第二十四揺 記憶の中の
「あのさ……なんで、こんなにあーしのこと助けてくれるの?」
大きな背の上で揺らされながら、穂乃美は純粋に疑問に思った事を口に出す。その声音は何かを恐れるようであって、しかし何かを求めているようでもあった。
「なんで?とはどういうことだ!味方、ましてや
「……ばかやろ」
「む?」
罵倒された理由が分からず、小首を傾げる鳩助。
山門鳩助。
幼少期から己の身を厳しい修行の下に置くことを良しとし、日本の神道の中でも特に修行が厳しいとされる修験道に従事してきた男だ。
登山修行により身体を鍛え、滝行により精神を研ぎ澄まし、身に余る欲求の悉くを捨てた。現代人には珍しい、清貧な人間というやつだった。
だが、彼の精神は研ぎ澄まされていようと、その恋愛観はあくまで幼児そのものだ。いや、恋愛感情を持たないという点では、幼児にも劣るのかもしれない。
清貧であるが故に、彼は人の心というものに疎い。
―――穂乃美の心の機微とて、それは例外ではなく。
「どうした!某に何か至らない点があったか?!」
「…うっさい。話しかけんな」
「ふははっ!理不尽!」
豪快に笑っている鳩助に溜息をついて、穂乃美は天を仰ぐ。
現在、穂乃美は鳩助に担がれている状態だ。太腿に土槍の罠をくらってしまい動けなくなった穂乃美を、鳩助が運んでいるのである。ちなみにメンバーの三人とは分断されてしまい、この場には穂乃美と鳩助しかいない。
「…あーしの
「あぁ!
穂乃美が『クレイドル』に迷い込む事になったのが2時間前のこと。
少なくとも、新しい人員が加わることによって戦力の増強を期待していた既存メンバー達には、
しかし彼らとて、穂乃美が庇護欲をそそられるような大和撫子系美少女であれば、喜んでフォローしたことだろう。そもそも論、彼らも鬼ではないのだ。
されど、穂乃美だ。
それこそが、穂乃美の
「それが……目の前にいるし……」
そう。
穂乃美が
「む!なんか言ったか?!」
「……ハト」
「うむ、なんだ!」
「……生意気な女のくせに、って思わなかったの?」
「―――」
知りたかった。
なぜ、彼が穂乃美のことをフォローしてくれたのか。
博愛か、情けか、偽善か。それとも。
「…その能力。狂気の振れ幅を抑えるものだろう?」
「え、あー……多分、そう?」
「ならば、だ」
穂乃美の方を振り返ることなく、鳩助は彼の推察を伝える。
「
「……!」
「逆に言えば、君の能力があったからあの程度で済んだのだ。その能力がなければ、場はもっと混乱しただろう。なんせ、こんな恐ろしい状況だからな!皆の中にも知らず知らずの内に鬱憤というのは溜まっている。そこに新入りの取り乱しが起爆剤となり、収拾のつかない事態になる可能性だってあったのだ!」
「……でも、取り乱したのはあーしの落ち度じゃん」
「何を言う!死の可能性を伝えられて冷静でいられる方がおかしいのだ。某とて、最初は取り乱したものだぞ!」
その言葉を聞き、穂乃美の顔は驚愕に染まる。如何なる時も快活に笑っている彼が取り乱す様子など、想像もつかなかったのだ。
言葉を詰まらせる穂乃美に代わり、鳩助は言を続ける。
「前回、仲間が一人死んだのだ。久しぶりにな」
「!」
「そのせいで、皆の心の中は恐怖と絶望に満ちていたのだ。正直、いつ決壊してもおかしくない状況だった。某、内心ヒヤヒヤだったぞ!ふははっ!」
「笑い事じゃないし!?」
口を大きく開けて笑う鳩助を見て、呆れ顔になった穂乃美だったが。
「そうならなかったのは、君の能力のお陰なんだ」
その一言で、息が止まったかのような錯覚に陥った。
世界がスローモーションになる。言われた内容を上手く呑み込めず、脳が意味を一生懸命に咀嚼する。
口をポカンと開けたままの穂乃美を見て、口端を軽く吊り上げる鳩助。
「なぜ、君をフォローしたかと聞いたな。某の意思も勿論あるが……最悪のパターンを回避させてくれた、君への感謝心もあるのだ。『クレイドル』で一番してはならないのが仲間割れだからな!」
