第3話 決意、そしてどうする?

「寝てる間にドラゴンを倒しに行くことになっていた件」




  道也が机に突っ伏しながら呟く。




「寝ている方が悪いのだ」




  大海が一蹴する。


  時は放課後、所は空き教室。


  ドラゴンを倒すにも計画を建てなければ始まらないということでとりあえずは会議となった訳である。




「道也は不満か?」




  悠紀が尋ねる。




「いや、ただ面倒なだけ。不満はない」




「じゃあいいな。んで問題のターゲットだが、『グリーンドラゴン』あたりが妥当だと思うんだけどどうだ?」




『グリーンドラゴン』


  体長は約10メートル、背中に希少なクリスタルを生やしたドラゴンである。


  活動時間は日中で洞窟や洞穴を住み処にし、夜はそこで眠る。


  翼はあるものの退化しておりごく僅かな時間しか飛べない。


  強力な炎を吐くが一度使えばしばらくは使えない。


  背中のクリスタルに魔力を蓄えるため、ブレスが使えるときはクリスタルが光っているのが特徴。


  ここまで書いて分かるとおり比較的狩りやすいドラゴンである。


  しかし、それでもあらゆる攻撃がまともに受ければ即死。


  強靭な肉体は毒の類いを受け付けず体表は緑色の硬い鱗で覆われ生半可な攻撃は届かないという強敵である。




「私は構わない」




「オレっちも」




  健志と一樹も頷く。


  道也は机に突っ伏したまま構わないというようにひらひらと手を振った。




「これも決まりっと。次に移動計画だな。目的地近くの政府の駐屯所までは車、そこからは徒歩で移動だな。運転は道也よろしく」




「めんどいけど了解」




「ありがとな。あと場合によっちゃ泊まりになるから寝袋とか食糧も忘れるなよ」




  一同が頷いた。




「あと陣形はいつもどおりーー」




「自分が引き付けて」




「ボクは回復と援護をやって」




「私とーー」




「オレっちが攻撃して」




「僕は寝る」




「狙撃してっ!!」




  悠紀が思わず突っ込む。




「はぁ……、とにかくそんな感じで……。車両の貸し出し申請出して来るわ」




  そう言って悠紀は力なく手を振りながら教室を出ていった。












「はぁ……」




  桂 重隆は人知れずため息をついた。


  そして、デスクに広げた資料をペラペラと捲る。




『秀明学園二年第十班 班員データ』




 リーダー兼メイジ 2-A『本井 悠紀もとい ゆき


 魔法適正:火 土


 使用武具:杖




 スナイパー 2-C『河崎 道也かわさき みちや


 魔法適正:雷


 使用武具:魔法銃ライフル




 アタッカー 2-B『水野 智之みずの ともゆき


 魔法適正:風


 使用武具:ナイフ




 遊撃手 2-C『奥間 大海おくま ひろみ


 魔法適正:氷


 使用武具:片手剣 魔法銃ハンドガン




 タンク 2-A『田辺 健志たなべ たけし


 魔法適正:なし


 使用武具:ハンマー 盾




 ヒーラー 2-B『黒瀬 一樹くろせ かずき


 魔法適正:光


 使用武具:なし




  史上初の『2属性使い』にして類い稀な魔力量を誇るメイジ、針に糸を通すような狙撃を行うスナイパー、スピードと制圧力のあるアタッカー、中近距離共に隙のない遊撃手、魔法は使えないものの堅く一撃の重いタンクに優秀なヒーラー。


  魔法の属性を全て補うバランスの取れた班構成。


  純粋なスペックで言えば全学年を合わせ、どの班よりも優れている。


  だというのにーー




「なんでああなるかねぇ……」




  集団戦闘の科目においては赤点筆頭、ゴブリン討伐に挑めば敗走。


  神は人に二物を与えず、とは言うがやり過ぎ感が否めない。




「だっつーのに楽しそうにしやがって……」




  言葉とは裏腹に笑みを浮かべ目を細める桂。


  その目は今ではないどこかを見ているようだった。


 


「失礼しまーす」




  入り口で挨拶した声の主はそのまま桂の元へやってくると『車両貸出申請書』と書かれたプリントを差し出した。


 




「やることにしたんだな。悠紀」




「まあ、やるだけ損はないと思ったんで。ていうか服生乾き臭いっすよ」




「お前らのせいだっつの!」




  全く悪びれた様子のない現問題児に桂はため息を吐きつつ申請書に判子を押した。


 


「はいよ」




「ありがとうございます」




  申請書を受け取り出ていこうとする悠紀。




「なあ、悠紀」




  桂は申請書を受け取り出ていこうとした悠紀を呼び止める。




「何すか?」




「お前友達できたんだな」




「喧嘩売ってんのか!」




「ちげーよ。素直に感心してんだ」




「何なんすか、いきなり」




  意味がわからないと首を傾げる悠紀。




「なあ、悠紀」




「今度は何すか?」




「ドラゴン倒せたら焼き肉でもおごってやるよ」




「え!? マジっすか! よっしゃ!」




  そう言って無邪気に笑う悠紀。


  それを見た桂は再び笑みを浮かべた。

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俺達異(常な)世界で学んでます~異世界日本における極平均的な男子高校生の日常~ しろ @tanakanarabu

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