第25話 [Kindness,Joy,Love,and Happiness...]

第25話   [Kindness,Joy,Love,and Happiness...]

2001/12






秋。

スポーツの秋。

読書の秋。

食欲の秋。

勉学(??)の秋。



それぞれに、それぞれの。


「秋」がことしも過ぎて行く....



さりげなく、さわやかに。

清明な風、すがすがしく...




秋、深し。




例年、どこの学校でもこの時期には運動会がある。

(最近じゃ、運動会なんて言いませんね^^;)



体育系のひとには嬉しい、活躍が出来る季節。

...そうでないひとには、それなりの季節^^;





もちろん、彼女とて例外ではなく...



mille@system: date

mille@system: Oct 13th 20xx..




午後の教室、窓辺にて。

さわやかな秋空とはうらはら、に。



ちょっと、ユウウツ。




「...はぅう... ^^;...。」






教壇では、中年の教師が、力強い低い声で、なにごとかを告げている。






「それでは、明日の日曜、予定通り体育祭を行う。各自、用意はいいか?

精一杯頑張ろう。

目標、クラス優勝!だ。」






短髪に体操着の上下、と。早くも走り出しそうな気配。

どうやら、運動部の顧問でもあるらしい。

これから、放課後の練習に行く、のだろうか...







♪きーんこーん .. かーんこーん♪






軽やかに終鈴が鳴る。



途端に、ざわめくクラスルーム。



教師、力のこもった足取りで出て行く。



どす、どす、どす....。









「.........。」



milleは、ちょっと元気ない...。




鞄を持って、立ち上がろうとした。

(今日は、お掃除当番じゃないらしい。^^;)




歩み寄るのは...級友。

ショートカットが、溌剌とした瞳によく似合う彼女は..






「ミレちゃん、きょうは...?

どうしたの?元気ないみたい...。」



いつものように元気よく。










「あ、あおいちゃん..^^;。」


milleは、にこやかに。でも、あんまり..。




「どこか、具合いでも悪いの?。」

と、葵は、milleの顔をのぞきこむ。





「ううん、そうじゃないんですけど..こんど、体育祭でしょ...。」


と、milleは、鞄を机の横に掛け直して、窓辺に手を掛けて。






「...?...そうね。(^^)」

と、葵は清々しく微笑み、そして..



「milleちゃん、体育祭楽しみじゃないの?。」と。


尋ね顔。





「..そうじゃないんですけどぉ...。」


と、mille。







葵は、milleを元気つけよう。と。


「せっかくの体育祭なんだから、がんばろうよ。これで最後なんだし。

一生懸命やれば、気持いいわよ、きっと。」



と、スポーティーな髪、揺らせて、にっこり。(^^)





その、笑顔につられて、mille も。(^^)





「よし!。」(^^)と葵。



「はい、」とmille。(^^)。




「そういう顔、いつものmilleちゃん。」と、葵は笑い...




「じゃ、私、練習に行くね。」と。

楽しそうに駆けて行く。






「あ、練習、がんばってくださいねー。」(^^)。



と、milleは、いつのまにか葵に気分転換させられてしまった事も忘れて...





「...なにが、きになってたのでしたっけ...?。」^^;





と、memoryをたどりながら、家路に...






きょうも、秋晴れ。

深い青空、澄みきって。





いつものように、学校の前の坂を下り、

そして、家路に。



もう、すっかりと夕暮れの様子。

秋の日はつるべ落とし、とかな。




西に傾いた太陽が斜めの光を柔らかく、橙に。

ちょっと涼しい風を感じて、milleは「秋」という季節を想った。



... また、ことし、も..



遠く、地平に消えようとしている光。

彼女のまるい瞳もオレンジに染めて。


振り返り、milleは遠い夕陽の方を。




..あの、時も...



想い出す。



...はじめて、あった、ひも...

...ゆうひが、きれいでした..





