第8話
魔王に召喚されました。勇者です!9
「これはこれは、精霊ではありませんか。それも珍しい、光属性とは…」
「光属性が珍しい…?」
ヒイロの言葉に首を傾げたアルノ。
「あら?良く分かったわね、私が光の精霊と。」
「いえ、それほどの魔力をお持ちなら誰でもわかるでしょう?」
どうやら、誰でも分かるほどの魔力を持ってるらしいがアルノは全くわかっていなかった。
何故か2人で会話を続けるヒイロと精霊にアルノはただ傍観する事にしたのだ。
「えぇ、そうかもしれないけれど、貴方の主様とやらは、気づいてなかったらしいわよ?」
そう、指摘されて困惑するヒイロ。
まさか、主様が気づいてなかったなんてと馬鹿にされるのかと思ったアルノだが、予想とは違った。
「仕方ありませんよ、自分より大きな魔力ならすぐ気が付きますが、あまりに小さすぎれば、気付いたとしても反応しないでしょう。」
「つまり、私の魔力がそこの坊やより劣っていると言うの?」
そこの坊やとはつまり、アルノの事を指しているのだろうが、アルノは気にせず話を聞く。
「実際に今、貴方は主様の魔力を測り切れてないじゃありませんか。」
「うっ…そうわね。」
どうやら、ヒイロが目の前の精霊を言い負かしたらしい。
というか、そんな事する必要あったのかと思う。別に敵対してる訳でもあるまいし…
そう思っていたが、アルノはヒイロとシンとの事でストレスが溜まりに溜まっていた。
「坊やも何か言ったらどうかしら、さっきから黙りね?」
「こんなくだらない話をする必要が無いと思ったから会話に加わらなかっただけだけど、それに何か文句でもある?」
「歳の割に口は達者のようね」
「俺の歳なんて関係無いだろ?それとも自分の方が歳上なのに、正論言われて何も返せないのがそんなに悔しい?歳上なら歳上らしくそういう態度を取ってくれない?俺が年下だからって舐めてると、足元すくわれるかもね?」
「なっ…!?」
「それで?俺達に姿を現したのは何か用があったからじゃないの?用件をさっさと言ってくれない?」
「あ、貴方達…、そんなに私を、怒らせたいのかしら?」
「は?いい加減にしてくれないかな、こっちも色々あんだよ!用件さっさと言って消えろよ!精霊如きがっ!!」
アルノのイライラはピークに達していた。
これからの事も考えなきゃいけないのに、何でこうもトラブルばっか!!
「主様、落ち着いてください、」
ヒイロが今にも精霊を殺さんとするアルノを引き止める。では無いと、このまま用件も聞かずに殺してしまいそうだ。
「あははははははっ!!面白い坊やね?人間如きがこの私を、いえ、精霊を殺すですって?笑えるわ。そんな事、出来るはずないじゃないの!人間は同じ光属性なのよ?それとも貴方は人間なのに、闇属性を使えるって言うの?もし使えたとしても、それってつまり魔族と融合された化け物、キメラじゃない!」
さっきまで止めようとしていたヒイロの手が緩まり、アルノは後ろを振り返った。
そこには、さっきのアルノとは比べ物にならないくらい怒りに満ちたヒイロの姿が…
「…貴方は愚かですね?此処に闇属性の配下がいるじゃありませんか?何を勘違いなされてるんです?主様自ら手を下すまでもないと言われているにも気づかないなんて、貴方の頭はお飾りなんですね。それでは、ご要望通り、消しあげましょう!」
ヒイロの言葉にそんなつもりはなかったのだけどと、呟くアルノ。その言葉は、確かに精霊の耳まで届いたけれど、それを気にしている余裕などない。
今まさに迫ってくる恐怖にどうしようかと頭を巡らしいているのだから。
「ヒイロ、さがれ」
「主様?しかし…」
「いいから!」
「はい!」
そう言ったヒイロは、まだ精霊を睨んでいる。
「えっと、ちょっと色々あってストレス溜まってたんだよ、それで丁度いいタイミングであんたが来たから、あんたで発散させようと思ってね?最初からあんたを殺すつもりは無かったよ。」
そうだったんですか!と後ろから声がするが多分幻聴だ。うん!