『クレイドル』において、プレイヤーが
それは、思考力がある点と、チームプレイができる点だ。
前者は言わずもがな、後者も必要な要素である。ただでさえ敵が強大すぎるデスゲームなのだから、人一人が挑んだところで敵う筈もない。
役割分担、精神の補強、行動力の上昇など、チームプレイの利点は多くある。一方で、仲間内での不和による精神の疲労などなど欠点もあるわけだが。
それを心得ている鳩助にとって、仲間割れを救ってくれた穂乃美は救世主であった。
「ありがとう。皆を助けてくれて」
「……い、意味わかんないし……あっ、くそ……い、今っ、こっち見たら絞め殺すからなっ……」
「ふははっ!怖い!」
穂乃美の声が微かに震えているのには気づいていたが、それを指摘するほど鳩助も野暮ではない。
…彼女とて、後悔していたのだ。
不安なのは全員同じはずなのに、自分の不安を他人に押し付けてしまったことに。
鳩助の言葉で、彼女の心がどれだけ救われたかは分からない。それは鳩助では計り知れないし、それを知ろうとするのもおかしな話だ。
「ふははっ!さぁ、有永君!走るぞっ!」
鳩助はそう言うと、ギアを一気に上げて雷鳴轟く廊下を走り抜けていく。
大声で笑いながら。
―――穂乃美の嗚咽を、掻き消すように。
「有永君!君はこれからも、多くの困難に当たることになるだろう!その時々で、君自身が持った能力を疎むかもしれない!だが!覚えていて欲しいのだ!」
「……」
「この世界で重要なのは、
「……っ!」
「悔やむ暇はないぞ!それ程に厳しい世界だ!苦しいだろう!悲しいだろう!寂しいだろう!それでも、何かを為そうとする意志は捨ててはならない!この世界の先輩からのアドバイスだ!」
声を張り上げて、鳩助は廊下を疾走する。綺麗なフォームではなかったが、力強い走りだった。
大きな背の上で揺さぶられる穂乃美がそれに返したのは、一言だけだ。
「……うっさい。耳、キンキンする」
「ふははっ!正論!」
廊下に、男の豪快な笑い声が響いた。
***
「いいか?!俺は変質者じゃないし、露出狂でもない!こういう格好なのは、そういう
「……変態っていう
「話聞いてたぁ?!」
頭にバンダナ、目にサングラス、顎にマスクに体にトレンチコートという服装をした男は、唾を飛ばしながら煌に突っ込む。
「そんなに俺の
スクリーンを表示させ、勢いよく手を振ってスライドさせる。それと同時、煌の前に男の
○測田勇人 ♂
○
・『千里順風』
ステージ内にいる者の足跡一万歩分を観測できる。但し、通過後三十分が経過した場合、足跡は失われる。
・『筋力補正D』
身体の各筋力パラーメータを任意で1.25倍にすることが可能。身体機能の補助効果がつく。
・『危機感知B』
意識外から迫る攻撃に対して通常時より敏感になる。
―――『
煌が今までに出会ってきたことのない
能力の一覧の中で目に留まったのは、『千里順風』の能力だ。
その違いは単に『その能力がその
ランクがついていない能力は
例えば、『千里順風』は
だが、特有であるからといって強いわけではない。『千里順風』の能力は一万歩分の
スクリーンに書かれた情報からそこまでを推察した時、煌の脳内に衝撃の稲妻が走った。
無意識下で見逃していた情報に戦慄し、口を細かく震わせる。
「
「おーしおし完全に切れたわキレちまったよ屋上行こうぜゴラァッッッ!!」
格好変質者――改め、測田勇人は親指で首を横切る水平線をピッと描く。こめかみに青筋を立てて口をひくつかせている辺り、割と怒り心頭らしい。
「じゃあよぉ!見たことねぇ変な格好してるお前はどうなんだよ!さぞかし立派な
「うわサイテー」
「……見たければどうぞ」
穂乃美がドン引きする中、ニヤニヤしながら値踏みするように煌のスクリーンを覗き込んだ勇人だったが、数秒後にはその顔は蒼白なものになる。
