最終話
レイフォードの酒場『クリスタル』
仕事が終わり、いつものように〝大鷲″のメンバーが集まっていた。
「まったく! 私たちが必死で戦ってる間、なにしてたのよ」
怒り心頭のソフィアを前に、ガルムはテーブルに突っ伏し、
「面目ない……」
「私たちはクレイブの住民を避難させながら三体魔族を倒したの! あんたは何体倒したのよ!?」
「…………ゼロです」
ガルムはやたら強い魔族と戦ったあと、辺りを探し回ったが、結局一体の魔族も見つけることができなかった。
ソフィアにはこってり絞られたが、もはや言い訳する気力もない。
「それぐらいにしろ、ソフィア」
ヴァンが
「だって! 魔族十体討伐できなかったせいで、Bランク昇格の話無くなったんだよ!」
ガルムたちは朝一番に、ギルドの最上階に足を運んでいた。ギルドマスターであるヤコブに依頼の失敗を伝えると、
「いや~残念だったのう。後もうちょっとで昇格だったんじゃが……」
ヤコブは笑っていたが、ヴァンやガルムにとっては笑いごとではない。次のチャンスがあるか尋ねると、ヤコブに代わって秘書のナターシャが答える。
「申し訳ありませんが、依頼を達成できなかった以上、ランク昇格の話は無かったことにして下さい」
ナターシャは冷徹な顔で、淡々と伝える。
ガルムたちは「そんな~」と心の中で思うが、そういう約束であるため仕方がない。その後、五人で肩を落とし酒場にやってきて、今に至る。
管を巻ながらヤケ酒を飲んでいると――
「おいおい、しけた面してんな~。こっちまで陰気になるぜ!」
項垂れていたガルムが顔を上げる。そこにいたのは〝アルバトロス″のマカオスと仲間たちだ。
「俺たちは全部で十三体の魔族を倒してな~。Aランク昇格も間近って所だ。そっちは何体やったんだ?」
ニタニタと笑いながら聞いてくるマカオス。ガルムはイラッと頭にくる。
「俺たちが倒せなかった大蜘蛛を倒したパーティーなんだから、さぞや多いんだろうな~。なぁ、そうだろ、ガルム?」
「うるせぇええっ!! 用が無いならとっとと帰りやがれ!」
ガルムがぶち切れて立ち上がると、マカオスは「おー怖い怖い」と言って出口へと歩いていく。
「せいぜい気を落とさずに頑張れよ! じゃーな!」
笑って扉から出て行くマカオスたち、店内には扉に付いた鈴の音がカランカランと響いていた。
「まあ、あいつの言う通り、落ち込んでても仕方ない。元に戻っただけだ、また一から始めればいいだろ」
ヴァンがそう言うと、クレイもやれやれと頭を掻く。
「確かにそうだな。遅かれ早かれ、俺たちは上に行くんだ。それができなくなった訳でもねえし、うだうだ考えるのも性に合わねえ!」
ソフィアとアンバーも頷く。
「そうね、Bランクの依頼二つに魔族の耳三つ。結構お金になったし、そんなに落ち込む必要もないかも」
「わ、私も……がんばったと思う」
ソフィアは隣の席に目をやる。そこには未だに項垂れるガルムがいた。ソフィアはおもむろに立ち上がり、ガルムの背中を思いっきり引っぱたく。
「痛っ!?」
ガルムが驚いて顔を上げると、ソフィアが怖い顔で見下ろしている。
「いつまでウジウジしてんのよ。終わったこと気にしてもしょーがないでしょ! 前を向きなさいよ、前を」
「い、いや……お前が散々終わったこと言ってたんじゃねーのか!?」
「うるさいわね!」
理不尽だと思うガルムだが、みんなの言う通り落ち込んでばかりもいられない。
「分かったよ! やりゃーいいんだろ、やりゃあ。早速ギルドに行って次の依頼でも探すか……」
「今回の件はパーティーに対する貸しだからね!」
「貸し?」
「当然でしょ! みんなに迷惑かけたんだから、必ず返してね!」
何を要求されるか不安になったガルムだが、まあいいか、と席を立つ。
五人は酒場を出て、再びギルド会館へ。
彼らは知らない。世界中の勢力がそれぞれの思惑で動き出したことを。
ブリテンド王国は謎の戦士を探すため。
連合軍は、魔王を退けた者がいるという噂を確かめるため。
魔王軍は突如現れた最強の敵を倒すため。
たった一人のおっさんを中心に、世界は回り始める。
「……ガルム、聞いていい?」
「ん? なんだアンバー、なんでも聞いていいぞ」
「ガルムは、冒険者ルネオスみたいになりたいって言ってたけど……なれたらその後どうするの?」
「なれたらか~、そうだな、なれたら金もいっぱいあるだろうし冒険者は辞めて、悠々自適に暮らすかな」
「ルネオス!? あの成金で浮気しまくってた男じゃない! あんなクズみたいな冒険者になりたいの? ガルムにはお似合いかもしれないけど……」
「誰がクズみたいだ! ルネオスは全冒険者の憧れだぞ!!」
ソフィアに馬鹿にされ、ガルムは鼻息荒く憤慨する。
「あんな冒険者に憧れてるなんてガルムぐらいよ! もっとマシな目標立てたら?」
「ぬぐぐぐぐ」
相も変わらない二人の様子を見て、クレイとヴァンは呆れていた。
「あいつら、またやってるぞ」
「まあ、いつものことだ」
狭い路地を抜け、人が行き交う大通りに出る。色々な店が立ち並び活気づくいつもの風景。
遠くに見慣れた建物がそびえ立つ。
「おっ! ギルドが見えてきた。とにかく報酬がいい依頼を受けようぜ!」
金と女と名声と―― 欲まみれのおっさんの冒険は、まだ始まったばかり。
おわり
ゴミ処理業者のおっさん、神話級の武具を拾う。 温泉カピバラ @aratakappi
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