「別に…かま、いません、よ。」
瞳に沢山の涙を浮かべる精霊はプライドの為か見栄を張っている。それが可愛く見えたアルノは無意識か表情を緩ませた。
「それで、用件はなんだったの?」
今までとは違った優しい声色に精霊は、安堵したのか涙を止めて此方を真剣に見つめる。
「貴方達、ここでは見掛けないから、旅の人かしら?」
「旅の人、では無いけど…うーん、まぁ、それでもいいよ。」
国に追われてるとか言えないし、旅の人でいいかと考えたアルノ。
「この、リーナ・スペルスが貴方達の専属の精霊になってあげるわ!」
「「…は?」」
「専属って、それって、つまり、えーと、テイムだよな?」
「そうよ!光栄に思いなさい!私はなんたって、この世界で名の知れてる七精霊の1人なのだから!」
精霊とは、名前を知ればテイム出来る。
しかし、テイムするには条件がいる。それは、自分より魔力が弱い精霊しか出来ない。
その中で、名の知れている七精霊とは、この世界で誰もその精霊の魔力を超えられる人間が存在しない精霊である。
だから、自分達の名前を晒してもなんの問題も無いのだ。
テイムが出来るのは、人間と魔王だけである。
魔族や他の者達は、テイムされる側であって、する側にはなれないのがこの世界の創りなのだ。
「七精霊って、有名なの?」
アルノは魔王以外興味がなかった為、他のことはさっぱりだ。
「有名よ?坊やは精霊のテイムの方法とか知らないの?」
「え、知っててなにかいい事あるの?」
アルノにとって素朴な疑問だった。
「あるわよ!精霊がテイム出来るじゃない?」
いや、聞きたいのはそういう事じゃなくてさ!
「……精霊をテイムして、何かいい事があるの?」
「いい事がなかったら、私の事はテイムしてくれないのかしら?」
「するよ?テイム。」
当たり前じゃん!と言ったふうにニコッと笑ってみせるアルノ。
「じゃあ、なんで…?」
「だって、いい事があるなら、知っておきたいとは思わない?」
楽しそうにそう言うアルノの姿は年相応で、可愛かった。
「そうね、でも、教えられないわ」
「なんでさ!」
「知ってしまったら、いい事が無くなってしまうじゃない。」
その言葉に、アルノは目をパチパチと瞬かせて笑った。
「そうだね!」
*****
こうして、アルノは光の精霊、リーナ・スペルスをテイムして、仲間にしたのだけれど、
「これからどうしよっか、」
「そうですね、」
アルノの言葉に頷くヒイロ。
それを見て、不思議そうにするリーナ。
「?旅に出たらいいじゃない、どうして迷っているの?」
「えーと、リーナ。ヒイロの他にもう1人悪魔が居るんだよ、そいつが来るまでどうしようかという意味で、」
「…え?坊やは、デーモンロード2体も配下にしてるの!?」
「いや、もう1人は唯の悪魔だよ!?」
「あ、そうなの。」
何故かガッカリと言った感じなリーナ。
なんでだよ!?
「もうそろそろ、来るんじゃないですか?」
「え、早過ぎない?」
「いえ、アレはシンだと思いますが…」
そう言ってヒイロが指さす方向には、確かに悪魔がいた。
え、ちょ、ほんと早いって!!
「我が君〜っ!!!」
そう叫んだシンの後ろには、アルノの予想とは通り沢山の馬に乗った兵がいた。
「ちょっと、坊や。アレは何かしら?」
そう聞いてくるリーナはほっといて走り出すアルノとヒイロ。
「あっ、逃げるなんて卑怯よぉっ!?」
気付いたリーナが叫ぶ。
そんな事知ったことか!
捕まるわけに行くかないんだよ!
もう考えてる暇なんてない!
後ろまで迫ってんだから!
「リーナ、ちょっとの間俺の中にいろ!」
「え、ちょっと、急に!!?」
そう言ってリーナを掴むと服の中に入れる。
「ヒイロ!転移!!」
そう言って俺は走るヒイロに抱きつく。
「分かりました!」
そのまま、シンの方に向いて、手を伸ばす。
「シン!来いっ!!」
「はいっ!!」
シンの手が俺の手に触れた瞬間視界は真っ白に。
「はぁ、はぁ、はぁ〜……」
息を整えて、当たりを見渡そうとした時、
「ちょっと!坊や!?」
服の中から飛び出してきたリーナ。
「あ、えと、ごめん。」
一様謝ったアルノ。
しかし何故か固まったままのリーナ。
リーナの目線の先、それはアルノの後ろ。
アルノは、振り返った。
「…なんだ、何故此処に精霊がいる?」
「…………ドラゴン?!」
アルノの声が洞窟の中で響き渡る。
「なんだ、人の子もいるではないか!」
何故か嬉嬉として此方を伺ってくる竜。
混乱した頭が徐々に冷静になっていき、アルノは今度こそきちんと当たりを見渡す。
ヒイロとシンが洞窟の端の方で喧嘩しているのが目に入った。
いや、入らなかったことにしよう。
うん、僕は何も見てない☆
それから、目の前の大きな竜に目線を向ける。
「…なんだ、無視か?話してくれないのか?」
何故かいじけ出した竜。意味がわからん。
「あ、えーと、」
というか、待て待て!何喋ればいんだよ!?
というか、喋りかけで止まったから、なんか喋らきゃいけなくなったじゃねぇか!!
「コンニチハ?」
すごい片言で挨拶した。だって!!
話すことねぇーもん!!
「お、おぅ?!人の子よ!我が名はリザンベル。此処を住処にする竜だ!」
この場合俺も名乗るべき、だよな?
というか、俺の片言な挨拶にあっちも困ってんじゃねぇか!俺のバカ!!
