タロと

虫十無

タロ

 家にいる時間が長くなった。ニュースでペットを飼う家庭が増えていると言っていた。おうち時間の癒しにということらしい。というか、ウチもそうだ。

 一歳のオスの小型犬、らしい。犬種は聞いたけど忘れてしまった。だってそれには見えないから。


 私の目にはそれは毛のない乾燥した肉の塊、に見える。目は見えるときと肉に埋もれているんだろうなって時がある。なんとなく触る気になれない造形。度胸がないからまだ触っていない。脚はわからない、うぞうぞという感じで動く。口はわからないが家族が与えるドッグフードをちゃんと食べているようなのでどこかにはあるだろう。

 それにタロという名前を付けて父も母も妹もかわいがっている。最初は太郎にしようかとか言ってたのに妹がタロの方がかわいいしこの子に似合ってると言ったのでそうなった。

 妹は絵がうまい。美大志望タイプの絵のうまさで、鉛筆で写実的に書くのが得意だ。だからタロのこともよく描いているしそれを見せてくれる。確かにそこには小型犬が描かれている。かわいらしい小型犬。確かにタロがそう見えているならタロという名前は似合っているかわいいものだろう。けれど私は怖くなるだけだ。だってそれとは似ても似つかないようなものしか見えてない。


 どうして私にだけタロがわけのわからないものに見えているのだろう。私にはずっとタロがああいう風に見えている、写真でも。妹の描く絵でならかわいい犬に見えるがそのくらいだ。

 けれど父も母もかわいい犬に見えてるらしいしみんな友人や同僚に写真で自慢している。その反応からしても誰も私と同じようには見えていないみたいだ。私の目か頭がおかしいのだろうか。

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