学校にはじめて行った日。

その日も、こんな夕暮れだった。

ちょっと、具合悪くなって。

通りかかった、「彼」に助けられて。

それが、最初の、出来事だった。




もう、思い出。

つい、昨日の様に思えても。

さりげない日々は駆け足で過ぎて。

ふと、気がつくと。

もう、想い出に、なっている...




夕陽は、やがて地平に沈み、

丘の上のこの場所からは、遠く、街並みの灯が瞬いて。


藍いろの宵が。




「.....。」




たそがれの美しさ、橙から藍へと色合いの変化に、milleはちょっと。





...きれい、ですぅ...(^^)




と、ちょぴりさみしいような、あたたかいような

不思議な気持を感じていた...




「やあ、おかえり、mille。」



と、優しく声を掛けたのは、長瀬。




milleは、夕映えの景色から振り返り..



「ただいま、かえりました。」

と、しっかりと「礼」をした。





その様子に、長瀬は微笑みながら、愛しげに。


「おお、なんだか別人のように大人っぽい、ご挨拶だねぇ。mille。」



その投げ掛けに、milleはちょっとはずかしそうに。



「 ^^;..うふ。..わたし、おとなっぽくできましたか?..。」


にっこり。



「あ、きょうはもう、研究はおしまいなのですか?。」と、milleはたずねる。






「いや、ちょっと一休みだ。すこし、予定が詰まっていてね。」

と、いつものように無造作に、長瀬は答えた。





「...そう、ですか..。」


ちょと、milleの語調が沈む。





「...?...どうかしたのか?。」と長瀬は、微妙な変化に気付き。







「あ、^^;いいえ、なんでもないんですぅ。ゆうごはんは...。」

と、mille はちょっとあわてて。






「ああ、ちょっと時間がないので、さっき研究所で軽く済ませた。

今日は遅くなりそうだから、しっかり戸締まりして先におやすみ、mille。」



優しくそう言い、長瀬は、もと来た研究所の実験棟の方へとゆっくりと歩いていった。




「......。」




....おいそがしい、のですね....



milleは、長瀬の背中を見送ると、ゆっくりと居住区の方へと歩いた。



中庭の照明が点き、冷ややかな光を放っている....









翌日。


日曜だ、というのにふつうの日のように起きたmilleは、いつものように制服に着替え

リヴィングの方へ。


ひっそり、閑、と静まりかえっている。



日曜なので他の居住区の住人も、まだ寝ているのだろう。



「......?」


長瀬の寝室の方も、静か。

どうやら、昨夜は研究所で徹夜、らしい。




「..........。」




milleは、キッチンに向い、長瀬のために軽食の支度をし、手紙を書いた。





お仕事、お疲れ様です。

わたしは、今日、学校で体育祭がありますので、登校します。

軽いお食事の支度ができていますので、暖め直してお召し上がりください。


-----mille。




... いって、きます。




ひとりのダイニング、の空間の広さを感じながら、milleは玄関へ。

靴に履替え、ドアを開く。



「.....。」


外は秋晴れ。

ひかりまぶしく、すきとおった空気が見わたせるかのよう。



「いい、おてんきです... (^^)。」




今日、はじめて笑顔を見せたmilleは、中庭を通って研究所の外へと。


まだ早い日曜の朝は、街もどこかひっそりと眠たげに静か。



いつもとは違い、今日はゆっくりと歩いて坂を下っていった....









研究所の三階。

実験棟の窓辺、レスト・ルームで長瀬はちょっとひと息。

珈琲などを嗜みながら。



盟友、来栖川と共に。



「.....。」「....。」



疲労の色濃く、ふたりとも無言で秋晴れの空をぼんやりと眺めていた..が。



来栖川が長瀬の側に来、小声で。




「...あれ、milleじゃないか..?。」

窓の外を指差す。



長瀬は、瞑っていた目を開き、指差した方向を見る...




「...ああ、もうそんな時間か....。 」



研究に没頭し、いつもこんな調子だ。

この実験もそろそろ切り上げなくては..と、レスト・ルームの簡素な壁のカレンダーを見る..