「俺は、アルノ・アーザーベルト。」
「そうか!アルノか!お前は良い奴だな!」
ンん?
「人の子はいつも、我を見ると逃げてしまうんだが、お前はこうやって一緒に話してくれる!」
すっごく嬉しそうなんだけど、どうしよ。
俺、出てっていいかな?
最初の出だしからクソやらかしたし、恥ずか死ぬわ。
「あのさ、俺はもう行くよ。」
「…もう、行ってしまうのか?」
しゅんとした、捨てられた子犬のような顔をされた。デジャブだ。いや、気の所為だ。
ただ、1つ気づいたことがある。俺はこの顔に弱いらしい。
クソがァァああああ!!!
「いや、その、用があってだな…」
言い訳をするが、内心気が気じゃない。
「その用は、我を1人にしてでもやらなければならない事なのか?」
なんだその殺し文句は!!
俺を殺す気か!
竜の癖になんだそのヘタレな内面。
その見た目で、うそだろ。
「わかった!ちょっとの間だけなら、いてやる!」
妥協した結果、こうなる。
「ふん!ならば、我と話すことを許してやろう!我は住処から出た事が無いのだ!だから、外の話を聞かせよ!」
「待って、なんで外出たことないんだお前?」
「お前ではない!リザンベルだ!我には姉がいてな、その姉に外に出るのを止められてるのだ。一度外に出た時に外の村を滅ぼしてしまってな、それから外に出してもらったことがないのだ…」
少しやんちゃをしてしまっただけだと言うのにな…
いや、それ少しどころじゃないと思うが?
そう思ったが口は出さなかった。
「別に、姉の言い付け今も守る必要無くないか?もういっそ、今からでも外に出ればいいだろ?」
「おぉ!その手があったか!アルノは頭がいいのだな!よし!では、アルノも一緒に来るが良い!」
「………え?」
「なんだ?早く背に乗らんか!」
「いや、なんで俺も一緒なんだ?」
「なんだ…、アルノは一緒に言ってくれないのか?」
そ、そんなうるうるした瞳で俺を見てくるな!!あぁー、もう!!
「わかった!乗るから待て!」
ヒイロとシンは、まぁ、置いていこう!
リーナはいつの間にか俺の服の中だし。
「よいしょっ!」
リザンベルの背に乗る。
よし!
「いいぞ!リザンベル!」
「それでは、行くぞアルノ!」
「あぁ!」
俺はリザンベルの背にへばりついた。
ぶわっと風邪が巻き起こり、風邪が思い切り体に当たる。アルノはリザンベルに張り付くのに精一杯で下は見てない。
というか、下見たら無理。
「おぉ!久しぶりの外だ!」
嬉しそうなリザンベルの声が聞こえる。
そりゃよかったな。俺は早くおりたいよ!
そう思った俺の心が伝わったのか、リザンベルが下に降りていく。
「お?我が滅ぼしたと思っていたんだが、どうやらまだあるようだぞ?」
そう言って下に降りていく、リザンベル。
ん?
「待て待て待て!降りるなリザンベル!」
リザンベルの何度も叩いて止めるアルノ。
「なんだ、何故止めるアルノよ!」
「村の人がいるんだろ?」
「あぁ、だから降りようとしておるんだ!」
「お前な!村を滅ぼしかけた竜が急に村に来たら、どうなると思う?!」
「どうなるって、どうなるんだ?」
アルノはリザンベルの返答にため息を吐いた。
わかんないのか!
「その竜を殺そうとするに決まってるだろ?また村を滅ぼしに来たんじゃないかと!」
「ん?それで、それがどうした?」
「どうしたじゃない!お前は今言ったことと、同じ状況になってんの!!見てみろ!下にお前を殺そうと狙ってる奴らがいっぱい居るだろうが!」
「ふむ。確かにそうだな。だが、我は人間にやられるほどやわではない!」
そう返してきたリザンベルに俺は思わず怒気を放った。
「じゃあ、何か?リザンベル。お前は、あの村をまた滅ぼしたいのか?」
俺の怒気にか言葉にか、はたまたどちらもにか反応したリザンベルはピタリと止まった。
「いや、悪かった、アルノ。そういう訳では無いのだ。」
反省したらしいリザンベルは少ししゅんとなっている。
「だったら、下に降りるな。いいな?」
「あぁ、わかったのだ。」
意外と素直なリザンベルに気を良くしたアルノ。
「分かったのなら、いんだよ!」
そう言って、背中をさすった。
そして、遠くから見聞こえてくる声を無視した。
「「主様/我が君!!!」」
うん。何も聞こえないよ☆
「アルノ!あれは、アルノを呼んでるのではないか?」
「いやだなぁ、そんなわけないじゃないか!あんな奴ら僕知らないよ☆」
「そうか!なら、放っておいても問題無いな!」
「うん☆」
服の中から、坊やは腹黒なのねと、聞こえてきたがこれも幻聴だ!
ボクが腹黒なわけ、ないもんね?ね?
魔王に召喚されました!勇者です @akasaki3710
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