第5話 ことわり
学園祭でのメインイベント。クロエが主演をつとめた演劇も終わり、俺とクロエは打ち合わせを行う会社へと向かっていた。
今日の成果だが、信じ難いほどに全ての話がうまく片付いた。
だが、それらに対し、いくつかの関門を与えられた。
まずはクロエの編入の件。編入試験を行うが、今の成績なら問題はないという。この件は助かった…。
今後は留学生ではなく、日本人として一般の生徒と同じ扱いになる事。
これも、日本語の読み書きができるので、問題はない。だがスピーチに対しては問題が多々有り。
『話し方が面白いからと言って、そのままにせず、必ず指摘して正しい日本語を覚えさせるように!』 と言われた。
これに関しては図星っす…。そしてこの、『正しい日本語を覚えさせる』が一番難しそうだ。
そしてやはり、一番の成果はクロエが華やかに演じる、演劇の舞台だった。
クロエの楽しそうに、それでいて一生懸命シンデレラを演じる姿に、俺は涙を浮かべる始末。
そして、なぜかザキちゃんと吉岡先生も涙を浮かべていた。
他の観客は笑っているのに、うすら笑いを浮かべながら、涙も浮かべるなんて、周囲の人から見ると、スーパードン引きトリオに見えたであろう…。
あとはクロエの友人の多さにも驚いた。これなら今後の学園生活も安心できそうだ。
🏢
私からのプレゼンが
「ご不明な点はありましたでしょうか?」
私の問いかけに、先方は「うーん…。」と言いながら首を傾げている。
まあ、最初だし? 絵もラフ画だし? わかりづらい事もあったであろう。
「時代風景は江戸から明治ですよね?」
難しい顔をし、私に問う担当。
「はい。慶応4年の江戸末期から明治元年です。」
「新選組はわかるんですけど、白虎隊って…。それに新撰組が敵になってますよね?」
そう来ますよね!
ふっふっふっ…。
「そうですね。『明白に敵』という枠に入れずに、近藤勇の投降と土方歳三の援軍を呼びに仙台に赴く。これらの行動が
「うーん。いいんだけどねぇ…。もっとインパクトをねぇ…。」
お? 食いついたか? まだまだこれからですぜ!
「インパクトは今までに無い、イケメンにプラスをしてショタです。」
先方の担当女子の眉が上がった。食いついたな?
「会津藩の主力、朱雀隊と青龍隊。それに続く玄武隊と白虎隊。実は幼少隊というのもありましてですね。この幼少隊をメインの位置に置こうかと思います。刀と鎧は後ほどお見せ致します。」
おお! うなずいているぞ! これはいけるか?
「良いかもしれませんね。それでは初期装備とガチャによる着せ替えのイラストですが、こちらもまだラフ画ですか?」
「15時からの打ち合わせで、秋本の方からお見せ出来ます。」
「了解です。それじゃ、10分くらい休憩ですかね?」
「そうですね。私からは以上になります。不明な点がありましたら内線06にお願いします。ありがとう御座いました。」
ふぅ…。秋本君、あとは宜しくね。
🏢
14時48分。
打ち合わせの会社に到着。
「疲れたか?」
「
早速フランセじゃねぇか!
「あれ? 何でフランセ?」
「疲れてる無いもん。」
やべー! 可愛い!
「疲れてないよ。か、大丈夫だよ。って言うんだぜ。」
残念そうな顔をするクロエ。いや、実際はここまで日本語を話すことができるのは凄い事なんだけどな。
「ノエ。心配しないで、私は疲れていませんよ。」
「よくできました。了解だ。」
打ち合わせをする会社が入居するビルに入り、受付に行く。
このビルは多数の会社が入る雑居ビルだ。俺が向かう会社はこのビルの3階にあるゲーム制作会社。今日は新提案をするソシャゲの部品。いわゆるガチャの商品と、それらを装着したアクターのデザイン画だ。
今日は秋本君が来るはずだったが、一昨日に徹夜をさせたため、俺が来ることにした。
俺も徹夜したんだけど…。
とりま、受付っちゃいますか。
「こんにちは。H.N.Fデザインの細谷です。システムラビッツの横山さんの依頼で来ました。」
「あっ! こんにちは細谷さーん! 秋本さんじゃなかったんですね? 今日はラッキーだわ! クロエちゃんにも会えたし! 横山さんから連絡をいただいております。どうぞお入りください。」
この人はいつも元気だな。受付嬢の鑑だ。
エレベーターで三階へ到着し、俺とクロエはここで別れた。
クロエは社員食堂で、ワークとシケベンをやるという。ちなみに今の若い子は試験勉強をシケベンと言う。なんでも略すんだな…。
俺は打ち合わせが始まる前に、喫煙ルームで一本付けさせてもらう。多分、2本だと思うが。
そして、喫煙ルーム入ると先客がいた。この人の名前は確か、村越さんと言ったかな?