「もう15日か..あと半月だな、10月も..。」

と、独り言のように呟く....と、




「ん?今日は14日だぞ、長瀬」と、来栖川。






「14日?...いや、今学校に...。」と長瀬。






「ああ、運動会じゃないか?去年、上の娘の運動会に招待されてな。

いやぁ、難儀したよ。父兄参加の徒競走に出されて。ははは^^;。」

と、来栖川、ちょっと楽しげに話す。






「そうか....。」

長瀬は再び目を瞑る。



..運動会でひとり、ってのは淋しいもんだよな。

昼飯なんかの時....



長瀬は回想した。

彼の両親もやはり彼のように多忙だった。

昼飯の時、校庭のそこかしこに拡がる家族連れ、の、楽しげな姿を

彼は羨ましく思ったり。

...仕事が、そんなに大事かな...

と、ひとり、ひと気の無い屋上とか...で飯食ったりしたな..。


mille ...淋しくさせて...済まない。





「行ってやれよ。」




彼の聴覚に、盟友の声。




「いや、そういう訳には...まだ、仕事が。」と、長瀬。

その言葉が嬉しくもあり、しかし...





「いいんだよ、一日くらい俺だけでも何とかなるさ。

行ってこいよ、こんな時くらい。」

と、来栖川は彼の右肩を軽く叩く。




「そうか、有難う。じゃあ、こうしちゃいられない。

昼までにひと区切りつけなくちゃ。」


と、長瀬は残っていた珈琲を飲み干し、足早に実験室に戻った。

その背中を微笑みながら、来栖川..



......親バカ...と、言っていいのかな?奴の場合...。



と、楽しげに笑った。






長瀬は、実行途中の実験をとりあえずそのままにして戻ろう、と思ったが

それでも、中断が可能な状態になるまでは

それから優に一時間くらいはかかった。


どうにか、段取りをして、自分の部屋に.....

駆け足で。



部屋に戻る。


オートリターンのドアが閉じ、

タイムラグの後、自動錠がガチャリ、と

重みのある金属音。


施錠を確認するアクチュエーターの音が小さく。

それでも無人の部屋には十分な音量。

灯りのない、部屋に響くその音はいささか寒い。




.....mille...



長瀬は、愛娘の気持ちを推し測った。

この部屋で一人で眠り、一人で身仕度をして。

...まだ、あどけないあの娘には、いささか..


..と、いつもの彼らしくもなく、情緒的なのも

やはり、秋、という季節のせい、だったかもしれない。



渇きを覚え、キッチンに向かう。



彼は、テーブルの上の支度、milleの手紙を見る。



愛らしい文字に托された、彼女の思いやりに、長瀬はしばし感じ入ってい....た。



...すまなかった。


長瀬は、自らの研究者としての業、とでもいうべき

没頭癖をやや、自省し...


...また...同じ事を....



彼は、イメージ・フィールドに過去を回想した。

ふたりの女性のこと、を。

ひとりは、彼の母。

研究へ没頭していた彼の行く末を案じ、心配しながら

来世へと旅立った。

今も、その事が心のこりな彼は、で、あるからこそ

"mille"に我が心を托した、とも言える。

しかし、その彼女にもまた、彼は自身の没頭癖で寂しい思いをさせている。

そう思った。だから....


...今を大切にしなくては。この、過ぎて行く時刻を。






さて、学校の方では....

体育祭が賑々しく、進行。

少なくとも、去年と似たような感じで。



さわやかな秋風。


スタート・ピストルのはじける音。

すこし、騒々しい音楽。

進行係のアナウンス、歪んだ音。

打ち上げ花火の炸裂音。


どこにでもある秋の風景..。




milleは、他の生徒と同じような体操着姿で。

クラスのみんなと一緒に、応援したり。

たまには出場したりして、一生懸命に。

...でも、結果は....?^^; ..だったり。


そんな風に、体育祭の雰囲気を楽しんでいた。



秋の陽ざしも高く。

ちょっと、暑いくらい。




♪〜きーんこーん、か〜んこーん...♪



「:::それでは、お昼になりましたので...」

ノイズ混じりのアナウンスが、お昼休みだ、と伝える。




天気も良く、日曜日。

グラウンド、中庭のベンチ、芝生..