「……………………………ゴバイ?」
「あはは。圧倒的に負けてますね、勇人さん」
「……さんざん煽っといて……恥ずかしいなぁ、測田さん……最年長とは思えないです……」
「うぉお!?お前らいつの間に真後ろにッ!?」
白く固まって片言になった勇人の背後から、煌のスクリーンをひょっこり覗き込む影が二つ。
煌の視線に気づいたのか、咳払いを一つしてから二人が姿を現す。
現れたのは、二人の男性だ。
一人は、ほっそりとした長身の男。目つきは柔らかく、口は緩やかな曲線を描いている。雰囲気も目つき同様柔らかく、いかにも優男、といった印象だ。
赤のロゴマークの入った黄色の半袖上着に、半袖短パン、そしてサンダルといった出立ちで、片手には赤十字の紋章が入った白箱を提げている。おそらく救急箱だろう。頭には白いキャップを被り、首からはホイッスルを下げている。
そしてもう一人は、両目にかかる程に長い前髪を垂らした、物静かな少年。
特徴的なのは、その服装。中縹色のフード付きレインコートで全身をすっぽりと覆っている。銀のボタンで前を留めるタイプのレインコートで、革の質感で滑らかな表面が光を反射している。先端に銀ボタンが取り付けられた革紐が全身の所々を縛っており、傍目から見ると拘束具にも近い印象を受ける。とはいえ、本人が窮屈そうにしている感じはしないので、ファッションとしての役割を十二分に発揮しているようだ。
手に持っているのは、銀の籠を先から吊り下げた長い棒だ。籠の中には何も入っておらず、扉も付いていない。
服装もそうだが、顔がフードで暗くなっていることもあって、どこか人物像の掴みづらい少年だった。
「こんにちは、夜野君と言うんだね。あぁ、ここではこんばんは、と言うべきかな?僕の名前は橋倉葵だ。
スクリーンを表示させて、煌へとスライドする葵。
○
○
・『応急措置B』
『救急箱』…重傷まで治療可能。 1/1
『軟膏』…止血ができる。 2/2
・『筋力補正D』
身体の各筋力パラーメータを任意で1.25倍にすることが可能。身体機能の補助効果がつく。
「
「あはは。
「…いや、すみません」
「いいんだ。……力不足なのは、自分が一番分かっている」
「―――」
僅かに伏せたその目は物憂げで、まるで何かを悔やんでいるようであった。
ここは、死の世界だ。
その視線に気づいたのか、少年は慌てふためきながらもスクリーンを表示させる。
○墓瀬響也 ♂
○
・『降霊共鳴』
呼び鈴を合図に亡霊を呼び出す。亡霊には一回の召喚につき一回の誓願が可能。亡霊は召喚時、ステージ内に不規則に配置される。 2/3
・『霊媒共鳴』
亡霊に誓願をする権利を仲間内で共有する。
・『筋力補正C』
身体の各筋力パラーメータを任意で1.5倍にすることが可能。身体機能の補助効果がつく。
「
「そーそー!あれが亡霊ってヤツで、それをショーカンしたのがそこのインキョの
「なるほ……インキョ?」
「そ、インキョ!陰キャの響也だからインキョ!どーよ、いいネーミングセンスっしょ!」
「…………」
無言で響也を見ると、フードと前髪でただでさえ暗い顔が更に翳った気がした。僅かに覗いた目が死んだ魚のような目をしていたことから、もう諦めてしまっているのが分かる。彼も穂乃美に振り回される苦労人なのだろう。
「あ……さっきの、ってことは……亡霊、一回使ったんですね。じゃあ、忘れないうちに……次の、呼び出しときましょう」
途切れ途切れになりながら、響也は小声で呟くように話す。勇人に話しかけていた時はもう少し声が出ていたような気がするので、おそらく人見知りなのかもしれない。
手に持っていた特徴的な杖を縦に構え、少し息を吐く響也。
勇人が煌に手をかざし、後退するように無言で伝える。後退りをし、煌は背負っていた穂乃美を静かに降ろした。
コン、と杖の先端を地に軽く打ちつけると、周囲に急速な変化が起こる。
舞台の照明が落ちるように周囲が次第に暗くなり、雷鳴を合わせた環境音が遠くなったのだ。
