おふとん

灰崎千尋

おふとん

「……さむい」

「お。起きた?」

「起きた。え、昨日めっちゃあったかかったの何だったの」

「何だったんだろうなぁ、花粉すごかったよなぁ」

「何これさむい。今日はもうおふとんから出ない」

「それは無理なんじゃないかな」

「なんか予定あったっけ」

「ないよ。でもトイレとかさ」

「んー……代わりに行ってきて」

「無茶いうなよ」

「やだもん。可能な限りここから動かないもんね」

「トイレは不可能なんだよなぁ」

「えい」

「え、何、どうしたの」

「えいえい」

「待って、なんで俺は頭突きされてるの」

「この世のままならないことへの怒り」

「りふじんー」

「嘘、愛情表現だよ」

「それが嘘だろ」

「バレたか」

「バレるよ」

「あーおふとんはあったかいなぁ。ぬくぬくだなぁ」

「逃げたな」

「あーでもトイレ行きたくなってきた」

「早速か」

「人間としての尊厳……おふとん……どちらを選ぶべきか」

「間違いなく前者だから、諦めて行っといで」

「うー……」



「はああああさむっ!!!!!」

「なんかすごいキレてる」

「トイレさむすぎでしょ便座だけはあったかいけど」

「文明の利器だなぁ」

「おふとん、僕の味方は君だけだよ」

「手洗ったんだろうな」

「……自らの体で確かめてみるがいい!」

「ひぇっ!おわ、つめたっ!」

「ハッハッハッ!洗いたての手は冷たかろう!」

「やめ、やめろ、ひあああやめてください」

「お前の腹を冷やしてやろうか!」

「もう冷えてるめっちゃ冷えてるから」

「チッ……もう大してあったかくないか」

「ひとの腹の熱を奪っておいてひどい言い草」

「まぁ暴れたおかげで少しあったまったかな」

「じゃあおふとんからは」

「出ない」

「だめかー」

「出る必要ないもんね」

「さっきトイレで必要性ができたんだよなぁ」

「暴れたらお腹減ってることに気付いちゃったな」

「気付いちゃったか。流石にここでは食うなよ」

「ええー」

「ええー、じゃない。駄目にきまってるだろ」

「ほら、なんかあるじゃん。お金持ちがベッドで朝ごはん食べるセット」

「そのセットはうちにはないし、金持ちでもない」

「なろうよ、金持ち!」

「なってもそのセットは買わないぞ」

「ええー」

「ええー、じゃない。ていうか俺も腹減ってきたな。何かあったっけ」

「なければ頼めばいいじゃない」

「俺のスマホでUber EATSを開くな。あれだいぶ割高じゃん」

「でもおふとんから出ないでいられる」

「いやだからテーブルまでは出てこいよ。あ、袋の焼きそばがある」

「ほう。卵は?」

「んーと……奇跡的に二つあるな」

「じゃあこっちはぬくぬくしているのでよろしく」

「そうなると思った」

「君が作った方が美味しいからそう言っているのだよ」

「どうだかなぁ」



「できたぞー」

「おお、さすが! 目玉焼きは両面焼きだよね、わかってるぅ!」

「前ふつうに片面焼いただけの目玉焼きにものすごくしょんぼりされたからな」

「ふふふ、目玉焼きの白身はこんがり香ばしくないと!」

「それはそうと毛布はベッドに置いてきなさい。」

「……なんでそんなひどいこと言うの? おふとんは置いてきたよ。でも自分の体温を移したこの毛布だけは、これだけはさぁ!」

「………………絶対に汚すなよ」

「うん! いただきまーす」

「切り替えが早いんだよなぁ」




「食べ終わったらまた、ここですか」

「当然でしょ」

「暖房いれる?」

「やだ、おふとんがいい」

「どうしてそこまで」

「今日は二人でごろごろぬくぬくあまあまするって、決めたの」

「……まぁ、たまにはいいか」

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