そこかしこに、生徒たちがめいめいに。

家族と一緒に、ピクニックのように。

楽しいお昼ご飯。



milleは、ひとり。

「楽しそうです、ね..^^;。」


いや、もともと彼女は..食べる必要はないから..。

でも、大勢の中でひとり、何もしていないのもヘンだし。

それに..

ちょっとだけ、ほんの、ちょっとだけ寂寥を覚えて。



にぎやかな校庭から、玄関に戻り、下駄箱で上履きに履替える。

ひと気のない校舎の中は、ひんやりと静か。


廊下を歩くと、 ぺた、ぺた..と自分の靴音だけが反響する。




...ゆうがたみたいです、ね..



..いつでしたか、ゆうがたの教室で...





浩之が、ちょっとイタズラ心を出して、「隠れんぼ」した事を思い出して..





.. あのとき、は...





どうして泣いたりしたんでしょう。

mille 自身にも、ちょっと、わからなかった。

夕暮れの校舎が、淋しかったから?

どこかにいってしまった、と思った浩之が、心配だったから?

どうしていいかわからなかった、から?


..いま、でも..よく、わからないです..





階段を昇り、あの時の教室のある階を過ぎると、milleはそんな風に思う。




... ひろゆきさん..

このところ、ちょっとあえませんね..お元気ですか?


モノ・ローグ。

言葉が宙に舞ってゆく。






階段を昇り切り、いつかのように屋上へ。

暗い、踊り場から鉄の扉を開く。


はずみをつけて。「よいしょ」って。




屋上も、人の気配はなく。



爽やかな秋風が、碧の髪をそよがせる...







milleは、ぺた、ぺた、と歩き、階段の裏のベンチのあたりへ。

みどり色のフェンスが高く、でも、それよりも高く秋の空が蒼く。

白い雲は、絵筆をキャンバスに滑らせたように美しいカーヴ...



「.....(^^)...。」



にっこり。






ばたんッ!☆。


階段の鉄扉が閉じる音。



だれかが、昇ってきたようだ。





「 ........??...」


.....どなた、でしょう.....



足音はこっちへ。



ずっぱた、ずっぱた...


かかとを踏んだスニーカーの、あの足音は...






「お、mille。ここにいたのか。」




「.....ひろゆきさん...!?...(^^)...。」





「おお、驚いたか、ははは、今日はさ、久しぶりに学校へ来て見たんだよ...

お、mille、かわいいじゃん、体操着^^; 。」



と、浩之は相変わらず、視点が....^^;;;;





「...^^; きょうしゅく、ですぅ...。」と、milleは、ちょっと恥ずかしげ。

体操着の裾を指でつまんで、下へ。



浩之は、愛しげに微笑み、 milleの髪を撫で...


「さ、いこうぜ、下にみんな来てるぜ。」





「みんな ...?。」





「みんな、だよ、あかりや志保や、雅史...去年いっしよだった連中。

 あ、そうそう、おまえのお父さんも来てるぜ。カメラ持って。」



「(^^) ...あ、でも、写真はちょっと、はずかしいですぅ.....。」




「なんか、張り切ってるぜお父さん。......。」





「あうぅ〜....^^;....。」





「じゃ、いくぞ。」

「はい!。」




ぺた、ぺた...

ずっぱた、ずっぱた....



歩きながらにこやかに話し、二人の姿は階段へと消えた....



賑々しい、運動会の音楽が再び鳴り出す。


「::::::....ただいまより、午後のプログラムを開始いたします......」

ノイジィなアナウンスが、ふたたび。





花火が、ばーん☆、と、はじける。



校庭の並木でひとやすみしていた鳥たちが、驚いて飛びたち、高く囀る。


その声も、青空に、遙か....





秋、深し。


風、さわやか.....






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

milleの恋 深町珠 @shoofukamachi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