家族団らん

糸井翼

家族団らん

「パパ、そこ邪魔」

テレビの前で横になっていると、母親似のかわいい娘が俺の寝ているところで遊びだした。やれやれ。ちょっと横にずれるか。

「こら、パパは毎日お仕事で疲れているんだよ」

俺の妻の声がする。見た目も素晴らしいのだが、声もかわいらしい。夕食の準備を始めたのか、台所で水の音がする。

「良いんだよ、どくよ」

時計を見ると、17時過ぎ。もうこんな時間か。家族団らんの休日はあっという間に終わってしまう。

「ねえ、パパ、一緒に遊ぼ?」

娘のこの純粋な視線。ノーとは返せないな。娘は俺のことが大好きなのだ。親バカかもしれないけどな。にこりとして、二人で子供向けのゲームを始める。箱庭で色々アイテムを起きながら、人形たちが動き出す。花壇には花が咲き乱れ、のほほんとした世界だ。娘は一生懸命アイテムの置き方を考えて、俺に悩ましそうな顔を見せる。何かヒントがほしいのだとわかる。

「これをここに置こうか」

「あっ、私やる!やらせて!」

娘が真面目な顔でゲームを操作する。その横顔。幸せだな…

おうち時間が苦手という声や、せっかくの休日に家にこもるのはもったいないという意見も確かに聞く。だが、愛する人たちと一緒に暮らして、一緒にいるこの時間ほど尊いものがあるのだろうか。


夕食は妻の手料理だ。湯気が立ち、まさに幸せな光景だ。

「おいしい?」

そんなかわいい顔でこっちを見られたら、俺はうなずくしかない。

「おいしいよ」

にこりとすると、妻は嬉しそうな顔でガッツポーズを作る。俺が味をわからないこと、知っているのか知らないのか…

「おいしーい!」

娘の声がした。俺は思わず笑って娘と視線を合わせた。

味はわからないが、娘のおいしそうに喜んで食べる顔、妻の娘を見る優しい表情、これが全てだ。食事や味は別にどうだって良いんだ。今、家族で過ごすこの時間に意味があるんだから。

食べ終わった。娘も食べ終わって、また遊びに行こうとする。

「こら、食べ終わったら、言わないといけないことがあるよね」

「パパと一緒に言おうか」

俺が言うと娘は笑って、

「はーい」

「せーの」

「ごちそうさまでした!」


その瞬間、目の前が真っ暗になった。

「電池切れです。充電してください」


大きなゴーグルをとると、俺の現実の家は真っ暗だった。時計は20時を指している。

俺は二次元の妻と結婚したのに。家族が待っているのに。仕方ない。ゴーグルを充電機に置いて、ひと眠りとしよう。

しかし、真っ暗な独りぼっちの家に思う。家族も友達もいない。現実は残酷だ。

…いや、あの世界こそリアルなんだ。戻ったら妻と娘に何を話そうか。俺を待っている。早く戻らないとな。


男がやっていたのは理想の家族生活を体験できるVR技術を使ったゲームだった。大人気だったが、男のようにのめり込む人が絶えないため、一定時間プレイすると、充電が切れてしまうようになっている。充電中はプレイできないのだ。そうでもしないと、現実に戻って来ない者も少なくなかったからであった。


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家族団らん 糸井翼 @sname

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