一か月。タロがうちに来てから一か月経った。ずっとタロにはできるだけ触らないようにしてきた。結局家族には犬が嫌いなように思われている。まあ説明はできないからそれでも問題ない。どうしようもないとも言う。

 ずっと同じように見えている。家族からの見え方も変わっていないならそれも当たり前かもしれない。けれど少しでも変化があればいいと思う。私からの見え方が変わるか、みんなからの見え方が変わるか。どちらも怖いが今よりもましだろう。


 少し前から何かがおかしい。物がなくなっていることはわかる。けれどなんとなく家具の配置もおかしい。けれど違和感というだけなので何がおかしいのかわからない。もしかしたら気づいてないことがほかにもあるのかもしれない。総合で違和感ということなのかもしれない。

 小さい置時計が消えた。ティッシュの箱が一つ消えた。本が一冊見当たらない。どれもどこか行ってもおかしくないくらいの大きさ。気のせいかもしれない。

 私にとって得体の知れないものであるタロがうちに来てからそういうことが増えた。気のせいかもしれない。タロのせいだと思いたいのかもしれない。

 父も母も気づいていないみたいだ。小さいものだから。毎日見るものじゃないから。毎日気にしているものじゃないから。

 棚はあそこにあっただろうか。テレビはあそこにあっただろうか。毎日見ているはずなのに毎日気にしていないから。それらのあった場所には元々何があっただろうか。それらがあったはずの場所に今は何があるだろうか。

 両親は違和感を持っていない。それはわかる。


 タロが大きく見える。いやどんどん大きくなる。おかしい。そんなこと今までなかった。いや、できるだけタロを避けていたから今まで見てこなかっただけかもしれない。けれどよくわからないながらも何故か恐怖を感じる。今まで感じたことのないほどの恐怖。

 穴。大きな穴。タロが私と同じくらいになって、元の身体の大きさの三倍くらいの大きさの穴がタロに空いている。口なのだろうと思った。ちゃんと口がある。今まで見えなかっただけだ。その口が大きく開いて、食べるものは。そこで意識が終わった。

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タロと 虫十無 @musitomu

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