ドローン飛ばすのは楽しいな

冬和

 このご時世、空の世界は大変だ。

 旅客機はお客が来なくなってすっかり飛ばなくなっちゃったし、軍隊の戦闘機パイロットも、酸素マスクじゃない普通のマスクをかけて空を飛ぶ有様だ。

 はあ、これだから有人機は。

 もう有人機の時代は終わったんだよ。

 現代人は、もう生身でなくても空を飛べる時代になったんだ。


 さあ見てごらんよ、このパソコンに映る雄大な景色を!

 広大な山々!

 緑の大地!

 青い湖!

 僕がさっき飛ばしたドローンのカメラが映している映像さ。

 そう、ドローン。無人機。

 普通の飛行機なんてもう古い。ここ最近はドローンが熱いのさ。

 パイロットは健康で体力ある人しかなる事ができないけど、ドローンはそんな事ない。

 僕みたいなインドア派の人間でも、ちょっと勉強すれば簡単に空を飛ぶ気分を味わえるのさ。

 いやー、ハイテクって最高だね!

 こんな外出禁止ロックダウンみたいなご時世でも、楽々空を飛べるのはドローン使いの特権だ。


 おっ、あの道走ってるのは何だ? ズームインして見てみよう。

 ジープじゃねえか。

 いいもん見ーつけた!

 このご時世、こんな所を呑気に走ってるなんて──よーし、突入だ! スイッチオン!

 おっ、向かっていったぞ。

 映像がゆらりと揺れたのは、ドローンが機首を向けた証拠だ。

 ジープがどんどんどんどん大きくなってきた。

 いいぞ。いいぞ。向こうは気付いてない!

 行け行け行け行け行け行け行け行け──!


 ────────砂嵐。


 ははははは、ざまあ見やがれ!

 ドローンの体当たりを喰らったジープは、木っ端微塵だろうさ! 乗ってる奴らも間違いなく全員死亡! きっとドローンが突っ込んだ事に気付きもしなかっただろうなあ! ははははは!


 ……え? 俺は一体何者なのかって?

 そうだなあ、しがないテロリストとでもしておこうか。

 今俺達は、戦争の真っ最中。

 こんな外出禁止ロックダウンみたいなご時世で、戦争やるなって? ばーか、戦争に休日なんて概念はないんだよ。呑気に休んでたら、やられるのはこっちだしな。

 でもさ、そんな戦争で集団感染なんてしたくないだろ?

 だからドローンを使うのさ。

 こうやって部屋の中からドローンを操って、敵を見つけたら突っ込ませて自爆させる。要するにカミカゼアタックだ。

 ドローンは鳥くらい小さいからな。レーダーだって簡単に潜り抜けられるし、音も小さいから気付かれにくい! 見つかったとしても、銃で撃ち落とすのは至難の技!

 いくら戦闘機で制空権を取ったからって、小さいドローンの前では何の意味もなさない!

 まさにドローンは、戦場の支配者なのさ!

 ああ、素晴らしい! 愉快愉快!

 今はもう、戦場に行かなくても戦争ができる時代になったんだ!

 おうち時間を堪能しながら、にっくきあいつらを成敗できるって、これほど楽しい事はない!


 さてさて。

 じゃあ次のドローンを準備しないとな。

 あいつらに安心させる時間を与えちゃダメだからな。

 お前も命が惜しかったら、頭上に注意しておくことだな。

 いつドローンが静かに近づいてくるか──ん?

 何の音だ?

 おかしいな、今帰ってくるようなドローンなんて飛ばしてないはず──



 ────────暗転。

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