やれ!課題を!

藻を育てる

やるぞ!!!!!

「一緒に課題やろうぜ」

「とつぜん連絡してきたと思ったら」

「出されただろ? コイ……? 知ってる言葉を増やせってやつ」

「本読むやつな」

 ゴイを増やせ。先生から出された課題。外出できない間にやれとのことだ。

 そんなに長い期間じゃないんだから、休日を満喫させてくれてもいいのに。学校は甘くなかった。

「終わらせた?」

「まだ。あー……やるかあ」

「どれ選んだ?」

「これ」

 向こう側にいる友人に見えるよう本をかかげた。

「きん、かくじ?」

「読めるじゃん」

「横に書いてあんだから読めらあ」

 建物が目いっぱい大きく描かれた本。題名には読みやすいように文字が書いてある。きっと俺たちのような人間のためにつくられた物なんだろう。

 学校は他にも本を用意してくれたが、これが一番カッコいい。軟弱な形がひとつもない。

「そっちは?」

「オレはコレ」

 銀河鉄道の夜。俺の候補にもあった本だ。

「じゃあ、とりあえず時間決めてやるか」

 これって通信する必要は。疑問はあったが、とりあえず本を開くことにした。

 直ぐに、うっ、と詰まる声がきこえた。その意味はすぐさま理解できた。この本、表紙では優しい顔をしておいて中身は鬼だ。ほとんど読みかたが書いてない。はめられた。

 しかたない、分かるところだけひろっていこう。


「どうだった」

 どうと聞かれても、こっちは半分も理解できていない。難しすぎた。それでも言うなら。

「すっげー……すっげー燃えてた、金閣寺」

「マジかよ、かっけー」

 俺は友人の言葉に深くうなずいた。デカい物が燃えてるというのはなんとなく理解できた。デカい物が燃えてるのは格好がいい。デカいところが特にいい。

「そっちはどうだった?」

「分からなかった! 一文字も」

「意味ねー。止めてくれたらよかったのに」

「でも収穫はあった」

 一文字も理解できなかったのに収穫とは。

「人には向き不向きがあるんだと思う。向いてないことは辛いうえに楽しくない。オレは自分に合った能力をのばしていくよ」

「……辞めるのか」

「辞めねえよ。もっと将来の話」

 その言葉に内心ほっと息をついた。

「なあ、今度はコレやろうぜ」

 湿った空気を吹き飛ばすように友人は言った。どこから取り出したのか、手には運動用の球が握られている。

「外出禁止だぞ」

「おいおい、なんのために家には窓がついてんだ?」

「は?」

 嫌な予感がする。

「なんのために俺たちの家は向かいあってるんだ?」

「球投げするためではねえよ!」

「窓開けろ!」

「やめろバカ!」

 振りかぶってる。こいつ本気だ、本気で投げる気だ。

 あわてて席を立ち窓を開ける。球は目の前まで迫っていた。

「っぶねえ……」

 どうにか取れた。なんてやつだ。

「そんなだから課題できないんだ、よっ!」

 反対側であおってるアイツに怒りの全力投球で立ち向かう。案の定、あっさり捕られてしまったが。

「ニホンとかいう異世界の言葉なんて知る、かッ」

「いいからやっとけ!」

「おめえも出来てないくせに」

「うるせえ!」

 通信なのか肉声なのか分からない声。おたがいの家を球がなんども出入りする。

「オレは頭より体で生きるッ!」

 大きな振りかぶり。力強い一投。

「あっ」

 だが力みすぎたらしい。球の飛ぶ方向は大きくそれた。俺の視界右側へと消え去る。

 俺たちは窓から行方を見守るしかなかった。

 壁に当たる音がして、道を照らす灯りにはね返り、むなしく地面に落ちて──飲み込まれた。

 球が落ちた瞬間、異形の怪物が地面から湧き出てきて、まるで待ち伏せていたかのように口を広げたのだ。

「あーあ」

 怪物が消えた地面を見下ろす。急に熱が冷めてきた。

「あの怪物いつ居なくなるんだ?」

「いつも通りなら三日くらい」

 数日経てばとなりの地域。また数日経てば更にとなりの地域。知らない場所をぐるっと回ってそのうちココに戻ってくる、この世界を巡回している謎の生き物。

 コイツが現れると外出が禁止になる。食べられてしまうから。建物のなかだけが絶対の安全圏。

「誰かやっつけてくれないかな」

「向いてる人がやるんじゃね、きっと」

 世界は勝手に回ってる。

 異世界の言葉は向いてる誰かが研究して、向いてない人でも理解できるようにしてくれる。

 あの怪物だってきっとそうだ。

 でも、少なくともそれは俺たちではない。

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やれ!課題を! 藻を育てる @mizukusa_lll

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