それと同時に、響也の足元から蒼の靄が発生する。青白色に発光するそれは、それが煌達の足元を覆うほどに大量に湧き上がっていった。その様子は、水につけたドライアイスの煙を彷彿とさせるものだ。
続いて、響也は手に持った杖を一振りする。
何も入っていないはずの銀の檻から、シャラン、と澄んだ音が、何重にも重なって響いた。
すると、青白く輝く靄から煙が続々と立ち昇っていき、やがて人型を形成する。先程の蒼炎の時にも見た、マネキンのような姿だ。
靄から無数に現れたそれらは、響也を中心として、放射線状にゆっくりと歩き出した。響也からは離れていく形で、おもむろに、歩いていく。
優美に、優雅に。されど、荘厳に。
壁をも通り抜けていく発光する亡霊に、煌達は目を奪われていた。
音が遠のいた世界で起こった、青白色の幻。
それは各々の瞳に映り、感性の琴線をつま弾いていく。
「……凄い、な」
感情の揺らぎの乏しい煌ですら、目を奪われて動けなくなる程の絶景だ。他の三人にとっては見慣れた風景だが、それでも感動してしまう。
「……響也君はね。古くから代々継がれてきた、日本有数の大規模霊園の跡取り息子らしいんだ。それで、
「ほんとに綺麗なんだよなー!それに強いし……やっぱ、能力だけで言えば
―――ハト。
その言葉で、空気が凍り付いた気がした。
勇人と葵が顔をひきつらせる一方で、穂乃美はそれに気づいていないのか、嬉々として「ハト」の話を続ける。
「…穂乃美ちゃん」
「肉体面ではハトには負けちゃうけどさー。でも、インキョも意外と鍛え」
「おい!穂乃美!」
「……ぁ」
勇人に呼びかけられ、夢うつつの状態から現実に引き戻されたように、穂乃美の顔は段々と悲壮の色に染まっていった。
靄で青白く照らされる横顔を煌が横目で見ていると、穂乃美が消え入りそうな声で謝罪する。
「……ごめん。また、やっちった」
「……俺だって、好きでこういうこというんじゃねぇけどよ。さっきみたいな惨事は、もうごめんだぜ」
「…わかってるってば」
響也の鳴らす鈴の音だけが聞こえる静寂の世界。
二人は俯き気味で、やり取りを終えた。
煌が見ているのに感づき、葵が事情の説明をしようとする。が、煌は葵から目を逸らし、響也の方向に視線を固定した。
それは「説明しなくていい」という煌の無言の意思の表れ。そして、煌なりの気遣いだった。その意図を汲み取ったらしく、葵もまた視線を響也に向ける。
…最初から、分かっていたことだった。
煌が新たに編入される場合。
それはつまり、
煌がここに入ってきたのは、前回までは彼女らと一緒にいて、そして前回で死んだ人間が一人いるからだ。
それが分かっていてなお深堀りするのは、あまりに無神経だろう。
それから、数十秒程経っただろうか。
どうやら召喚の儀式が終わったらしく、コン、と響也が再び杖で地面を叩くと、靄も亡霊も一瞬で霧散した。一つ息を吐いて、響也は煌に向き直る。
「……終わりました。これで各所に亡霊が配置された筈です……一応、夜野さんの為に言っておきますが……亡霊に『誓願』できるのは一回だけ……権利を使った瞬間、ステージにいる全ての亡霊は消失して……『誓願』された亡霊も、目的を終えれば霧散します。一回使ったら、再召喚を今みたいにする必要があって……あと、複雑な命令とか無理難題は受理されません。基準は分かりづらいですが……受理されなくても、権利が消失するわけじゃないので……」
「例えば、『ポータルまで案内しろ』なら?」
「それは受理されますが……色まで指定すると、受理されません。……どのポータルに案内されるかは未知数です」
「……分かりました。じゃあ測田さん、能力を」
「え?お、おぉ……」
いきなり煌に話を振られたのに驚いたのか、目をばちくりさせる勇人。「俺、年上なんだけどなぁ…もうちょい、なんかこう、敬意をさ…」とぶつぶつ呟きながら、勇人は手を地に沿わせた。
