小学校 3
放課後、カウンセラーとして小学校に潜入したルミ子は早速、四年二組のクラスの調査に向かった。クラスの噂では太田君の霊が窓際に現れるらしい。実際、太田君はこの教室の窓から落ちて亡くなったそうだが、生徒には伏せられているそうだ。にもかかわらず、亡くなった現場に現れるのだから彼の
教室にはまだ女子が四人残って雑談をしていたが、教室に入ってきたルミ子を見て慌てて帰り支度をし始めた。普段からあまり素行が良くないのだろうか、大人への警戒心が強いようだ。
「アタシは先生じゃないんだから、遅くまで残ってても別に怒りはしないわよ。それより、丁度よかった。聞きたいことがあるんだけど、いいかしら」
女子生徒たちは安心したのか、背負いかけたランドセルを再び机の上に置き、あるものは椅子、あるものは机の上に座り、随分リラックスした体制になった。
「いいけど、あたしらが残ってるの片桐にチクんない?」
「そうね、いいわよ。ただ、
女子生徒は心底面倒くさそうな顔をしたが、ルミ子は構わず質問をした。
「アンタたちは幽霊を見た?」
「今話してたところだよ。昨日この子が見たんだよ、なあ、
「あ、うん……」
佐知と呼ばれた女の子は、四人組の中で明らかに一人だけ浮いていた。小学生ながらメイクをし、スカートの丈も明らかに短く、おそらく髪も茶髪に染めているだろう三人と違い、おかっぱ頭に黒縁眼鏡、いかにも大人しそうな印象だ。
「佐知ちゃん、そのおばけについて詳しく話せる?」
佐知はうなずくと、事の仔細について語りだした。
「はじめまして、ルミ子さん。私、
「あんた、見た目の割になかなか度胸あるわね」
「あ、ありがとうございます。え、褒められているんですよね? まあ、そんなことより話を続けます。確か夜の八時くらいでしたが、警備員にも見つかることなく教室までたどり着けました。私はできるだけ慎重に、かつ迅速に事を為すために静かに教室のドアを開けようとしましたが、開きません。そうです、教室には当然ですが、鍵がかかっていたのです。わざわざ苦労してきたのに、全くの無駄骨でした。まあ、金魚ちゃんも一日くらい餌をやり忘れたところで死にはしないでしょう。そんなことは分かっていました。私はただ、日々のルーティーンが乱れることを恐れていただけでした。それは鼻緒が切れたとか、黒猫が横切ったとか、非日常の前触れのような、そんな迷信じみた心配事でした」
「教室に入れなかったの? じゃあどこでおばけを見たのよ」
「まってください、ここからです。私は諦めて帰ろうと思ったんですが、一応、金魚の無事を確認したくて廊下側の窓から携帯電話のライトを当てて教室の中を見回したんです。金魚の水槽は教室の後ろにあります。水槽は月明かりにさらされ、その中を四匹の金魚が優雅に泳いでいました。それはとても綺麗で少しばかり見惚れていました。そんな時、大きな声が聞こえたんです」
やめろ
「やめろ? そう聞こえたの?」
「はい。はっきりと。それで、太田君の霊が見えるという窓を咄嗟に見ました。私、オカルトのたぐいは全く信じてなかったので、夜の学校にも平気で侵入できたのですが、この時ばかりは恐怖しました。窓枠に太田君が座っていたのです。ニコニコと笑いながら。そして、笑いながら、後ろに転がって落ちていったんです」
「笑いながら後ろに落ちたのね。なるほど、ありがとう」
太田君は後頭部から落下した。ルミ子は片桐から教えられていたが、生徒が知る筈もない。とすれば、やはりこの佐知という子や他の人が見た霊は太田君のこだまで間違いないのだろうか。しかし、疑問が一つ残る。
「確かに笑っていたのね」
「はい、教室は暗かったですが、はっきり見えました」
もし、太田君のこだまなら、この霊が本人の残留思念である場合、顔がはっきりしないものだった。自分の顔は自分には見えていないからだ。もう一つ、気になる点がある。
ルミ子が思考をめぐらしていると、おもむろに佐知が口を開いた。
「みんな言ってます。太田君は自殺したって。藤井君のせいだって!」
真っ直ぐな瞳は正義の炎を宿していた。佐知だけではない、他の三人も同じ目をしていた。ルミ子は彼女等が裁判官であり、執行官であると気付いた。この事件、急いで真相を究明しなくては、別の犠牲者が出るかもしれない……。
鬼村ルミ子の怪奇報告書 オカルトルポルタージュ 黒川 月 @napolitan07
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