「お世話様です。」
「やだぁ! 秋本さんじゃなかったの?」
秋本のファンか? やるじゃねぇか秋本君よ。
「すみません。秋本は先日、徹夜させてしまったので、替わりに僕が来ました。」
「ええ? 私は細谷さんの方がいいんですけどぉ。」
「あはは。ありがとう御座います。今日は御手柔らかにお願いしますね。村越さん。」
タバコを吸い終え、打ち合わせを始める。
ガチャのランクと商品は満場一致で即決した。が、メインアクターに問題が発生。
アクターはオシを選べる設定。だが、新撰組の組長クラスと幼少隊の差が、あまりにも有りすぎる。
ちなみに、この場合の差とは『イケメン具合』の事だ。
持ち込んだ液タブを使い修正を行う事、約30分。
(PCを使わずに作業のできる液晶型ペンタブレット)
村越氏も納得のアクターが出来上がった。残るはプリントアウトをし、最終チェックとなる。
「それじゃ、横山さんにプリントアウトをお願いしちゃうわね。細谷さんは喫煙室へどうぞ。」
「ありがとう御座います。」
村越さんは気が利く女性だ。こりゃモテるだろうな…。
喫煙室へ行くと、17時が過ぎた事もあってか、何人かの愛煙家がいた。
「あれ? 秋本さんじゃなかったんですね。」
話しかけて来たのは、企画・販促部の部長だ。
「ええ。私事でこちらの方に用事がありまして。クロエも一緒です。」
「おお! クロエちゃんは宿題かな?」
嬉しそうだなオイ!
「編入試験の勉強と宿題をやっております。」
「クロエちゃんは偉いね…。うちの子は試験の前でもソファーに寝そべって、携帯で動画を観ているだけですよ…。」
「あはは。それは仕方のない事ですよ。現代人はスマホがないと、生きていけないのでは?と思えますからね。」
俺が部長との会話中、ガラス張りの喫煙室の外から視線を感じた。
村越さんと見覚えのある小柄な女性。
「小山田?」
俺の声に部長も驚いている。
「あれ? 横山さんと知り合いですか?」
「ええ。僕が中学生の時まで、彼女の家のお隣に住んでいたんです。すみません、ちょっと失礼します。」
俺が喫煙室を出ると、後退りをする小山田。
「小山田って、この会社で働いていたんだね?」
「…うん…。」
尚も後退りをする小山田。
「え? ちょっと、小山田?」
「この前はありがと…。えっと…。それじゃ…。」
そう言って足早にこの場を去ってしまった。
「俺も、ザキちゃんと同窓会に行くから。」
俺は彼女の後ろ姿に言った。が、彼女はこちらを見ようともせず、歩きながら、『うん、うん。』頭を上下に振りながら去って行った。
🪅
11月26日(土)。 〇〇市立 〇〇○中学校 第30期生 同窓会々場。
卒業生が一同に集まる会場。皆それぞれに、仲の良かった友人と盛り上がっている。ザキちゃんこと、山崎先生もその一人だ。
小山田も俺から避けるようにしている。
会場の連中は俺の事をザキちゃんや小山田に聞いている。一緒に来場したので、気になったのだろう。
『あいつ誰だっけ?』
俺の方を見て、そんな声も聞こえている。まあ、そうなるよな…。
主催者の(株)同窓会屋さん。が挨拶をすると盛大な拍手が起こった。
俺は誰と話す事もなく、奥のテーブルでそれを聞いている。
我、何しに来たんだ?
執事服を着た男性が俺に飲み物を持って来た。その男性はトレイに乗せたドリンクを見せながら言う。
「何か、お口にしませんか?」
「ありがとう御座います。貴族のパーティーみたいですね。」
「記念すべきパーティーですから。旦那様もお楽しみなられては?」
旦那様来たー!