「『千里順風』」
その台詞が
「ここを
「そうですか。…橋倉さん、有永さんの治療は」
「終わってるよ。救急箱を使ったから全快だ」
「上々です。それでは行動を開始しま―――」
「おい、ちょっと待てや」
最低限の状況確認を終わらせ、四人に行動を呼びかけた煌だったが、そこで待ったの声が掛かる。
億劫そうに振り返った煌に舌打ちして、声の張本人である測田勇人は腕組みし、指を突き出した。
「納得できねぇな!いきなり現れたクセして取り纏め役してるとか、やっぱ納得できねぇ!ご、五倍……かなんか知らねぇけどよ!そもそも、お前何歳だよ!『クレイドル』での経験が少ない奴に指揮を任せてられるか!」
「おや、
「センパイ風吹かせてんじゃねーよ」
「……自分が難癖、つけたいだけですよね」
半目で見つめてくる三人の言い分に、うぐっ、と喉を唸らせる勇人。どうやら図星だったらしい。暫く目を逸らしていたが、吹っ切れたように再び煌に突っかかる。
「うるせーやい!お前らだって良いのかよ、こんな得体の知れない奴にホイホイついて行って!それに忘れたのか!?コイツの
「……それは、たしかに」
苦し紛れだが、しかし的を射ている発言に、今度は響也が唸った。顎に手を当て、思考を始める響也。煌の評価を定めあぐねているのだろう。
一連のやり取りを見ていた煌が、静かに勇人の質問に答える。
「……俺は十六歳です。多分、この中で最年少だ」
「は?十六……ってことは、俺の六コ下か!?嘘だろ!?」
煌の解答に意表を突かれ、目を見開く四人。
なぜなら場にいる全員が、煌は20歳は行っていると思っていたからだ。
そう思わざるを得ないほどに煌は成熟しており、濃密な存在感を放っていた。
そして、最も彼の年齢を誤解させる要素。
それは、彼が身に纏う雰囲気。
冷静な態度では隠しきれない、溢れ出る張り詰めた負のオーラ。
同時に、彼らは息を呑んだ。
彼が十六という齢でその境地に至るまでに、どれほどの『地獄』を見てきたのか。その見当が、一切つかなかったから。
冷や汗をかく四人の顔を、迸った雷が白く染め上げ。
『キシシッ』
―――不協和音のような不快さを持った声が、五人の耳朶を打った。
(ひっ!)
(今の…!)
(ヤバ!見つかった?!)
(ど、どこに…!)
(……)
雷鳴に紛れて響いた醜悪な声に、五人全員がすぐさま反応し、その声の出所を探る。
その姿を捉えるのに、時間はかからなかった。
大きな硝子窓の向こうで雷鳴が轟いている、だだっ広い廊下の先。
そこに、一つの影が立っている。
高い背丈に、全身を覆う黒い襤褸の外套。そして外套を着てもなお細すぎる、体のライン。
外套の隙間から伸びる異常なまでに細い腕で握るのは、槍のような形状の杖。
その顔は蒼白で、口元まで裂けた唇を気味悪い曲線型に曲げた、棺桶を背負って直立する歪なシルエットの怪物。
なるほど、『吸血鬼』とはよく言ったものだ。的確なイメージと言える。
世の醜悪を詰め込んだような外見の生物は、一体しかいない。
プレイヤーの命を狩りに、ステージを闊歩する怪物。
紛れもなく、それは『
「――――ッッッ!逃げるぞ、みんな!」
踵を返し、駆け出した四人とは対照的に。
動かない人間が、一人いた。
「
異形の怪物を前に、煌は逃げることなく対峙する。
「ば……バカかお前ッ!早く逃げるぞ!」
「…貴方達に伝え忘れていたことがあります」
「はぁ!?なんだよいきなり―――」
動かない煌に苛立った勇人が、その腕を掴み取ろうとした瞬間。
煌は、四人にとって衝撃的な事実を述べる。
「条件さえ整えば―――
「「「「……は?!」」」」
煌の爆弾発言に、三人は硬直する他無かった。
***
有永穂乃美…18歳
墓瀬響也…18歳
橋倉葵…19歳
測田勇人…22歳
New! 夜野煌…16歳
***
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