リカには頼んだ


さすがに「ボット様」「アキ様」は一緒に住む仲間としてな・・・


「では・・・『アナタ』はいかがでしょう?」


「「却下だ(じゃ)!!」」


そんなやり取りがあり「様」付けから「さん」へと変わった


リカが俺の屋敷に住む事になったと知ったシゲルは『君も、尻に敷かれるタイプなんだね・・・』とため息をついていたとカイトは言っていた


当主であっても奥さん強しか・・・


貴族の次期当主のリカが護衛無しで別の場所に住むのは問題だった


リカは無しで良いと言ったが、それで何か事件が起これば俺達の責任問題にもなるかもしれない


シゲルは『メイドまで入れろとは言わないから護衛だけでも』と言う事でカイト、その他数名が交代で門前に護衛に来てくれる事になった


庶民が住む家の前に護衛


知らない人にはどういう事だと疑問に思うだろうが、屋敷の大きさは庶民の中ではかなり大きい部類に入る


荒ら屋に護衛は明らかに不自然だが、ここならまぁ何とか形にはなっている・・・はずだ


その内、護衛が休める小屋を門付近にストーンビルドで建てないとな


リクみたいな一回の魔法で要塞は無理だが、小分けして「壁一枚ずつ」とかなら魔力と時間の消費は凄まじいが可能なはず


「んぅ・・・あと・・・100年程寝かせて欲しいのじゃ・・・」


「もぅ!そんなに寝たらお婆ちゃんになってしまいますよ!?」


アキの100年は多分見た目変わらないだろうな・・・


まぁ、俺は死んでるだろうけど


「おはよう、リカ」


「ボットさん、おはようございます。すみません・・・今日も起きたらアキさんが居なくなっていまして・・・」


「俺は構わないから、もう少し寝かせてやってくれ。どうせ起きたって俺が朝食作るまで何もやる事無いしな」


「・・・わかりました。ダイニングでお待ちしております」


もう既に神官服に着替えているリカは朝食を食べて大聖堂に行くだけの様だ




リカが来て分かった事


リカにも俺の潜在魔法『創作物向上 対親愛』が発動している様だ


来た日の朝、朝食を作って食べて貰った所「ハイド家のシェフには申し訳ないですが、今まで食べて来た物の中で1番美味しいです!」と褒めてくれた


「ボットはわらわを愛しておるからの!」


アキがそう自慢していると、リカが悪戯っぽくアキを揶揄う


「いえ、私にかもしれませんよ?」


そこで昼は敢えて別の物をそれぞれ作って食べてもらうと・・・


「やっぱり!ボットさん!とても美味しいです!」


「わらわのも凄い美味いのじゃ・・・じゃが、リカにも作用してるとなると少し複雑なのじゃが・・・」


リカにも発動している事が分かったと言う訳だ


まぁ、愛しているまでかは分からないがな


ジャックやリクにも発動していたし


だが、仲間と思っているのは間違いない


「アキ、そう言うなって。仲間は一生物だぞ?」


「アキさん、さっきは意地悪であのような事を言ってしまいましたが、勿論ボットさんとの絆がとても太く・大事だと言うのは私にも理解しております。

私はボットさんに惚れこちらに参りましたが、アキさんとも家族として仲良くしたい。そう心から願っているんですよ?」


「そ、そうか・・・家族か!うむ!数日でわらわに2人も家族が出来たのじゃな!」


ずっと1人だったアキは嬉しそうに笑う


それから少しずつではあるがアキはリカにも懐く様になった




俺が朝食を作り終えた匂いに釣られたのかアキが起きて台所まで来た


「おはようなのじゃ・・・今日もいい匂いじゃな」


「あぁ、おはよう。まず顔洗ってこい、今、飯出来た所だから」


そう言って俺はアキのボサボサの髪を手櫛で整える


「えへへ・・・!うむ!いってくる」


「あぁ、行ってらっしゃい。終わったらリカと待っててくれ」


「分かったのじゃ!リカにも挨拶せんとな!」




「「「いただきます!」」」


いただきますを言う係はアキが当番になった


本人は物凄い嬉しそうに毎回役目を果たしている


リカは神官として別の祈りをするので、俺達より少し早く席に着き1人で祈ってから俺達と3人でいただきますと言う


リカが信仰している宗教は国教でもある『聖教会』


その聖教会でもかなりの権力者であるリカだが、俺達を無理に宗教に入れようなどはしなかった


リカは「勿論、信じていただけるならお手伝いしますが、神は無理に思想を強制する事を望みませんので」と言う事らしい


食事が進みしばらくすると俺はアキにたずねた


「今日はギルドに行って俺達パーティ最初の依頼を受けようと思うのだが、どうだ?」


「おぉ、良いの!遂にわらわ達の冒険が始まるのじゃな!!」


「まぁ、Eランクだし冒険と言う程の依頼は受けられないけどな・・・」


このパーティはリカを入れない事にした


まぁ、国で唯一『鑑定・大』を使える彼女を危険な所に連れていける訳ないからな


貴族の中には箔を付ける為や趣味として冒険者をしている事もあるらしい


逆に冒険者から貴族になるパターンも


「アキさん、決して無理はなさらず無事に帰ってきてくださいね?」


「うむ!リカの為にも頑張ってくるのじゃ!」


リカは心配そうな顔をしていたが、アキの笑顔につられるように一緒に笑うのだった




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