ⅩⅩⅥ 輸送船の罠
ⅩⅩⅥ 輸送船の罠(1)
「――なるほどな。船体をまるごと銅板で覆っちまうってか」
「はい。しかもソロモン王の72柱の悪魔序列43番・堕落の侯爵サブノックによる要塞化の力で魔術的武装も施したものです。これなら二、三発砲弾を食らってもビクともしませんし、
その日の朝、僕はレヴィアタン号の船長室で、思いついた船の改造案についてキッドマンに相談をしていた。
「船が頑丈になるんなら俺は大賛成だ。どうせ俺の船になるんだしな」
一味の海賊船に関わることなので、もう一人、航海士兼副船長のロンパルドさんもこの場にいて、また叛意だだ漏れながらも僕の案に賛同してくれる。
「よし。そんならおめえのいうように改修してみるか。エドガーとも相談だが、かかる金はたぶんすぐに用意できんだろう」
「ありがとうございます。あともう一つ。この前、島を散策してて見つけたんですが、ちょっと外れの岬に古い放置された要塞みたいなのがあるんです。おそらくは島の要塞化が始まった初期に造られたものだろうけど、陸路じゃ行き来に不便なんで打ち捨てられたんでしょうね」
ロンパルドさんに続いてキッドマンにも快諾してもらったので、ついでにもう一つ、僕の思いついた一味の生活改善案を彼らに提案する。
「ま、そんな立地なんで今は誰も見向きもしませんが、調べてみると岬の岸壁に海へと開いた大きな洞窟があって、これを整備して上の要塞と繋げれば、船もつけられるいい隠れ家になると思うんですよ」
「つまりなにか、その要塞を我ら一味のアジトにしろと?」
そこまで話すと、察しのいいロンパルドさんがそう言って合いの手を入れた。
「さすがロンパルドさん、話が早い! その通りです。今もこうして船上生活をしてますが、天下のキッドマン一味がずっとアジトもないってわけにはいかないでしょう?」
ロンパルドさんがいい流れを作ってくれたので、僕はその好機を逃さず、早々、さらに話を前へ進める。
「奪ったお宝の保管も今は〝ケダー・マーハイター号〟を倉庫代わりに使ってますが、昨今は新顔の海賊も台頭してきて、
「うーん……言いてえことはわからんでもねえが、やっぱりこの船での暮らしが気に入ってるからなあ……それにこの方が獲物の現れた時に速攻動けるし……」
しかし、思っていた通りではあったが、キッドマンはこのアジトの建造案に乗り気ではない様子だ。
「じゃあ、百歩譲ってせめてお宝の収蔵場所に使うだけでも…」
それでも、ハイエナの如き海賊達のひしめき合う、この港にお宝を置いておくことには前々から危うさを感じていたので、僕はなおも食い下がって譲歩案を出そうとしたのであるが……。
「キッドマン! サント・ミゲルに停泊していたエルドラニアの正規輸送船が一隻、本国へ向けて出航したとの情報が入った。船種は大型ガレオンで、おそらく積荷は銀!」
突然、ドン! ドン…! と、けたたましくドアがノックされたかと思うと、返事も待たずに会計士エドガーさんが入ってきて、やや興奮気味な様子で僕らにそう告げた。
「軍艦クラスの重武装が施されガレオンなんで、皆、二の足を踏んでまだ動いた者はいない。かなり難しい獲物だが、その分、実入りはデカイ。どうする?」
「銀か……そいつは確かに魅力的だな……ま、いつもの煙幕戦法を使って船に乗り込めりゃあ、いくら軍艦クラスだろうと勝ち目はなくもねえか……」
エドガーさんに尋ねられ、腕を組んだキッドマンはブツブツと独り呟きながら、獲物の旨味とそれに伴う危険度の狭間でしばしあれこれと考えを巡らす。
「なにを迷うキッドマン? 他のやつらが手を出していない今が絶好のチャンスだぞ! 急がなければ先を越される。もし貴様が臆病風にでも吹かれようものなら、船員一同、貴様を追放して俺が船長になるからな!」
そんな悩むキッドマンに、ロンパルドさんもやはりどこか興奮した様子で、またも叛乱をチラつかせながら
新天地の鉱山からもたらさる莫大な銀は、エルドラニア本国へと運ばれる輸送品の中でも最も重要な産物である。エドガーさんの話が本当ならば、そのガレオンの船倉には大量の銀の
大きな船いっぱいの銀……確かに少々の危険を冒してでも手に入れたくなる魅力的な獲物だろう。
「ハン! 誰がんな風に吹かれるかよ。こんな旨そうな獲物目の前にして、見逃がすなんざキッドマン一味の名が泣かあ。よーし! すぐに出航だ! 寝てるやつぁ叩き起こせ!」
ロンパルドさんに急かされたこともあり、ついにキッドマンは判断を下すと僕らに号令をかけた。
「そうこなくてはな。これがうまくいけば、しばらくは遊んで暮らせるぞ」
「フン! 命拾いしたな。船長の座から引きづり下ろせずに残念だ」
エドガーさんとロンパルドさんの二人は、それぞれに独り言を呟きながら、出航準備のために慌ただしく船長室を後にしてゆく。
「マルク、てなわけで話の続きはまた今度だ。 今回も〝煙幕戦法で〟いく。相手が相手なんで念のため、おめえもいつもの如く悪魔の力で援護を頼むぜ」
続けてキッドマンは僕にもそう指示を出すと、自身も壁にかけてあったカットラスと短銃を引っ掴んで外へと早足で向かう。
「あ、はい!…ってか、アイアイサー! よーし、これは久々に大仕事だぞう……」
突然振られたので変な返事になりつつも、僕も気合を入れるとその後に従った――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます