4、前を向いて Ⅲ

 「皆、部誌作ろう!!」

 カレンダーの上でも、実際の気候としても、完全に夏が終わった。秋の匂いが空いっぱいに広がっていた。そんな空は、芸術的な模様が飾られていた。完全に、秋の空気になっていた。

 

 そんな中、ぜんび美高校文芸部では、まろかと町音まちねの一年生にとっては、二回目となる、次のコンクールに向けての部誌の制作が始まった。最初に

部長の四葉からの話。

「もうそろそろ時期だしね」

「ええですね」

「もう二回目の部誌かー」

「この時期は秋の大会。センバツ」

「また野球か」

「えっとね。今回のコンクールは全国規模のやつじゃないの。地方規模のなんじゃけど、でも、結局全国が注目するんじゃと思うよ」

 前回の、夏に発行した部誌の大反響ぶりから、また次回の部誌への期待も高まっていることだろう。

 そうだ、私たちは注目されているんだ。あれよりも上の出来のものを作るんだ。漱哉そうやさんはきっと超えてくるだろうから、それにまた圧倒されないようにしないと。

「そして、今回は、先生も加入されるって」

「ええ、そうよ。藤子ちゃんが引退して、更に人数が少なくなっちゃったし、私もまた書いてみたいと思ったの」

「わー、先生の新作。すごいです!」

「元プロの小説家の腕が生で見られるなんて、そうそうあるものではないです」

 先生の過去のことは、今では文芸部の皆が知っていることになっていた。

 そんな先生の格好は、秋になって、服装のテイストが変わった。春、夏、九月のまだまだ暑い時期は水色や淡い緑の爽やかなものが主流だったが、秋になった今では、茶色や濃い赤色の秋らしい大人な格好に変わった。渋みがあって、これまた美しい。

 湧いている部員たちに、先生は恥ずかしそうに微笑んだ。

「それじゃあ、楽しみにしているよ」

「はいっ!」

 

 帰り道。まろかは、漱哉とふたりで並んで歩いていた。

 いつのまにか、空は東雲しののめ色に染まっていた。ついこの間までは青い空であったのに。秋がきて、これから冬になるんだ、と、改めて思わされる。この空を見る度に、何度も何度も思うだろう。東雲の空も、また風情があって綺麗だ。

「飛行機雲があかい」

 それを聞いたまろかは、驚いて、反射的に彼の方を向いた。漱哉は空を走る飛行機雲を見ていた。彼が下を向かずに、空を見上げていた。まろかは、驚きと感激が混ざって、スプーンでぐるぐるとかき回されていた。まろかも、また見上げて、あか色の夕陽に照らされて、緋く光り輝いている。それは、まさに流星だ。

「そうですね。緋い流星。……赤い流星!!!」

「どうした」

 漱哉は困惑と呆然ぼうぜんの声で言った。まろかは場違いな声の調子で言った。そして仕舞いには、何故か興奮気味でいた。

「赤い流星ですよ。赤い流星。レッドスター! かっこよくないですか!」

「野球か」

 まろかが大好きな野球に関連したワードだろう。どっかで耳に挟んだことがあったような気がする。

「まあ、それもありますね」

 まろかは、とってもごきげんに鼻歌を歌って、ぴょんぴょん跳ねていた。その歌で、彼女がごきげんになった原因がわかったかもしれない。

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