「そうですね。ありがとう御座います。」
そう言ってフルートに入ったシードルを頂いた。
フルートに口をつけると同時に話しかけてくる同級生。
「細谷君なの? 俺のことわかるかな?」
話しかけて来たのは、額がやけに広がっている小太りの男性。本当に同級生だろうか? とりあえず、佐藤君? とでも言ってみるかな…。
「佐藤君かな?」
「おお! 嬉しいな! 覚えていてくれたんだ!」
マジか!? スゲーな日本の佐藤
「細谷君ってさ、3年生になってすぐに転向したでしょ? どこに行ったの?」
鈴木! 嫌な事を聞いてくるな! あれ? 佐藤だっけ?
「ああ。ちょっと、海外に…。」
「へー。海外のどこ?」
「うん。ちょっと…。あ、ごめんちょっとトイレ行ってくる。」
グラスを置き、そそくさと会場を出る。
ああ。うざい…。
知り合いもいないし帰るかな…。っても、クロエが千穂ちゃんの家にお邪魔しているし…。
俺は喫煙ルームでタバコも吸い終わり、ラウンジのスツールに座っていた。
「葵君…。」
「千穂…、小山田。」
神妙な面持ちで俺の横に立つ小山田。いつからそこに?
「あの…。今、言う事じゃないのはわかっているんだけど…。」
俺も立ち上がり、彼女と向き合う。
「アクター画がダメだったかな?」
斜め下を向きながら、何かを言いたそうにしている。
「仕事のことじゃなくて…。」
「よかった。ところでさ、昔みたいに千穂ちゃんって呼んでもいいかな?」
「え? うん…。別に、いいけど…。」
わかりますよ、恥ずかしいっすよね。俺もザキちゃんや千穂ちゃんに、葵君って呼ばれると恥ずかしいですからね!
てか、いつまで黙ってるんだ?
「あのさ、千穂ちゃん。盛者必衰の理 って、覚えているかな?」
「え? うん。なんとなくだけど、平家物語でしょ?」
「俺の父さんはそれだよ。千穂ちゃんは気にしないでいいんだよ。」
「簡単に言わないでよ…。無理だよ…。」
「無理じゃないよ。」
「無理なんだってば!」
こりゃ重症だな…。
「言いづらいんだけど、いいかな?」
「なに?」
「関係ない話なんだけど、妹が言っていたんだ。私の
「はぁ!? オバさん!?」
「あはは。張り合っちゃダメだよ。向こうは17歳なんだから。」
「別に…張り合ってないし…。」
少し落ち着いたかな?
「前に娘って言ったけど、本当は妹なんだ。」
「ふぅん。そうなんだ…。」
「だいぶ歳が離れているからさ。なんか言いづらくて。で、その妹はさ、親に捨てられて…。えっと、子供を捨てるとか、意味がわからないだろうけど。とにかく今のあの子には俺しかいないんだ。自分のCasque…ヘルメットを被った人に、俺を取られちゃうんじゃないかって思ったみたい。」
「…別に…。取らないし…。」
外方を向きながら返事をするが、表情は堅い。
「かまわないよ。」
「何が、かまわないの?」
「なんだろ。」
「もう、葵君って意地が悪くなった…。」
「千穂ちゃんなんて、バイクで送った時、俺のことが、わからなかったんでしょ? 綾乃ちゃんから聞いたよ。しかもイケメンって言っていたって。」
「ちょっ!? てか! 私の知っている葵君は、背だって私と同じくらいだったし、もっと膨よかだったでしょ!」
千穂ちゃんの今の顔、たじろぎと言う表現がしっくりくる。
たじろぎ顔のお手本として図鑑に掲載されそうだ。
「あぁ。確かに太っていたね。でも嬉しいなぁ〜。イケメンなんて、言われた事ないからなぁ〜。」
「嘘だ。」
「嘘じゃないよ。」
「葵君は私の会社でもモテモテだよ? それに私はH.N.Fデザインの社長が葵君だって知らなかったけど。」
「今は知っているでしょ?」
「知っているけど…。」
「俺の事をどう思う?」
「はぁ。これだから、イケメンは嫌だね…。自分がカッコいいことを自慢して。」
「イケメンだって思ってくれているんだ?」
「それなりなんじゃない?」
「ありがと。それじゃさ、まずは友人から始めようよ。」
そう言って、俺は立ち上がり、千穂ちゃんに左手を出す。
「友人になったら、その後はどうするの?」
「そうだな…。それは一緒に考えるなんてどうかな?」
俺がそう言うと、千穂ちゃんも立ち上がり、俺と握手をしてくれた。
What ever. konnybee! @wabisketsubaki
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