第7話 行方
第7話 行方
「奄美大島」
そう依が言い放ってから2時間後、私たちは今、船の上にいる。
「ううう…酔った、俺死ぬかも」
船酔いに苦しむ依を横目に、私はこれから向かう先への一抹の不安を抱えていた。
__「奄美大島??…てどこだっけ」
名前は聞いたことあるものの、どこにあるのか見当もつかない。
沖縄みたいなとこだろうか。
「沖縄と鹿児島の間にある島だよ」
案外場所の見当は間違っていないみたいだ。
「なんで、その、奄美大島なの?」
「兄が住んでるんだ。古民家だけどここよりずっといいところだと思うよ。」
依の……兄。
私のことはどう説明するのだろうか。
本当のことを言ったとして、私を受け入れてくれる保障はどこにもない。
「お兄さんになんていうの?」
「大丈夫だよ、兄さんならきっとわかってくれる。
それに、ひよりも兄さんのこと気に入ると思うよ。」
一人っ子の私には、兄弟の絆とか、信頼云々は分からない。
けれど、会ったこともない他人が、簡単に受け入れてくれる話とは思えない。
「だめ、かな……?」
迷っている暇なんてない。
ここを出て、行く当てもなく逃げ回るよりは可能性があるかもしれない。
「分かった。行くよ、奄美。」
__半ば流されるように、こうして私たちは海を渡っているというわけだ。
あれからひっきりなしにニュースは報道されている。
その度に顔写真が出るため、顔を覚えてしまう人がいるのではないかと思うほどだ。
マスクに、紺色のフードを被った姿は、まるで刑事ドラマに出てくる”怪しい奴”だ。
「やっぱり不安?」
「まあ……即刻警察送りかもしれないし……って船酔い醒めたの?」
「いっぱいあくびしてたら醒めた。」
「あっそ……。」
(相変わらず変な男だ……。)
「兄さんには、僕がちゃんと話すから心配しなくていいよ。」
そう話す依を見ていると、それとは違う不安が募った。
私はいつも一人だった。
この世界にあなたはいらない、そう言われているようだった。
依もそうだったのではないかと、どこかで思っていた私の勘は、間違っていたかもしれない。
もし、兄が受け入れなかったら、依は簡単に私のことを裏切るかもしれない。
そうなったら、私は一人で死ぬのだろうか。
いつの間にか依の存在は、私の死に対する欲求をとどめていたことに気づく。
「ねえ、見て!」
依りの人差し指は、真っ直ぐと目的地を指していた。
私の不安をよそに、遠足に来た子供のような表情を浮かべている。
新たな不安の火種をもったまま、私たちの逃亡は始まった。
同時刻__
「この少女で間違いないですね?」
「ええ!そうよ、この子よ。間違いないわ。
一度しか見たことないけれど、印象的だったから、しっかり覚えてる。
行方不明のひよりちゃんに間違いありません。」
紺色の僕たちは 神代 緋音 @akane_t18
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