2、最初と最後の「葱頼」Ⅳ
しかし、その明るい街の外れの辺りは、まだまだ灰色にくすんだまま。辺りの街灯たちに明かりはなく、空っぽのまま放置されている。学級の方では、小学の頃と変わらない状況のままだ。まろかの容姿もほとんど変わっていない。地味で不気味。中学で新しく出会う人たちからも、気味悪がられた。皆から避けられ、陰で悪口を言われているのが、まろか当人の耳にも聞こえた。まろかの心の中の箱は、もはやボロボロになっていた。でも、小学の時とは大きく違った。
学級の方でズタズタになっても、授業が終わり、部室の扉をがらがらと開ければ、あの威勢の良い声が聞こえてくる。この声を聞いた途端に、まろかが負っている傷が、一瞬にして
「
それを言われたまろかは、勝負に負けたときのような気持ちが
「……正直、上手くやれてないです。小学校のときからそうなんですけど。他の人たちに怖がられて、陰で……いろいろ言われたりしてて。私の目ためが悪いからなんですけど……」
「原因をしっかり理解できとるんじゃな西園。立派なことじゃ。原因がはっきりとしとれば、あとはそれの改善に
ここでも、彼はプラスに
「……でも、いまさら遅いです。急に変わっても逆に変な目を向けられる」
「人生に遅いなんてない。今すぐにでも、自分を変えることができる。君の強い意思があればじゃが。周りの状況を変えたけりゃあ、まずは自分から変えるのが一番有効じゃ。ただ待っとるだけでは何も変わるこたぁない。じゃけぇ、君の方から、その闇の広がる心に光り輝く灯火を灯すんじゃ。学級の方でもここと同じように明るく振る舞えばええ」
彼の言う言葉の、ひとつひとつの単語が重く、全てがまろかに刺さった。人生に遅いなんてない。自分の意思があれば。まずは自分から変える。
自分を変える。私を変える。この地味で不気味な自分を変える。できるかな。
「何も難しいこたぁはないと思うぞ」
そうだ。と、王雅は言った。
「西園、今度の土曜か日曜、うちに来るか」
「え!?」
突然出てきた予期していなかった言葉に、まろかは固まった。うち? 彼の家。人の家に、しかも王雅さんの!?
人の家に呼ばれたことなど一度もない。しかも、大尊敬する先輩の。まろかは、ドキドキのあまり頭が混乱した。
「い、家って、ど、どこの……ですか」
混乱のあまり、意味の分からないことを言ってしまった。これには、王雅も首を傾げた。まろかは恥ずかしさで顔を赤くする。
「す、すみません。さっきのはなしで」
王雅は、笑った。
「ちょっと落ち着け、西園。俺の家だ。うちは空手の道場を経営しておる」
空手? また突拍子な言葉が出てきて、まろかは冷え固まった。しかし、王雅に似合わないこともない。
彼から土曜と日曜のどちらが空いているかを聞かれ、土曜と答えた。そして、時間や待ち合いの場所を伝えられた。こうしてこの週の土曜日に彼の家に行くことが決定した。
土曜になり、まろかは王雅の家に行く。約束の時間に近づき、待ち合いのところに向かうと、すでにそこには彼がいて大きく手を振っていた。彼と横に並んで歩いていき、彼の家に着いた。本当に家に道場があって、しかも実際に
王雅とまろかの相手してくれたのは、母親だ。事前に王雅に事情を伝えられられたらしく、ふたりを居間に入れてすぐにまろかを呼んだ。
まろかを洗面所に呼び出すと、王雅の母親はまろかをじっくりと見た。
「うん、ちょっと暗いなぁ。手、入れるね」
眉を
「自分を変えたいって意識したのっていつぐらいから?」
「……つい最近ですね。人に言われて」
「それって王雅?」
「え、あ、はい。……でも、どうすればいいのか。今までずっとこれだったから。急に変えるのも変かなって」
「人の目を気にしとるのね。気にしなくてもええよ。どうせ誰も何とも思っとらんけぇ」
「えー、でも、皆ずっと私のことを見よるので、気にせずにはいられないです」
「それは君に怯えているからじゃないかな。じゃけえ、君が怖くなくなれば誰も君にずっと見られることはない。それに中学生の人間関係なんて大抵たった三年きりのもので、大したものじゃないんよ。そんなのに
彼女は、黒色のゴムで、まろかの髪を
王雅の母親の許しを得て、まろかはそのまま帰宅した。そして、休み明け、学校に髪を結んで登校した。歩いている最中、王雅と会った。そしてふたり並んで会話を弾ませた。彼と一緒に歩くことは多いのだが、そのおかげで、登校中の憂鬱というものは魔法にかけられたように、消えていた。
教室に着き、扉を開けた。王雅と別れる直前、彼から
自分が変われば、周りの状況が変わる。これを肌で感じさせられた。全ては彼のおがげだ。心の底から感謝をするとともに、深く尊敬をする。
そんなまろかの全てを変えた王雅は、彼が文芸部を引退する直前まで、中学を卒業するまで、まろかに大きな影響を与え続けた。そして、彼が卒業する際、ふたりは連絡先を交換した。
「これからもずっと、君を応援しておる。何かあったらいつでも俺を頼れ。がんばれ西園」
「はいっ!」
こうして王雅は、中学校を卒業した。素晴らしい彼の、強烈な姿と力強い言葉は、いつまでも忘れない。
そう見上げるまろか。この日の空はきれいだった。
まろかが王雅のおかげで変わったように、今度はまろかが
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